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はやしだ、林田さん、だろうか。
怪しまれないように一度通り過ぎ、すぐのT字路の角に身を隠した。時刻は夕方6時をまわったところだった。
犬の散歩をしている学生やら買い物帰りのばあさんなどが通りすぎていくのを横目で見ながらスマホをいじる振りをする。
よし、自宅はつきとめた。
にやける口元を隠しつつこれからのことを思案する。
さて、どうやって接触しようか。
欲を言えば自宅付近で出会いを装うより、彼女の学校、例えば通学途中で出会ったほうが自然な気がする。
高校生だろうか、中学生だろうか。
高校生だったらいいな。
……どこの学校に通っているのだろうか。
ブロック塀から覗き見ながら、あれこれと策を練るがどれもイマイチだった。
手っ取り早く通っている学校を知るには。
そう、この手しかない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「おはようございまーす!」
倖は早朝にジョギングしている元気のよいおじさんに元気よく声をかけられ、びくっとしつつ会釈を返した。
スポーツウェアに身をつつみ爽やかに走り去ってゆくおじさんの背中を注視しながら倖は大きくため息をついた。
これで何人目だ。
朝5時に林田家に到着してから、すでに数人のジョガーに挨拶されている。こういう場合、声もかけずに素通りするのが普通なのではないだろうか。
たとえ相手がブロック塀のそばに立ち尽くしている明らかな不審者であろうとも。この地域の挨拶運動と防犯意識の高さには驚かされる。
彼女が出てくる前に通報されるかもしれない。
冷や汗を垂らしながら、早く出てこい、と玄関先を睨んだ。
時間は6時30分をまわっている。
そろそろ出てくるのではないか。否が応にも高なる鼓動。心臓が痛いくらいだ。
2人目に声をかけられた人の良さそうなおばあさんに、倖は林田家のことをそれとなく聞いて身辺調査はすんでいる。
先週越してきたばかりの3人家族。
両親と、高校生の女の子が1人。
女の子が1人。
よし、わかりやすい。
年の近いよく似た姉妹とかだったら、どっちが彼女かわかるだろうか、と心配していたのだ。さすがに母親と間違うことはないだろう。
まだかまだかとやきもきしながら待っていると、がちゃりと扉の開く音がした。
来た!
慌ててブロック塀に身を隠す。駅に向かうなら、こちらに来る。
トコトコと軽い足音が聞こえ、すぐに彼女は角から姿をあらわした。
顔は見えなかったけれど、その制服は。
見覚えのあるシャツと紺のチェックのヒダスカート、エンジと紺の縞模様が入ったリボンが風に揺れる。彼女が着ているその制服は、そう、倖の通う学校の制服だったのだから。
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