その2
何度も繰り返すが、烏有周は一般人である。話題の悪役令嬢でもなければ、ヒロインの友人役ですらない。名は体を表すとはよく言ったものだ。
それでも情報収集を行う内に、ある程度の背景は把握出来た。そもそも転生しておいて「なんと、ストーリーとは無関係な時代でした!」なんてオチは、オタクとして許せないだろう。そう言う訳で改めて照らし合わせてみると、幸か不幸か、烏有周と玲愛嬢は一歳差、しかもこちらの方が年上ときたものだ。つまり記憶を取り戻した当時、玲愛嬢は四歳ということになる。
過去に色々あれど、本編が始まるのはここから十二年後のこと。それを確認したところで私はまず、烏有周としての身の振り方を考えていた。
原作ファンとしては「この神シナリオを生で観たい!」なんて、下心丸出しの欲望を掲げてしまいたくなるが……悲しい哉。根が陰キャなので、APP18以上の集団と仲良くなれる自信がまるで無い。精々、伝書鳩が良いところだ。
ならばここは大人しく、それこそモブらしく本来の役割を全うするべきなのだろう。と言うか、普通の乙女ゲームならば私もそうしていた。しかし前述した通り、この世界は滅亡する運命にある。それは生命の死であり、文明の死であり、物語の死に等しい。分かりきっていたことだが、私たちに未来は無い。
──そう、私たち。
自分ひとりの問題なら、まだ覚悟は出来る。だが、天秤に乗っているのは全人類の命。未来を知っていて何もしないと言うのは、流石に良心が痛んだ。オタクの願望より、人間としての理性が勝った瞬間である。
それでは世界を救うべく、私は何をするべきなのか。幸い前世ではハピエン厨のオタクを生業としていたので、バッドエンド回避の方法はいくらでも思い付いていた。最初に、ヒロインである蘇芳玲愛。彼女のターニングポイントを潰すことが先決である。
玲愛嬢のターニングポイントこと、至純の儀。前述の通り、この儀式を迎えるまでにはいくつかの通過点がある。
その一、実の両親の喪失。
その二、裕福な家庭への引き取り。
その三、教団への接触。
そしてその四、儀式当日。
正直に言って、その一とその二への介入は難しい。具体的な時期も不明な上、そもそも阻止の仕様がない。そうなれば必然的に、玲愛嬢本人より教団そのものをどうにかした方が手っ取り早いだろう。いやむしろ、あんな教団潰れた方が世のため人のためになる。
だから六歳になった烏有周は、手始めに受話器を手に取った。信頼できる機関──警察へ相談しようとしたのである。
これは舞台設定が現代であったのも大きい。大人の力を借りてしまえと、あの時の私は意気揚々と電話を掛けた。が、しかし。
「あの、月桂樹の塔というところで女の子が……いえ、まだ事件とかじゃなくて。これから起こること──あ、やっぱり大丈夫です」
冷静に考えてみよう。未来に起こること(子供の言うことなら尚のこと)なんて、信憑性の欠片もない情報源だ。ましてや、あちらの表向きは宗教法人団体。余程のことがない限り、警察だって相手にはしたくない筈だ。
鬱ゲーあるある「最初から警察に頼れば、もしかしたら万事解決ではないか」作戦、失敗。
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