第1話 ハピエン厨 in 鬱ゲー

その1

 それでは改めて自己紹介、もとい今世紹介をさせていただこう。

 姓は烏有、名は周。ごくごく普通の一般家庭で生まれた、ごくごく普通の女の子。所謂、一般人モブ。それが今世の私である。まぁ、前世の記憶がある時点で“普通”とは言い難いのだが、そこは目を瞑っていただきたい。


 そんな彼女が生まれた世界、蝋翼のワールドエンドは、現代もしくは近未来を舞台としたゲームである。文明レベルとしては前世に近いため、これが俗に言う異世界転生だと気付くには時間が掛かった。記憶が戻った当時(恐らく五歳くらいだろうか)、「早すぎる輪廻転生だなぁ」くらいの感覚で居たのも大きい。楽観主義も考えものである。


 ならば一体どこで、いつ、これがゲームの世界だと気付いたのか。満を持して、よくエンの世界観説明と洒落込もう。


 よくエンと前世の相違点。その違いは幾つか存在するが、やはり最初に語るべきなのは『異相界いそうかい』と呼ばれる別世界のことだろう。この世でたった一つしかない出入り口『ゲート』を介し、二つの世界は古より親交を深めてきた。


 これは世界中から認知されている出来事であり、異相界については義務教育でも扱われる。だから気付く、と言うか、気付かされること自体は簡単だった訳だ。


 そして件の門が存在する場所こそ、ヒロイン及び烏有周が住まう『神無月かんなづき市』。この街と異相界のとある国を舞台に、ヒロインは六人の登場人物と出会うことになる。


 各ルートがどんな結末を迎えるかは、追々語るとして。まずは最重要人物ことヒロインについて触れておこう。


 デフォルト名・蘇芳玲愛。

「深窓の令嬢」「薄幸の美少女」「真のラスボスはこいつ」等々、前世では様々な呼ばれ方をしていた彼女だが、その幼少期は苛烈を極める。


 早くに両親を亡くし孤児院に預けられた玲愛嬢は、その有り余る可愛さ故、五歳の時にとある裕福な家庭へと引き取られることになる。そこでの生活は割と楽しかったらしい(独白ではそう言っていた)のだが、問題はその家主が、かなり危ない宗教にハマっていたことである。


 新興宗教団『月桂樹げっけいじゅの塔』。

 家主が傾倒していた宗教団体の名前であり、よくエン一個目の鬱要素とも言える。

 何故、どうして、ホワイ。乙女ゲームに新興宗教が絡んでくる理由がさっぱり分からないのだが、ここで躓いてはこの先も保たない。話を進めよう。


 ある日のこと。彼女は家主に連れられ、この教団に顔を出すことになる。そしてその美しさ故、『神の愛娘』という役割を与えられてしまうのだ。


 当然、家主は大喜び。「次なる教祖様はお前だ」と、玲愛嬢も訳の分からぬまま喜んだことだろう。しかし十四歳の誕生日、彼女の世界は一変する。


至純しじゅんの儀』。よくエン第二の鬱要素かつ、蘇芳玲愛という人間のターニングポイント。


 端的に言えば儀式、なのだが。勿体ぶっても仕方がないので、ここからは簡潔に述べていこう。


 この儀式で玲愛嬢は処女を喪失。

 ↓

 更には怪しげな薬の投与で異能力が発生。

 ↓

 その力で数々の殺人に手を貸す。

 ↓

 自分が生まれてきたことを後悔する。

 ↓

 世界滅亡エンドに至る。以上、証明終了。


 ……いや、ボケている場合ではない。場合ではないのだが、プレイ当時は笑うしかない設定だったのだ。許してほしい。


 この過去はとある人物の独白として語られるのだが、没入感が重要であろうシミュレーションゲームにおいて、ここまでハードな内容を提示するのは中々に珍しい。レーティングDの称号は伊達ではないということか。


 しかし所詮は、過去の出来事。どうすることも出来なかった、言わば後悔として語られるしかないお話。


 さて、長い前置きはここで終わり。今から話すのは史実でも何でもないオタクの自分語りであり、何よりハピエン厨プレゼンツであることをご了承いただきたい。

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