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倖は大きくため息をつきながら、再び空を仰いだ。
いい天気だ。
今日は、いい日になるはずだったのに。
そんな倖を見かねたのか、ポンと膝を打って柴田がいう。
「かと言って、2年ちょいも探してたんだろ?彼女のこと。そんな簡単に諦めきれんだろ。」
「まぁなー。」
気分的にはもうどうでもよくなってきているのだが、電車で見かけた彼女のことを思うと今でも胸がきゅっとなるのが正直なところだ。
「でもさー、もう、俺どーしていーかさー。」
空を見上げたままやる気なさそーに、倖が返事する。
「いや、でも昨日たまたま親戚が泊まりにきてたかもしんないじゃん?引っ越し手伝いにーとか。それを言ったら、ほら、いとことか友達が手伝いにーとか。いろいろ考えられるんじゃない?」
「……なるほど。」
空から柴田に視線を戻し大きく目を見開いて倖は頷く。
彼女=林田りん、の図式が崩れる可能性が少しでもあるのならそれに縋ってみたい。
「林田さんに聞いてみればいんじゃない?」
「……どーやって?お前聞いてくる?」
「……それくらい自分で聞けよ。いとこいるかって聞きなよ。」
「あー、おー。がんばる。」
話しかけるのも何だか憂うつだが、仕方ない。
眼鏡で根暗なんてマニアックな男ならどストライクなのだろうけど。外見と雰囲気からして面倒くさそうな性格してそうだし、苦手なカテゴリーにいる女の匂いがプンプンする。
倖は転がっていたパンに手を伸ばし気合いを入れるために大きくかぶりついたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
痛い。
林田りんは視線を感じてノートを取る手を止めた。
視線は後ろからだ。そう、わかっている。ナナメ2つ後ろの席からだ。
転校してきたばかりの高校でろくに友達もおらず、はて、どうやってすでに出来ている友達の輪の中へ入ろうかと悩んだ先の一週間。
土日を挟み、また一週間がんばろうと気合いを入れて登校したのが一昨日の月曜日。
今日で三日目だ。
りんはゆっくりと少しだけ首を動かしてちらりと後方を見やる。
ほら、みてる。
まるでホラーだが、まぁ、見てる、というよりもこれはガンをとばされてる、といった方が正解という気がする。
なぜ急に、この金髪ヤンキー風の倖君にガンをとばされ始めたのだろう。
この3日間、はっと視線を感じると、だいたい睨みつけてくる倖と目が合うのだ。目があって視線を反らすかと思いきや、彼は居直ったように更に睨みつけてくる。
それは教室に入ったところから始まり下校して正門から見えなくなるまで、執拗に日に何度となく続いた。
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