第2話

 コーラを2本買って家に戻ると、Aはすっかり落ち着きを取り戻していた。


「さっきはごめんな。取り乱しちゃって悪かった。」


「いや、いいよ。僕もちょっと冷静じゃなかったし。」


「誰にも言ったことなくてさ。話せただけでスッキリしたよ。信じてくれなくていいから。聞いてくれてありがとな。」


「全然全然。その話さ、よければもう少し詳しく聞いてもいい?」


「もちろん。でも何話せばいいかな。なんか質問とかあれば答えるけど。」


「食べるって言ってたじゃん?そもそもなんで食べようと思ったの?」


「実は去年亡くなった俺のじいちゃんが食べててさ。2年前じいちゃんにその話聞いてから俺も何故か急に数字が見えるようになって。それで一緒に食べてたんだよね。」


「えぇっ。数字見えるのお前だけじゃなかったんだ。」


「おぅ。じいちゃんの話だと他にもいたらしいよ。何人かとは一緒に食べたことあるらしいし。」


「へーっ。じゃあ世の中に結構いるんだな。」


「俺はじいちゃんの影響で生で食べる派だけど、中には煮たり焼いたり蒸したりして食べる人もいるって聞いた。」


「めっちゃバリエーションあるんじゃん!でもさ、美味しいの?飛んでるっていうから今僕の中では虫みたいなイメージなんだけど。」


「いや全然虫じゃなくて普通に美味い。なんて言えばいいかな。例えようがないんだけど。なんかこう…外側はわりとプルプルで中は結構ジューシー、って感じ?」


「うーん全然わからん。想像つかないよ。味は?」


「味はほんのりなんだよね。そんなはっきりした味ではない。あと数字によって味が違うから。」


「3は?3は何味?」


「3はベリー系だね。人によって感じ方は若干違うと思うけど、俺的には完全ベリー。」


「じゃあ2は?」


「メロンっぽい感じ。キュウリっぽいのもいる。」


「7は?」


「7はムズイんだよ。なんかちょっとスーッとする感じの。あれハッカっていうのかな?」


「わーマジか!これすごいことじゃない?半信半疑だったけど僕信じる!本当なんだなってなんかわかったわ!うわー!僕も食べてみてー!!」


 なんだか変にテンションが上がって昂った気持ちのままに上体を倒し、勢いよく天井を仰いだその時だった。


「ん?…なんだ、あれ。」


 少し上を飛んでいる"それ"を、僕ははっきりと見てしまった。


「なぁA。さっき僕の部屋に飛んでるって言ってた数字ってさ。一つは5だったりする?」


「あぁ、キッチンの方が5でお前の近くにいたのが8だったけど。なんでわかったんだ?…お前まさか!?」


「どうやらそのまさかだ。なんでだかわかんないけど僕にも見えるようになったらしい。」


「うぉー!やったぞ!やっぱりお前なら大丈夫だと思ってたんだ。」


「えっどういうこと?」


「根拠はなかったけど俺が見えるようになったのはじいちゃんに話を聞いて、それを信じたからじゃないかと思ってさ。実は兄貴も一緒に話を聞いてたんだけど全然信じてなかったし、もちろん未だに見えてないみたいで。」


「じゃあ何?僕をお前と同じ数字が見える人間にする為に僕にこの話をしたってこと?」


「じいちゃん死んでから仲間がいなくて寂しくてさ。一人で食べるのもなんか味気なくて。でも気を悪くしないでくれ。数字はマジで美味いから!だから一番仲の良いお前を選んだんだ!絶対後悔はさせないから許してくれ。」


「ま、ちょうど食べたいなって思ってたしいいよ。不思議体験ってのにも憧れあったしね。」


「やっぱお前を選んで正解だった!じゃ早速食べようぜ!」


「よし!でもどうすりゃいいの?捕まえる?」


「いや。こうやって優しく手を近づけると…。」


「自らやってきた!?えっ、手のひらに乗ると死ぬの?」


「死ぬ、っていうか触れるとただの数字に戻るって感じ。」


「たしかに急に物っぽいというか、さっきまで生きてた感は全然ないね。」


「だろ?でここにこれを…。」


 そう言いながらAは割り箸についてた爪楊枝を「5」にブチッと刺した。


「おぉ、そんな感じでいくんだ。」


 残酷に思うかもしれないが、不思議とそこに「生き物を串刺し」的な雰囲気は一切なく、本当にAの言う通り毎日の中でよく見るただの数字に爪楊枝が刺さってるってだけの妙な光景だった。


「うん。これはもうこのまま一気にいけるから。ぜひ味わってみてくれ!」


「あっじゃあ遠慮なく。いただきまーす!」


 未知のものを口に入れるドキドキなんていつぶりだろう。興奮と緊張でやたら胸が高鳴った。


パクッ。


「…!!!!」


モグモグモグモグ、ゴックン。



 それから僕はAとともにたくさんの数字を食べた。夢中になってあちこち探しては食べまくったので、「1」〜「9」までの数字の味は1週間もしないうちに経験済みとなった。それだけじゃない。なんと3週間後には超レアって言われてる「0」まで見つけ出し、美味しくいただくことができたのだ。この世にこんなにも美味しいものがあったなんて!数字って最高!!今はすっかりそんな風に思っている。


 

 生まれて初めて食べた「5」の味は一体どんなだったと思う?その他の数字はどんな味がすると思う?


 

 君もこの話を聞いたってことはもしかするともしかするかもしれないよ。まわりを見わたして、もし飛んでる"それ"が見えたなら、ぜひ手を伸ばして食べてみてほしい。


 この世のものとは思えないその魅惑の味にきっと君も驚くはずだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

美味しい数字 星るるめ @meru0369ymyr

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ