第15話 閑話 side L 第1話 初心者迷宮突破
やあ、僕はローグ、今をときめく20歳、華の大学生さ。
今回「Beautiful Catastrophe Online」の初回プレイヤーに見事に選ばれた100万人のうちの1人さ。
今世界で一番熱い話題といったら、BCOだよね?
だから、僕が選ばれたと知った時、嬉しくて嬉しくてたまらなかったさ。
つい、その時アパートで叫んでしまって、隣の部屋の住人にガチギレされたのは、今では懐かしい思い出さ。
………それがまさか、こんなことになるなんてね。
家族だって僕のことを心配しているだろうし、友だちも僕のことを心配してくれてると思う。
だから、早く帰れるように頑張らないとね。
「おーい、ローグ!何ぼーっとしてんだよ!これからいよいよボス部屋だぞ?そんなんじゃ、うっかりアリどもに捕まって死ぬぞ?」
「ローグ、あんた私たちのリーダーなんだから、こんな時ぐらいぴしっとしなさいよ。もうっ。」
「……大丈夫。ローグはやる時は必ずやる男今もきっと集中力を高めてただけ。」
「ははっ。みんなごめんごめん。まだ少し時間あるよね?ついに30階層に挑むと思うと、ここに来るまでのことを思い出してしまってね………」
「……、まあ、気持ちはわかるけどよ。」
「ローグがそんなこと言うから私まで思い出してきたじゃない!」
「………ここまで、大変だった。きっと、これからも大変。」
「ははっ。なんかみんなも色々と思い出したみたいだね。」
そう、本当に、本当にここまで大変だったんだ。
いや、まだ30階層をクリアしてないんだけどね。
でもみんなも思い出してるみたいだし、僕ももう一度だけ軽くおさらいしてみようかな。
まず、この世界にログインして、チュートリアルでミスター才持の話を聞いて、スキルを選択し、この世界に放り出されたんだ。
そりゃ気分は最悪に近かったさ。僕の人生を一瞬でぶち壊されたんだからね。けど、とても不謹慎なことなんだけど、ほんのちょっぴりだけ、ワクワクもしてた。
だってさ、1VRゲーマーとして、こんな2度とは決して味わえない体験に、燃えないわけがないじゃないか。
僕がこの世界をクリアして100万人を救う!
…何ちゃってね。そんなことも考えたりしちゃったのさ。
そしてそんな僕がこの世界で最初にとった行動。
「ステータス」
そう、ステータスを確認することさ。
結構な人が初めてプレイするゲームで、初めてログインしたら、初めてする行動は大体そうなんじゃないかな?
まあ、今回はいつもと違って、突然の出来事に泣き叫んだりしてる人も多かったけどね。
でも、僕の見える範囲だけでも何人かはステータスを僕と同じように確認してたよ。
そして確認したステータス。
「
Name : Logue(20)
The Degree of Magical Adaptation: 99
Skill : Holy Sword
」
これさ。
魔力適合度は97で、他の人のを見たことがなかったから何とも言えなかったけど、選んだスキルは聖剣術だから、これで合ってる。
けど、最初はそもそもどうやってスキルを発動するか、分からなかったんだよね……。
まあ、これまでプレイしたゲームの経験で、何となくでやってみたらできたんだけどね。
その時は、握った剣がいきなり金色に輝いたから、僕も、周りのみんなもかなり驚いたんだよね。
そんなこんなで、何とかスキルの使い方を調べたり、他にも色々家を建てるのを手伝ったりしながら2週間ぐらい過ごしていたんだ。
そうしてたら、何やら魔力適合度の調査が始まって、僕は聞かれた時に正直に答えたんだ。
僕の答えを聞いた調査員の人がとても驚いていたよ。…… 何で驚いているのか聞いても全然教えてくれなかったんだけどね。
そして、その1週間後ぐらいだったかな。
急に『100万同盟』から、初心者迷宮のある安全地帯中央に一度来てくれないかって内容の手紙が来たんだ。
何でも、僕の魔力適合度が他の人よりかなり高かったみたいで、初心者迷宮なら絶対に死ぬことはないし、サポートはするから、初心者迷宮の攻略に力を貸して欲しいとのことだったよ。
僕はそれを聞いてすぐに行くことを決めたよ。
僕は元々迷宮の攻略に興味津々だったのさ。
ただ、僕と一緒にこの世界に閉じ込められた周りの人が困っているようで、それを見て見ぬふりが出来なくてこれまで家建てとかを手伝っていたんだ。
でも、僕が確実に迷宮攻略の力となれるのであれば、それはもう行くしかないよね。
そして行った先、僕と同じ理由で集められた人が大勢いる広場。
僕はそこで運命的な再会を果たすのさ。
「お前、ロー、だよな?「Battle World Online」でクラン“World Seeker”のリーダーだった。」
「えっ、そうだけど…………もしかしてその声、カズ、かい?」
「……ああ、そうだ。まさかこんなところで会うとはな。」
「ええっ!ほんとにカズなの!?渋い声だな思ってたんだけど………こんなに若かったんだ。……」
「いや、俺これでも33歳だぞ。アジア人は若く見えるってのは本当みたいだな。ってか、お前アバターと見た目変わらなさすぎだろ。イケメンすぎて何かむかつくな。」
「ははっ。キャラメイクの時、ほとんどいじってないからね。それにカズはイケメンっていうけど、僕は彼女だっていないんだよ。それに、——————
こうして、僕は一緒に「Battle World Online」という、一昔前まで世界中で大人気だったゲームを一緒にプレイしていたカズ——和磨と再会したのさ。
あの時はとってもびっくりしたよ。でも、正直一人じゃ心細かったからほっとしたんだよね。
そして、その後にも奇跡としか思えないんだけど、同じクランのメンバーだった、アミュやワンともその場で再開したんだ。
この時ほど、自分のキャラメイクを手抜きにしててよかったと思ったことはないね。
そして、みんな迷宮攻略をするためにここにきたことを確認して、4人でパーティーを組むことにしたんだ。
3人の魔力適合度は和磨、アミュ、ワンの順に89 92 97で、スキルは、魔闘術、回復魔法、火魔法だった。これに、僕も入れて4人で、新生パーティー
“World Seeker”の誕生さ。
どうやら魔力適合度は100が最大値みたいで、僕たちパーティーは非常に強力な上、スキルもバランスがよくて、その後は色々な国とか他のクランとかからの勧誘をうんざりするほど受けることになって大変だったよ。
中には脅迫まがいのことを言ってくる団体もあって、嫌気がさした僕たちは自分達でクランを設立することにしたんだ。………これが、また大変だったんだけどね。まあ、それは今回は置いておこう。
今、クランについて話したけど、このクランというのも、色々複雑でねぇ。
そもそもクランってのは、僕たち攻略組の場合、いつも迷宮に一緒に潜る4〜6人ぐらいのパーティーがあって、親しいパーティー同士とか、同じ目標を掲げているパーティー同士とかが集まって作られたグループのことで、簡単に言うと、パーティーが集まってできるより大きなパーティーのことだよ。
この世界の迷宮攻略を主な活動としているクランは、大きく3つに分けることができるんだ。
1つ目が、現実世界における国が、自国のパーティーなんかを囲って作っているクラン。
これが一番数が多いタイプのクランだね。
結束力が固く、国の威信をかけて戦っている集団で、バックに国の有力者なんかがついているね。
自分のクランがどこよりも早く迷宮を攻略するのを目的としているから、他のクランとの仲は基本的に良くないんだよね。
後、迷宮から戻っても日々厳しい戦闘訓練を行なっているみたいだね。
僕なんかはそれはちょっと………って、思うんだけどね。
2つ目は、100万人のプレイヤーのうち、自国や世界で著名な人たちの中で、迷宮攻略に興味がある人だけで組んでるクラン。
このクランを支援しているのは実は『100万同盟』そのもので、この世界での広告塔みたいな役割を担っていて、迷宮攻略を宣伝目的で行って、プレイヤーの中から新規で迷宮攻略をしてみたいと思う人たちを増やすために活動しているみたいなんだ。
この前迷宮の前で、このクランに属したパーティーと会って、僕たちみんなガチガチに緊張してたなぁ。
3つ目は、国の区切りなんかを気にしないで、どちらかと言うと迷宮攻略自体を楽しみながら進めるクランで、国とかに属さない多国籍のパーティーが組んでるクランだね。
僕たちもこれに所属していて、迷宮攻略は真剣に行うけど、その中でも楽しみながら行っているよ。
この他にも迷宮攻略を行うんじゃなくて、武器を作ったり、生産系スキルで食糧生産を行うのを目的としたクランなんかもたくさん、あるんだ。
そして、これらのクランのうち、メンバーが100人以上いるクランのリーダーは、毎月『100万同盟』が主催する会議に参加して、現実世界の帰還のために、意見を出し合ったりするんだ。
まあ、クランについてはとりあえずこんな感じかな。このうち、迷宮攻略を主としているのは、1つ目のクランと3つ目のクランということになるね。
ただこれ、とにかく1つ目のクラン同士の仲が悪くてね。
僕らが迷宮内にいる時もしょっちゅう揉めてるし、死なないのをいいことに殺し合いをしてるのを見たこともざらにあるんだ。
彼らの勧誘といい、殺し合いといい、いい加減うんざりしているんだけど、それだけじゃないんだ。
実は最近、僕たちのクラン“World Seeker”が元々「Battle World Online 」でそこそこ有名だったこともあって、クランに参加する多国籍パーティーが増えたんだ。
そして前回の『100万同盟』の会議に僕も参加してきたんだけど、その時も国主体のクランの代表者たちが口々に言い争いをして、とてもじゃないけど協力してみんなで何かを決めれるような雰囲気じゃなかった。
今言ったこととか、細かい嫌がらせなら、僕たちパーティーも迷宮内で受けることもよくある。
正直言って、このままの状態じゃこの世界から脱出できるのかどうかも怪しい。
彼らもそれは分かっているはずなんだ。でも、残念なことに、もはや分かっていてもどうすることもできない状態みたいなんだ。
だから、僕たち多国籍クランのクランリーダーで話し合って、未だ誰も突破できていない30階層を共同で攻略することになったんだ。
ただ、国主体クランのやつらに気づかれるとまずい。絶対に妨害をしてくるはずだ。
だから、時間帯をずらして迷宮に入り、計1週間もの時間をかけて参加する全クランのメンバーが、ここ29階層にある最後の広場に集まることになっていたんだ。
そして、3時間ほど前に全メンバーの到着が確認されて、今からいよいよ30階層に突入するんだ。
「………よし、いよいよだね。みんな、いつも通り、カバーし合いながらいこう。」
「おう!」
「りょーかい!」
「……ラジャー。」
僕は総勢500名近くのメンバーとともに30階層へ足を踏み入れた。
巨大なドーム状の空間は、壁面に埋められた7色の鉱石の光に照らされていて、一際幻想的に見える。
けど、僕たちはそんな場所で、目の前のアリの大群と戦わなければならないんだけどね。
「……よし、まずは魔法部隊だ。構え。………放てー!!」
総勢250人もの魔法部隊が、アリの軍勢目がけて一斉に魔法スキルを放つ。僕も小手調べに聖剣の一撃を、飛ぶ斬撃にして一緒に放つ。さながら花火大会のクライマックスみたいな状況だね。
………おっと、あまり効いてない気がするね?
「……ちっ、魔法攻撃の効果はうすい、か。……仕方ない、総員、傾注!これから先は物理攻撃主体で行くぞ!魔法使いはアリどもの足止めと目眩しだ!アタッカーの補助にまわれ!」
「「「了解!!」」」
どうやら今回の攻略の大将も僕と同じように判断したみたいだ。
「……さて、じゃあ僕たちも行こうか。僕と和磨が前衛、中衛にアミュ、後衛はワンだ。
とりあえず、4人全員が囲まれるとまずいから、足だけは止めないように頑張ろう。……よし、GO!!」
「「「了解!」」」
僕らは走り出した。
僕の隣では和磨が両手の鉤爪のついたメリケングローブをガチンガチンと打ち付けながら不敵な笑みを浮かべて走っている。和磨は相変わらずの戦闘狂だね。
僕も負けてられないね。
僕は剣を取り出し、スキルを発動し、聖なる力を引き出す。剣はぼんやりとした温かな金色となり、僕はその剣に、さらなる聖なる力を加え、凝縮するようイメージする。
程なくして剣は聖なる力を限界まで蓄え、臨界点を迎える。この臨界点を超えると、剣が崩壊して聖剣も消えてしまうため、それ以上は強化出来ないんだ。
つまり、僕は最初から全力ってこと。
そして猛スピードで迫ってくるアリの群れと今、衝突する。
僕は剣を、和磨は拳をアリに向かって振る。
期間にして3ヶ月程。あれだけ29階層で特訓したんだ。敵を倒して得た魔力でスキルや身体能力もかなり成長しているんだ。
アリが29階層より強くなっているとはいえ、通じるはずだ。そう思いたい。
「はっ!」
「うらっ!」
「よしっ、何とかいけるね。和磨はどう?」
「殻は硬いが……やはり節を鉤爪で狙えばいけるな。」
「アミュ、ワンはどうだい?」
「私は特にできるとこないから大丈夫よ。」
「……私の火魔法が全然効いてない。けど、みんなのサポートなら大丈夫。」
「よしっ、ならこのまま行こうか。」
僕たちはアリの群れの相手をしながら簡単に状況確認をした。
どうやら30階層のアリは、魔法耐性が高く、魔法スキル持ちのプレイヤーはあまり戦力にならなさそうだ。
だが、それであれば、その分僕たち物理アタッカーがアリたちを倒せばいい話だ。
なんだかちょっと楽しくなってきたね。
「……よし、和磨。どちらがより多くアリを倒せるか勝負しないかい?負けた方は勝った方の言うことを何でも一個聞くってことで。」
「……おもしろいじゃかいか。いいぜ、乗った。」
「ちょっとあんた達!こんな時に何言い出してんのよ!そんなこという暇があったら攻撃しなさいよ!」
「……私も賭ける。賭けに勝ったら私のいうことも聞いてもらう。負けたら私も言うことを聞く。」
「ワンまで!なにふざけてんのよ!」
「ははっ。いいじゃないかアミュ。まだまだうんざりするほどアリがいるんだ。楽しく行かないとね。」
「そうだぞ。で、ワンはどっちに賭けるんだよ?」
「……もちろん、ローグ。ローグの聖剣に和磨の鉤爪じゃ万に一つも勝ち目なし。和磨には1日、『僕は負け犬です』と書かれたたすきをつけて過ごしてもらう。」
「……ワン、お前、何かたまに急にディスってくるよな。覚悟しとけよ。」
「ははっ。そんな命令はされないように頑張らないと。で、アミュは賭けないの?」
「……そんなのローグに賭けるに決まってるじゃない!和磨がローグに勝つなんて絶対に有り得ないもの。」
「……お前ら、本当に覚悟しとけよ。」
ははっ。どうやら和磨が本気になったみたいだね。僕も2人が和磨を煽ったせいで命令がこわいから、沢山倒さないと。
こうして僕らはアリたちを次々に倒していった。
今回の30階層のボス攻略には500人近くのプレイヤーがいるため、単純計算で一人20匹倒せば勝ちではあるんだけど、実際には今回あまり戦力として期待できない魔法スキル系プレイヤーや、回復魔法が主体のプレイヤーも大勢いる。
だから実際には一人100体ぐらいは倒さないといけないんだろうね。
今、33匹目を一刀両断した。
ちょっと周りを見ると苦戦しているパーティーもあるみたいだ。
34匹目。
中には欠員が出てしまったパーティーや全滅したパーティーもあるのかな?遠くから、そんな声が聞こえてきたよ。
35匹目。36。
ならもっと狩らないといけないのかな?まあ、別に僕たちにはあんまり問題ないけどね。
37。38。39。
こうやって、みんなで和気藹々と。
僕は、これが僕たち“World Seeker”の強みだと思っている。
こんな終わりの見えないようなアリたちとの戦いでも、モチベーションが落ちない。
みんなで全力で楽しく挑むから、僕らは折れずに戦えるんだ。
38、39、40、41。
そう言えば、2ヶ月ぐらい前だったかな?
確かここに一人で挑んでいったプレイヤーがいたよね。僕は話さなかったけど、和磨が話をしていた日本人のプレイヤー。
42。43、44。
彼については以前から一人で20〜29階層を攻略しているプレイヤーがいるっていう話題を聞いただけしか知らなかったし、あの時初めて実際に彼のことを見たんだけど、僕は彼が、かなり追い詰められているように見えたよ。
僕たちを見ても何の感情も湧いていないようだったしね。
45。
何かどうしても早く現実世界に帰りたい理由があるんだろうね。
46。47。
和磨と話す彼の瞳からは警戒と諦観?そして帰還への強烈な意志が見てとれたよ。
48。49、50、51、52。53。
迷宮近辺には住んでいないみたいだし、もしかしたら僕たち攻略組の良くない噂を聞き、一人でやってきて、実際に噂が正しかったことを知ってしまったのかもしれないね。
うん、そうだろう。それがしっくりくるね。彼は僕たちのことが信用できないと言っていたし。
54。
それだったらわざわざ一人で迷宮を攻略しているのも頷ける。
でも、僕は彼の行動は間違っていると思うんだ。
確かに、僕たち攻略組のことが信用できないなら攻略組とパーティなんて、とてもじゃないが組めないだろう。
けど、それじゃあ新しく信頼できる仲間を自分で探せばいい話だ。
人は1人では生きていけない。
それもこんないつモンスターに襲われるかもわからない迷宮の奥深くでは、尚更1人なんて無理な話だよね。
こんなところで1人で満足して生きていけるのは重度の戦闘狂か、よっぽどの狂人かだろう。
彼はそのどちらでもないようだったから、きっと現実世界に帰りたいという意志のみで、1人この迷宮に挑んでいたのだろう。
それでは絶対に折れてしまう。
助けを求めたくとも誰もいない。
弱音を吐きたくとも吐く相手もいない。
誰かの温もりが欲しくても誰もいない。
そんなの、耐えられるわけないじゃないか。
そしてそれは、彼がこの30階層を攻略できずに、僕たちが30階層攻略を進めていること、そして最近彼の噂を全く聞かなくなって、目撃情報1つすら無くなったことからも明らかだ。
55。
だから、僕はこのクランで、どんなに辛い状況になってもメンバーに笑顔で語りかけるし、メンバーがお互いを信頼し、なんでも話せるようにしていくつもりだ。
57。58、59。60。
そして、いつの日にか、帰還を切望する彼のためにも、僕らで現実世界への扉をこじ開けるのさ。
61、62、63、64。
「おらあっ!へっ!今ので100だぜ!ローグお前今いくつだ!?」
「……ふっ、まずいね。まだ64だよ。ちょっと考え事してたんだ。」
「ちょっとローグ!何か遅いと思ったら考え事ですって!?しっかりしなさいよ!」
「……しくしく。ローグが本気でやらなければいくら和磨相手でも負けちゃう。」
「あ゛あ゛っ!?ワン、今なんて言った!?」
「……さあね。」
「ははっ。まあまあ、落ち着いて。今からちゃんと集中するから。和磨も、いくよ!」
「ちっ、ああ、分かったよ!」
こうしてまだまだ僕たちとアリたちの戦いは続いていく。
---------------------⬛️---------------------
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、みんな、生きてるかい?」
「はぁ、はぁ、あ、ああ。生きてるぞ。」
「私も無事よ!」
「はぁ、はぁ……アミュは元気すぎる。」
あれからどれぐらいの時間が経っただろう。
僕たちプレイヤーとアリたちの戦いはクライマックスを迎えている。
現在戦えるプレイヤーは50人ほど。他は皆アリたちに殺されたか、怪我で戦えない状態になっている。
対するアリたちは、女王アリとそれを守護する強そうなアリたち10匹だ。
「和磨、今何匹倒したんだい?」
「……321匹、なはずだ。そういうローグはどうなんだよ。」
「……315匹、だね。……これは、本格的にまずいね。」
「途中考え事してたから罰ゲームなし、なんて言い訳すんなよ。そこの2人も。」
「ああ、もちろんさ。」
「大丈夫よ!ローグが残ってるアリたち全部倒せばローグの勝ちなんだから!」
「……それは流石に無理。こんなことなら賭けなんてやるんじゃなかった。とほほ……」
「ははっ。僕も無理だとは思うけど、まあ、やれるだけやってみるよ。
……おっと、そろそろ攻撃を開始するみたいだね。それじゃあ、みんな、あと少し、油断せずに行こう。」
「「「了解!」」」
今日はここまでに44本も剣をダメにしてしまったみたいだね。あまりにアリたちが多すぎて、結構焦って聖剣の加減がうまく行かなかったことが多かったからね。
剣が無くても聖剣が使えたら1番いいんだけど、それは僕にはできないんだよね。多分、剣なしで聖剣を発動するイメージさえできればいけると思うけど、僕のこれまでの経験が、それを邪魔してイメージがうまくいかないんだよね。
まあ、いい。まだ剣は何本か残ってるんだ。残り全部倒すぐらいの気持ちでやってやろうじゃないか。
僕は1体の親衛隊アリに剣を振るう。
「!!硬い!!っくそ!剣が抜けない!っ!!!」
「ローグ!!くそっ!ぐあ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「「「和磨っ!!」」」
しまった。しまった。しまった。しまった。
剣が抜けず、僕があたふたしている間に、目にも止まらぬ速さで攻撃してきた2匹目の親衛隊アリに、僕を庇った和磨は吹き飛ばされ、大怪我を負ってしまった。
僕の怠慢だ。僕が聖剣でわざわざ硬い殻なんか狙わず、和磨みたいに関節を狙うべきだった。そのせいで和磨は………
「そうだ、アミュ!魔法を!」
「もうやってるわよ!けどこれほどのけがはもう………」
「そんな!………か、和磨すまない、本当にすまない………」
「……ローグ。ふっ。なに、深刻そうな、ツラし、てんだよ。気張れやローグ、お前、に、深刻な、面は似合わ、ない。」
そういうと、和磨は消えていった。
周りでは他のパーティーも親衛隊アリと激戦を繰り広げている。2、3パーティーは優勢のようだが、僕たちが戦線から離脱している残りのパーティーは劣勢を強いられている。
僕の頭の中はごちごちゃでパニックに陥っていたけど、和磨の言葉や表情から発せられたメッセージが、心にすっと入り込んで頭の中のモヤを払った。
「……和磨、すまない。そして………任せてくれ」
「ロ、ローグ、大丈夫なの……?」
珍しく心配そうな顔でアミュは僕に聞いてきた。
全く、僕はパーティーリーダー失格だな。
「……ああ。心配をかけたね。もう大丈夫さ。和磨のためにも、ここは今日、僕たちが制覇する。行くよ、二人とも!」
「……そ、そうね、分かったわ!行くわよ!」
「……私も、全力でサポートする。」
「ははっ。2人とも本当に心強いよ!」
僕は聖剣スキルを発動し、敵へと迫る。
敵の攻撃をなんとかかわし、聖剣を振りかざし、今まさに親衛隊アリに振り下ろそうとした、まさにその時。
「!!!まずっ!!いや!そのまま行けええええええ!!!」
気合いが入りすぎたのか、聖剣が崩壊しようとしたんだ。けど、僕は咄嗟のひらめきでそのまま剣に聖なる力を全力で込め凝縮するイメージをしながら剣を振り下ろした。
ッダアアアンン!!!
眩しすぎて、目を瞑っても尚、眩しいと感じるほどの黄金の光を放つ聖剣が、親衛隊アリに直撃する。
凄まじい衝撃音がとどろき、周囲のプレイヤーや親衛隊アリたちも僕に意識を向けているのが分かる。
そんな中、僕は僕の攻撃を受けた親衛隊アリの状態を確認する。
「……ははっ。これは皮肉なのか、何なのか。不覚にも仲間のおかげだと思ってしまったよ。まあ、何にせよ、今はやるのみさ。」
そこには聖剣が直撃し、首部が消滅した親衛隊アリの亡骸があった。
……こんなこと、思うべきじゃないんだろうが、やっぱりこれも仲間からもらった力だと思ってしまうんだ。僕は本当に、仲間に恵まれている。
そこからは簡単だった。
まあ、親衛隊アリは動きがとても速くて、攻撃を受けることもあったんだけど、そこはアミュたちヒーラーに回復してもらって僕も「臨界聖剣」とでも言うべき崩壊寸前の聖剣を、周りのみんなが注意を引いている間に、確実に敵に当て、一匹一匹確実に倒していったんだ。
「……やあ。君で最後だよ。ここまでしても動かないなんて……まあ、君の子に僕の大切な仲間も殺されてるんだ。これでおあいこだと思ってくれ」
ッダアアアンン!!!
僕は臨界聖剣を振り下ろし、30階層のボス、女王アリを倒した。
周りには20人ほどのプレイヤーがいて、歓声を上げている人もいっぱいいる。
僕も、和磨がいなくて残念だけど、嬉しくないわけじゃない。
生き残ったプレイヤーたちが各々喜びに浸る中、全員の目の前に半透明のプレートが出現する。
「
おめでとうございます!
あなたは当迷宮「初心者迷宮」のボスを倒し、見事に当迷宮をクリアされました。
クリア報酬として、これより当迷宮の解体と正規の迷宮の実装を行います。
今から1分後、全プレイヤーを当迷宮から排出し、当迷宮の解体と新規迷宮の実装行います。
これからもあなたの活躍を心より期待しております。
」
(※ローグのプレートは、本当は英語表記です。)
報酬は、僕たちが現実世界に帰るため、正真正銘の攻略しなければならない迷宮の実装、か。
正直、新しいスキルだと思ってたから、ちょっと残念だよね。
もしかしたら、ミスター才持は初心者迷宮をクリアした程度じゃスキルはあげられないって思ってるのかもしれないね。
(※実際には才持が、悟以外にクリア報酬を受け取る権利はないと考え、ごまかしたためである。)
そして、なんとかここをクリアするまでにほぼ2年。
これから挑むことになる迷宮は、難易度が格段に上がるはずだし、ミスター才持の語ったタイムリミットまでは28年間。
出現する迷宮の数にもよるだろうけど、どうであれ、僕たちなら、力を合わせれば絶対に乗り越えられるはずだ。
「おっと。時間か………」
急に浮遊感を感じ、辺りを見渡すと、後ろから渋い男の声が聞こえてきた。
「よう。やったじゃねぇか。見ろよ、あれ。砂の城が風で飛ばされるみたいに消えてってるぞ。」
「おお、ほんとだね。」
和磨が見ている方向に視線を向けると、和磨の言葉通り、初心者迷宮がまるで砂上の楼閣のようにさらさらと消えていっていた。
周囲の人もそれをじっと見つめ、喜んだり、悔しがったりと様々な反応をしているね。
「それはそうと、和磨。今回クリアできたのは本当に和磨のおかげだよ。本当にありがとう。」
「へいへい。たがまあ、これからが本番だろ?」
「……そうだね。でも、僕たちなら力を合わせれば絶対にできる。そうだろう?」
「ああ。頼むぜ、我らが団長さんよ。」
「うん、ところで和磨。そう言えば僕、冗談抜き親衛隊アリ全部と女王アリにとどめをさしたんだけど、賭けはまだ有効かい?」
「………ローグ、お前、この流れでそんなことを言い出すとは………いや、意外とお前は言いそうだな。」
「和磨、賭けに勝ったのはローグだけじゃないわ。」
「……そうだ、そうだ。」
話に入るタイミングを伺っていたガールズ2人が、ここぞとばかりに入ってきたよ。
「……お前たちもかよ。……だが、ちょっと待ってくれよ、後ろの人達がどうやら俺たちに話があるみたいだぜ。」
和磨がそう言うので3人とも後ろを見る。
「あれっ、話しかけようとしている人なんて誰もいないじゃないか。和磨、どの人だい?」
僕たち3人は、和磨にそれを聞こうと和磨の方を振り返ると………
「………なるほど、まさかの古典的トリックにやられるとは。和磨………君も案外、お茶目じゃないか。」
和磨はそこにいなかった。
「………やられた。和磨、なんてやつ。」
「えっ!まさか逃げたの!?許せないわね!今度絶対に言うこと聞かせないと!」
「ははっ。まあ、良いじゃないか。どうせしばらくしたら部屋に戻ってくるはずだし。そしたら、全員で打ち上げにでもいこう。
それじゃあ、僕たちも帰ろうか。」
「………あいあい。」
「…まあ、分かったわよ。」
こんな感じで、僕たちは一旦帰ることにした。
その足取りは軽く、みんな充実した表情を浮かべている。
まあ、色々あったけど、よくやく壁を一つ越えたんだ。
それに、僕としては今回のことで仲間同士の結束がより深まったと思うし、個人的な成長もした。
この先現れる迷宮では、生が補償されない。今までよりも確実に厳しい戦いが僕たちを待っているだろう。
けれども、僕たちなら大丈夫。
みんなで協力し合えば、越えられないことなんていはずだからね。
だから、まあ、一応言っておこうかな。
「迷宮よ、かかってこい。僕たちが相手だ。ってね。」
「………アミュ、大変。ローグがおかしくなったみたい。」
「え!ローグまでおかしくなったら本格的にまずいわよ!ワン、何とかしてあげて!」
「ははっ。別におかしいわけじゃないよ。それにその言い方だと———————」
タイムリミットは後28年。早く帰るに越したことはないけど、焦りは禁物だ。
僕たちは僕たちのペースでBCO世界のクリアを目指そう。
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