第2章 初めての100迷宮と愛、そして脅迫

第16話 そこは妖の世界だった。

「………、奈良?京都?いや、どっちとも違うけど、そんな感じだな。」



 黒い沼地のエリアを抜け、迷宮へと侵入した悟が見たもの。

 それは、日本古風で古そうな寺や神社、そしてその他の色々ないかにも古そうな建物が数多くある場所だった。

 尚、地面はごく浅い沼地のようになっていて、一面少しくすんだエメラルドグリーンで、風情を感じさせる色合いである。



「何か、まるで日本昔ばなしの中に入ったみたいだな。」



 大して日本昔ばなしに詳しいわけでもない悟は、趣深い景色に感動しながらも、そんな感想を抱いていた。



 そのまましばらく入り口付近で景色を眺めていた悟だったが、何かを発見したのか、一直線に歩き出した。



「……これ、井戸だよな?飲めるのか?」



 実は悟がインベントリに入れてきた飲み水は2日前に尽きてしまったのである。この2日間、喉が渇いても黒カエルを食べて、その水分を補給することで、乾きをしないでいたのだ。

 そのため、悟にとって、この井戸から飲み水を得られるかどうかはかなり重要なことであった。

 悟は、飲めればいいなと思いながら井戸の中を覗き込んだ。



「全く中が見えないな。まあ、とりあえずこの縄を引いてみるしか無いか。よいしょっと。」



 悟は井戸にあった、桶が括りつけられているはずの縄を引く。すると突然、井戸の中から、か細い女性の声が聞こえてきた。

 悟はスキルを発動し、警戒しながら縄を引き続ける。



「いちまぁい、にまぁい、さんまぁい、よんまぁい、ご———————」



「……おいおい、NPCはいないとか言ってなかったっけ?人型モンスターとか、勘弁してくれよ。……まあ、確認するだけ、確認しようかな。」



 とは言いつつも、水が得られるかどうか、それを確認せずに退散することは、悟には出来なかった。



「きゅうまぁい………あれ、一枚足りない………」



 悟が桶を井戸から引き上げると同時に桶の中から現れた、黒い長髪の日本人形のようなモンスターの目と、最大限の警戒を続ける悟の目が合った。

 


「…………………。」



「……………いや、君、人形なんかい。良かったよ、リアルな人型モンスターじゃなくて。」



「……一枚足りなアアアアアアアアアィイイ!!」



「うるさい。皿投げんな。」



「ギャアアアアアアア………」



 人形のモンスター(皿屋敷)は、どこからともなく取り出した大皿を悟に投げつけ、攻撃しようとしてきた。

 しかし、警戒を続けていた悟の前には無意味であり、大皿を難なくかわした悟に、そのまま首を落とされ、あえなく撃沈した。



「ふう、これ、他の井戸も同じとかないよな?だとしたら何か嫌だな。まあ、とにかく水だ水。」



 悟はもう一度桶を下ろし、引き上げる。



「おっ、入ってる入ってる。………飲めるな。良かった。」



 水が入ってるのを見た悟は、少し水を観察した後すぐにそれを口に入れ、飲んでみた。

 普通はそんなものをすぐに飲もうとはしないのだろうが、この世界に来てから、悟はかなりワイルドになっていた。

 まあ、悟としては、そうせざるを得ない上、そもそもこの世界はゲームの世界だし、魔力の補助もあるから大抵のことはなんとかなるだろうと考えてのことではあるが。



 ともあれ、これで当面の水分は確保された。悟は空になった大量の容器に水を満杯まで入れ、2階層へと続く扉の捜索を始めた。



 しばらくして、寺や神社が立ち並ぶ地帯を探索していた悟の前に、モンスターが現れた。



「なるほどね。この迷宮のモンスターのテーマは妖怪ってとこか。しかし、こんなリアルにカッパが動いてるところを見ることになるなんてな。とりあえず………皿、割ってみるか。」



 そう、現れたのは全身濃い緑色で、頭頂部に真っ白な皿がある、身長1メートル程の細身の妖怪、カッパであった。



「おっと、中々速いな。だが、まあ、あのボスガエルと比べるとな……よっと。」



バリンッ!



「ギイィュユアアアアアアァァ………」



「いや、楽勝すぎんだろ。」



 どうやらカッパは速さに特化したモンスターなのか、初心者迷宮30階層の親衛隊アリと比べると、2倍以上も速い動きで襲ってくるカッパではあるが、大量の白狼と黒カエルを食らい、また大量の黒カエル&ボスガエルとの戦闘経験を積んだ悟の敵ではなかった。

 カッパの攻撃をかわし、ハンマーのような武器で皿をかち割る。

 見た目通り、そこが弱点であったのだろう。皿を割られたカッパは絶叫して倒れ、戦闘終了である。



 そこで、一つ。

 重大な問題な発生する。



「……こいつ、食えるんだろうか?」



 それすなわち、「カッパは食べられるのか問題」である。

 多くの人がそんなん食べなきゃいいじゃないかと思うだろう。

 しかし、しかしである。

 悟の認識としては、次のようになっている。


・モンスターを倒すことで、その倒したモンスターから魔力を得ることはできる。

 しかし、断じてそれは全てではなく、さらに悟の魔力適合度は35と低いため、結果として悟が得ることのできる魔力量は、モンスターがもともと持っていた魔力量より、かなり少ないものとなる。


・そこでよりモンスターからロスなく魔力を得るため、重要となるのが食事である。

 倒したモンスターを食べることで、ロスはあるものの、その体に残る魔力を得ることができ、得ることができる魔力量を大きくアップすることができる。


・そして、これまでの経験から、どうやらこれは、少なくとも悟の場合は事実であるということが分かっている。

 そのため、現実世界への帰還のために、魔力量は増やせるだけ増やし、身体能力も強化する必要がある悟にとって、倒したモンスターを食べるということは、よっぽどの事情がない限り、やらなければならない重要事項の一つなのである。



「………うん、食えんことはないな。でも、流石に火を通さないと食べる気にならないな。」



 早速解体し、例のごとく適当に焼いて食べる悟。いつもより少し長く火を通したかな?という程度でしかない。

 ともあれ、これでカッパは食べられるということが分かったわけである。



「じゃあ、行きますか。」

 


 疑問を解決した悟は、再び探索に戻る。

 どうやら1階層のモンスターはカッパばかりのようである。

 試しに、ところどころにある井戸で桶を引き上げれば、皿屋敷が出てくるが、それ以外はカッパである。

 一体、皿屋敷はどんな立ち位置のモンスターなのか。

 悟は当然、そのことが頭をよぎったが、なんとなく、才持が遊び心で配置しただけだろうなと思い、納得することにした。



 俊敏なカッパではあるのだが、今の悟にとって、全く相手にならない。



 そんなことはお構いなしに湧いてくるカッパに対し、悟は半ばモグラ叩きでもしている気分になりながら皿を割り続ける。

 そうやって数多の皿をかち割っていると気づくことがある。

 それは力を入れるべきポイントである。

 最初からグッと力を入れてハンマーを振るのは疲れる上に、コントロールがつきにくい。

 個人差はあるだろうが、悟の場合、ハンマーが1番高い位置に来た時に一回、そしてインパクトの瞬間にもう一回。これが、悟が見つけ出した力を入れるポイントだ。

 そして、ハンマーが1番高い位置に来る前の部分は、全部無駄とまでは行かないが、かなり無駄な部分が多い。

 そこはインベントリ瞬間換装戦法で省略する。

 こうして悟は、このカッパとの戦いの中で、より消耗の少ない戦い方を学んだ。



 このような戦い方で悟は、時折食事をはさみながら探索を続ける。

 6時間程で2階層への扉を見つけ、2階層へ。

 それからまた6時間程で3階層へ。

 さらに8時間程で4階層へ。

 そして10時間程で5階層へ。

 そこから20時間程で5階層の最奥へ。



 階層を進むほどに広さは増しているにもかかわらず、遭遇頻度が増すカッパ。

 5階層なんかは、100メートルも進まないうちに10匹以上のカッパが悟を襲ってきていた。

 悟が5階層の最奥に到達するまでに、一体何枚の皿を割っただろうか。

 飲食店のバイトであれば、クビどころか、確実に訴訟問題に発展するだろう。



 そんなこんなでたどり着いた5階層の最奥。

 そこは数多の巨大な鳥居で周囲を囲まれた直径500m程の広場のような空間だった。



「なるほどね。100迷宮は5階層区切りなのか。扉は出てくるやつを倒せば出現するんだろうな。カッパ食ったら行くか。」



 道中、カッパは根こそぎ倒してきたため、リポップするまでには、少し時間がかかりそうだ。

 そこで悟は手早くカッパに火を通し、スキルを使い、猛烈な勢いでそれを食べまくる。

 持ってきていた木材に火をつけ、火加減の調節など一切考えず、激しく燃えているままにしているため、素早く加熱することを可能にしているのだ。



 4時間程かけて、食べる時間がなく残っていた4、5階層のカッパを全て平らげた後、悟は広場に足を踏み入れる。

 10mほど進むと、突如、一面くすんだエメラルドグリーンだった床が輝き出した。



「おお、意外だな。まさかの1対1とは。てっきり今までと同じで、大量のカッパが出てくるのかと思ったぞ。」



 現れたのは、たった一匹のカッパだった。

 しかし、通常のカッパより背丈が50センチほど高く、また手足が長い。

 そのため、見た目は普通のカッパを、ただひょろ長くしただけのように見える。



 だが、悟は当然のように全開でスキルを発動させた。

 1→140。これが今の悟の最遅世界である。

 最早、高速道路を走る車ですら止まって見えるような時間軸の中、ひょろ長カッパは普通に襲いかかってくる。

 ただ、速くはない。

 悟は、ひょろ長カッパの動きを十分に確認した後に、動き始める。

 両手でハンマーを振り下ろすように動く。

 手が最高点に達した直後にハンマーを召喚、力を加える。

 そして、ひょろ長カッパの頭めがけてハンマーの位置を調整しながら、インパクトの瞬間に腕に全力で力を込める。

 カッパは悟を見て腕で防御しようとしていたが、間に合わない。



バリンッッッ!!!



「ふぅ、まあ、まだ5階層だしな。楽に倒せるならそれに越したことはないからな。先に進みますか。」

 

 

 いとも簡単にカッパを倒した悟はこれまで必死に、倒したモンスターを食べまくった成果が出たことに喜びを感じた。

 だれだって死ぬほど頑張った成果が出れば嬉しいものである。

 とはいえ、まだ5階層である。先はまだまだ長い。

 そう思い直した悟は、気を引き締め直し、出現した扉の中へと進んでいった。



 6階層。

 景色は変わらず。

 変わったのは出てくるモンスターが2種類になったことだ。

 一つは当然カッパ。ただし、出てくるカッパが全てひょろ長カッパに変わっている。

 そして、もう一つは一反木綿(いったんもめん)である。

 その姿はただの10メートルほどの白い布である。それが空を悠々自在に飛び、襲いかかってくる。大したことないように思えるかもしれないが、これに巻き付かれでもすれば、どうなるか分かったものではない。

 


「っ!こいつ、切っても再生すんのかよ!食えもしないのに面倒な!………ふぅーっ、はっ!………おお、これぐらいバラバラにすればいいのか。」



 悟は、襲ってきた一反木綿をかわして、とりあえず刀で斬りつけてみた。

 切られた一反木綿は、真っ二つのなったが、驚くべきことに、その片方が再生し出したのである。

 これはまずいと思った悟は、スキルを深め、一気に一旦木綿を切り刻んだ。

 斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る—————

 すると、15回斬りつけたところで一反木綿は動かなくなった。



「はぁ、面倒だな。魔法でも使えれば楽に倒せそうなんだけどな。……これ、拾うのも面倒だな。……でも絶対取っといた方がいいよなぁ。」



 一反木綿は、動きが変幻自在で、速いのは速いが、言ってしまえばそれだけで、悟が油断さえしなければまずやられることはないモンスターである。

 しかし、いかんせん、倒すのも、回収するのも面倒すぎる。

 さらに、食うことも出来ないので、悟は早々に10階層まで駆け抜けることを決めた。



「油断せず、行こう。」 



 そう呟くと悟は6階層へ向けて駆け出した。





---------------------▽---------------------






 4日後。

 悟は10階層の最奥の広場に辿り着いていた。

 10階層に近づくにつれ、密度を増すカッパと一反木綿を片っ端から倒してここまでやってきた。

 遭遇したモンスターの数は、1から5階層までと比較して、体感で2倍ほどであり、1から5階層までと同じぐらいの数のカッパ+それと同数の一旦木綿と遭遇したような感じだ。



「……もう布野郎は十分だ。どんだけ拾うの大変だと思ってんだよ。てか、何で俺は全部拾ってんだよ。途中で気づいたけど、反射的に拾うようになってしまったじゃないか。」



 悟がここに来るまでに倒した一反木綿の数は軽く2万を超える。そして切り刻んで分割された一反木綿を、触れてインベントリに入れるだけとは言え、その全てを半ば反射的に回収してきたのだ。

 そりゃあ、うんざりもするだろう。

 そんなわけで悟は早々に準備を整え、広場へと進む。



「……いや、でかすぎだろ。」



 出現した敵を悟はよく観察する。

 それは幅2メートル、長さ50メートルほどで、まるで巨大な蛇のように空中でうねる一反木綿であった。その色も、真っ白ではなく、血に染まったかのような朱色だ。

 


「どうせ、でかいくせに早くて、めっちゃ切り刻まないといかんのだろうなぁ。」




 そこで大木綿が動き出す。最初はノロノロゆらゆらと動いていたが、そこから驚くほどの急加速で悟へと一直線に迫る。

 そんな大木綿に対して悟は。



 一気にスキルを全開にする。

 1→160ほどへ。

 その時間軸の中では、大木綿は、かなりゆっくりと向かってくる。

 それに対し、悟はその場を動かず、両手に刃渡り50センチメートルの刺身包丁ののようなナイフを持ち、魔力を凝縮して纏わせる。

 そして大木綿を間合いに捉えると、一心不乱に切り刻んでいく。

 悟は遅い時の中で、己を叱咤激励し、なめらかに、可能な限り細かく大木綿を切り刻む。



斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬———



 時間にすれば、2秒もなかっただろう。

 大木綿は再生する間も無く、百枚以上の小さな布へと変わった。



「1対1だから良かったものの、これで他のモンスターと連携して襲ってきたら面倒だぞ。

 11階層からはこいつと新しいモンスターが出てくるんだろうし……… また進むのが遅くなりそうだ。」



 ここまで攻略するのに1週間程かかっている。

 徐々に階層自体の広さも大きくなっていて、11階層から15階層までには、さらに新たなモンスターが出現することを考えると、うんざりしそうにもなる。

 ただ、進むしかないことは確実だし、100階層に到達する目的も動機もある。

 ゆえに悟は、撤退など一切考えずに、一人進み続ける。






---------------------▽---------------------






 11階層。

 景色は変わらなかったが、地面が、霞んだエメラルドグリーンのごく浅い沼地から、白い砂の地面へと変わる。

 そして新たに出現したモンスター、それは。



「………おっと。……なるほど、鎌鼬(かまいたち)、か。ついに遠距離攻撃手が来たか。」



 体長1メートルほどで、イタチの両手を鋭い鎌へ変えたような黄土色のモンスター、鎌鼬であった。

 彼らは建造物の影などから鎌をふるい、強烈なつむじ風を発生させ、攻撃してくる。

 つむじ風が砂を巻き上げながら迫ってくるが、実は悟はそれに助けられている。

 もしつむじ風が音もなく迫ってくれば、悟も攻撃を受けることがあるだろうが、砂を巻き上げる音がその可能性を消してくれるからである。



 悟に気づかれた鎌鼬は、これでもかと言うほど、つむじ風を乱れ打ちしてくる。

 つむじ風の範囲がおよそ成人男性一人分ほどと、そこそこ大きいため、大きく回避することを余儀なくされる悟。



「……布野郎とは別の厄介さがあるな。まあ、食えそうだし、許してやろう。

 ともあれ、こいつは見つけたら最優先で処理だな。」



 悟は既に発動していたスキルをさらに深め、回避を可能な限り最小限に留め、未だに鎌を振りまくっている鎌鼬へと距離を詰める。

 悟としては、ちょっとかわいいなと思わないでもない。

 だが、敵である以上問答無用。

 十分に近づき、取り出した刀で一閃。

 能力が攻撃に大きく偏っていた鎌鼬は、なす術なくその首を落とされるのだった。



 鎌鼬の強さを確認した悟は、探索を進める。

 階層を進めば進むほど遭遇するモンスターが増え、戦いはより困難になってくる。



 14階層でのことだ。

 運悪くなのか、そうなるように才持が設計していたのか、悟は周囲を建造物に囲まれた少し開けた場所に出た。

 そこでヒョロ長カッパ5、大木綿10、鎌鼬7の群れと行き当たる。

 1対22。

 言うまでもなくこれまでで最悪の状況である。



「……逃げてもいいが、どうしたものか。……まだ14階層だしな。このぐらいは超えて当然、の状況、なんだろうなあ。………全力で行こうか。」



 全開。

 1→195。

 悟は、まず、鎌鼬を倒すべく、その一匹の元へ駆け出す。


 カッパと一反木綿が、悟の行手を遮るようにして襲い掛かってくる。鎌鼬もその間から器用に、つむじ風を放ってくる。

 こうなってくると悟の行く先には、カッパか一反木綿かつむじ風のみで、隙間など存在しない。

 悟よ、どうする?


 答え。

 カッパを瞬殺し、先へ進む。

 進路上から1番近いカッパの元へと駆けた悟は、距離をはかり、跳躍し、前方宙返り。そして勢いそのままに召喚したハンマーをカッパの皿に叩き込む。



 絶叫するカッパと、悟に後方を取られ、方向転換しようとする一反木綿とカッパを置き去りに。

 乱射されるつむじ風は紙一重でかわし、後方から自分を追うカッパたちへの置き土産に。

 全速力でかける。

 予想通り、カッパも一反木綿も悟の追跡に苦労している。

 一閃。

 標的の鎌鼬を仕留める。

 残り20。鎌鼬は残り6体。

 すぐさま次の標的をどの鎌鼬にするか、決定する。

 そして、標的の鎌鼬へ向かおうとした時、あたふたしていたカッパと一反木綿の集団の中からそれぞれ一匹ずつが悟へと接近してきていることに気づいた。


「……行けるか。うん、行けるな。チャンスだ。」


 瞬時に標的を切り替え、その2匹に。

 今尚、悟に向かって接近してくる多数のつむじ風を、建物の影に隠れてやり過ごし、接近してくる2体を待ち構える。



 まずは、ハンマーでカッパを瞬殺。

 そして、すぐさまナイフに換装し、迫り来る一反木綿を一心不乱に切り裂く。

 これで残り18体。

 ここで悟はあることに気づく。



「……これ、ここでカッパと布野郎を片付けた方がいいよな。つむじ風は当たらないし、布野郎は動きにくいだろうし。……それで行こう。」



 それにさえ気づいてしまえば、後はほとんど10階層までと変わらない。

 残り3体のカッパと残り9体の一反木綿を相手に立ち回る。

 隙を見てカッパを倒し、残りは一反木綿だけとなる。

 9体の一反木綿も、開けた場所ならいざ知らず、建造物の影ではその動きもいまいちである。

 悟は、一斬りで、より多くの一反木綿を刻めるように意識しながら、全力でナイフを振り続ける。



斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬—————————



 切断された朱色の布がひらひらと舞い落ち、白い地面に彩りを加える。

 そして、辺りの地面が一面朱色となり、白など全く見えなくなった頃、悟は、9体全ての一反木綿を倒すことに成功した。




 その後、悟は残った鎌鼬を問題なく倒した。



「なるほどねえ。建物を利用するのは今後も使えそうだ。気づいてしまえばこっちのもんだし、15階層までは普通にいけそうだ。」



 今回の戦闘で、悟は、この迷宮の攻略の糸口を掴んだように感じた。

 それが正攻法なのかどうなのかは全く分からない。

 才持がそういう意図で設計したのかどうかも分からない。

 しかし、これまで正面突破ばかりだったソロプレイヤーの悟が、この時、周囲の環境を、戦闘に活用することを知り、より安全に迷宮攻略を続けることができるようになったのだ。

 そのため、このことが、少なくともマイナスに働くことはないだろう。



 何はともあれ、新たな着想を得た悟は、それからおよそ2日後には15階層の最奥の広場に到達し、体長約2メートルで鎌の腕を4本も持つ4本腕鎌鼬を危なげなく倒し、16階層へと進んでいくのだった。

 

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