第6話 氷山の村と王国の影……。①

 ご……ごめんなさい……結構重い……。私の何倍あるんでしょうこの体躯……それに合ったこの重さ。


 ”牙皇鯨”(がおうくじら)ガザルホエールを掴み、ホバリングで上昇中の皇すめらぎ 雅人まさとことマサトです……。


 美人の元騎士団長の彼女が出来た龍です……転生したおっさんなんですけどね。


 巨大な氷山にお邪魔して、それから村に向かって進んでいる途中でホエールに襲われている騎士団の人達を助け、ホエールも属性を試している余裕がなく、途中で倒してしまい村まで運んでいる所なんです。


 まあ、歩きと違ってほぼ真っ直ぐに上昇していけば村には着くので良いんですけど。


 でも待てよ……村に着くのは良いとして、どこにこの巨体を降ろそうか……?


 このホエールを降ろせるスペースがあるのか? はたまた、空中で解体!?どうやって捌くのこれ……。捌ける料理人て居るのかな? あ……着いた……。




 ほうっ!氷山の山肌を少し抉ってスペースがあります、そこに下へと続く道と洞窟へと続く道が……。ミネルザや騎士団もその道を上がって来ました。


 私が、広めの地面にホエールを降ろします。ここなら素材や肉等を横取りしていく者は居ないでしょう、群がる鳥さん達を除いてはね……。




「村はこの先だけど、通れるかなマサト……?」




 確かに私の体躯では……翼も足も縮めて……と。


 お、何とかホフク前進で地面を這う様に進めば行けそうです。ミネルザも納得したようで、お互いに頷きあってガザックさんに合図を送りました。分かったと頷き返して、一緒に洞窟へと入って行きます。今度は真っ直ぐではなく、右往左往するような道になっていてカーブを抜けるのは少し難でしたけど、無事に村の入り口に……。


 ワオ!氷の洞窟内だと言うのに、滅茶苦茶天井も高いし明るい!


 何でも太陽の光が氷の中を乱反射して全体を照らしてくれているとか……。なので日が沈めば、自然と夜になると聞きました。


 なんて便利な……って、あれ!? 村の中の地面に土がある……何故に!?




「た、大変だ!ドラゴンが入り込んだぞ!!」




 近くに居た男性が大声をあげて慌てて奥に逃げて行きます。




「て、敵襲だ!!」




「女、子供達は避難を!男達は武器を持って迎え打つぞ!」




「「「「「おおっ!!」」」」」




 え、ちょ、ちょっと何か勘違いしてますあなた達!にしても凄い統率力です!あれよと、避難と攻撃体制が出来ちゃった……この村の人達どんだけですか!逆にコワッ!!




「ま、待ってくれみんな!!」




 ミネルザが大きな声で叫びます。すると、村人全員が固まってこっちを凝視して来ました。




「ミ、ミネルザか!?」




 1人の武器を持った男性が恐る恐る声を掛けて来ました。それに対して、ミネルザも頷き返します。




「お、おいっ!村長を呼べ!ミネルザが戻ったと!!」




 その言葉に村人さん達がざわついてます。私にはミネルザがどういう繋がりなのかが気になりますが……。




「おおっ!ミネルザかい?」




 小柄で白髪のポニーテール、フードコートを羽織ったお年寄りの女性が村人の男性と共に近寄って来ました。




「ただいま、おばあちゃん。」




 は!?…………私、耳が遠い?……それとも頭がおかしくなりました?




「お、おい!ミネルザ、お前この村の出身なのか!?」




 思わず、騎士団のガザックさんもミネルザに問いただしてます。




「そうだが……言ってなかったか?」




「「「「聞いてないしっ!」」」」




 あの……私も聞いてないです!今初めて聞きました!何でこの村を知っているのかと思っていたら、こう言う事ですか……。




「済まない、話せずじまいで村に着いてしまった。ごめんマサト……。」




 い、いや、責めるつもりでは……額を私の足に付けて許しを乞う彼女、どうしてそんなに可愛いの?


 オジサンはもうメロメロに夢中です♪♪




(い、いや、大丈夫だよ。その事は後でゆっくりと聞く事にするよ。まずは村長さん達を説得してもらって紹介してもらえるかな?)




「え、ああ、そうだね。待ってて、話してくるから♪」




 そこでやっと、村長さんや村の人達に事情を説明してもらってようやく誤解が解けたんです。


 そりゃあね……目を丸くして驚いてましたよ、龍の私がミネルザと恋仲なんて。




「龍が人語を理解しておるじゃと!?」




「恋仲などと……あり得ない、ミネルザ…騙されてないのか?」




「そんなことはない、彼とは会話が出来るしお互いに理解し合える。私も最初は驚いたが……でも今はそれが凄く嬉しい♪♪」




 ありがとうミネルザ……オジサン涙脆くていけない……。




「龍が人語を理解しておるなど……今まで生きて来て初めてじゃわい……。」




 そうですね分かりますよ、信じられない気持ちは。まあ、私も転生しましたから人語を理解しているのであって元から龍そのものだとしたら、理解しているモノがいるかどうか……。




(初めまして。マサトと言います、この度縁あって彼女とお付き合いする事になりました。宜しくお願いします。)




 彼女の傍の地面に文字を書いて、頭を垂れました……。それを見た村長さんと村人さんが卒倒しそうになったのは言うまでもなく……。




「なんと言うことじゃ……文字まで書けるとは……。」




「私も驚きです……ですが、理解していなければここまでの文章は書けませんね。」




「うむ、マサト殿と言ったかの?村に危害を加える事は無いのじゃな?」




 それは勿論!私も頷き返してました。村長さんもようやく理解してもらえたようで……。




「皆の避難と攻撃態勢を解くのじゃ。敵意はないようじゃ……。」




「おばあちゃん……♪♪」




「し、しかし……。」




「大丈夫じゃ、もしもの時は孫娘が守ってくれるじゃろ……そうじゃな、ミネルザや?」




 とシワを寄せながらウィンクしている村長さん、なかなかの人物です。ミネルザが龍の私を好きになった理由がちょこっとですが分かった気がします……。




「おばあちゃん、ありがとう♪」




「おかえり、ミネルザや……。」




 改めて抱き合ってました……良いですね、家族が居るって……。




「おばあちゃん、ガザック達も休ませてあげたいんだけど……。」




「あ、ああ、済まない。良いだろうか……?」




 ガザックさんも済まなさそうに村長さんにお願いしてました。




「おお、騎士団の方々じゃな。孫と一緒に来たのも何かの縁じゃ、部屋を用意しますじゃ。」




「有難い、恩に着る。」




「ようこそ、イネルの村へ♪」




 ガザックも頭を下げてました。騎士の人達って意外と気位が高そうなイメージがあるんですけど、ミネルザと仲が良いと気さくになるんですかね?




「どうぞ、こちらへ。」




「じゃあ、後でな。お二人さん。」




 男性の村人さんに案内されて、一個隊が移動していきました。村の中は地面に土が敷かれていて、地面を50㎝程掘って、長年を掛けて土を運び入れたんだとか……。そのお陰で、自給自足も出来るようになった……この村を開拓した頃は当然土など無かった訳で……。開拓の方々ご苦労様です。家はそれぞれがドーム状の形をしています。横に大小繋がっていたり、雪だるまのように2段重ねになっている家もあります。防寒対策は万全だそうで、焚き木を使う事で部屋の中はポッカポカだそうです。


 一緒にミネルザと暖まりたい……ダメですか……?ってか、ガザックさん今お二人さんって言いましたか!?普通ならこだわって1人と1頭さんとか言いそうですけど、面倒だった!?それとも……。




「二人ともこっちじゃ。」




 は、はい。大丈夫ですか、私が村の中に入って!? この体躯です。周りを壊しながら進みそうなんですけど。


 あ、意外と広い道ですね♪良かった、村を壊さずに済みそうです。




「ここなら、良いじゃろ。2人も離れずに済むしの♪」




 一応広場の様です。まあ、私がお邪魔出来るスペースは限られるのでありがたいです。ミネルザと一緒に居られるのが嬉しい♪




「今夜は、ここで宴じゃ!婿殿の事も色々聞きたいしの♪」




 きゃあ!む、む、む、婿殿って言いましたか!!ミネルザも顔を真っ赤にしてうつ向いちゃった!


 私も照れるしっ!




「お、おばあちゃんったら……♪」




「ほっほっほ!将来そうなるんじゃろ?それなら、今からでも婿殿じゃ。」




 村長さん……意外と大胆……でも、嫌いじゃないです……。




「まずは、ワシも戻って準備してくるでの。それまで休むと良いわい。」




「ありがとう♪」




(ありがとうございます。)




「ええわい、ええわい、こんな心強い味方が出来たんじゃ。しかも親戚になるんじゃぞ、わしゃ生きてて良かったわい!」




 村長さん、何気にサラっと親戚って言いました!? そうですよね、ミネルザと一緒になるってことはそうなるって事ですか……でも、それも承知です!龍と人と言う時点で障害が起きる事は分かり切ってます。ミネルザもそうです、分かっていても私を選んでくれた……感謝しかありません。


 村長さんは自宅に戻って行きました……。村を総出で宴をしてくれるとか……有難いですね、ミネルザと出会ってなかったら人と仲良く出来たかどうか……。




「ね、ねえマサト?」




(ん、なに!?)




 顔を赤くして、騎士らしくないほどモジモジしながら話しかけてきました。




「そ、その……が、頑張って見つけよう!……そ、その……愛の巣……で、良いのかな……?」




 んんんんっ!!!あ、あ、あ、あ、愛の巣!?お、お、おろおろおろ……そんな素敵な……じゃなかった過激な……で、でも……嬉しい♪そこまで言ってくれる彼女に涙……。




(そ、そうだね。見つけよう、誰にも邪魔されずに静かな所を……ミネルザを見つめていたいから……。)




 その文字を見て彼女は破顔して私の顔に頬を寄せてきてハグしてきました。私も前足で優しく彼女を抱きしめます。




「ありがとう♪」




 彼女も顔を付けたまま綺麗な雫をこぼしていました……。私も目を瞑って彼女の温もりを感じます……。




「お邪魔するよ~~!!」




 わっ!ビックリしたっ!って、村人さんか……ああ、宴をするんでしたっけ?みんな、テーブルや椅子や食器や料理等々運んで来ます。




「わ、私も手伝うよ!」




 照れを隠すように慌ててみんなの手伝いに……私だけ首を左右に振ってみんなが行く方向に向いてるだけ……ホントに私って役に立つの!?


 見ている間に、ご馳走が並んでいく事……。いつの間にか全員集まって居ました。先程話をして外にガザルホエールが黒焦げになっていると伝え、村人さん達が驚くやら喜ぶやらで……。やはり危険モンスターだったらしく、時々危険な目にもあっていたんだとか……。


 かえって倒せたので食料や素材、保存食等々に出来ると喜ばれました。


 村の外……超巨大な洞窟の外ですが……いつしか暗くなり月明かりが乱反射して中をボンヤリと照らして居ました。要所に松明やローソクが灯され、ムードがあります。




「皆!集まっておるかの?」




 お、村長さんが乾杯の音頭をとるみたいですね。全員片手にジョッキを……子供達はコップにジュースですよ当然ね♪


 あ、あそこにガザックさん達も見えます。




「今夜は孫娘と婿になるマサト殿の婚約祝いじゃ!食べて飲んで楽しんでおくれ!乾杯じゃ!!」




「「「「「「乾杯っ!!」」」」」」




 その掛け声と共に宴はスタートします。飲んで食べて、みんな楽しんでます……。って!村長さん今サラっと凄い発言してませんでした!?こ、こ、婚約祝いって…………ミネルザだって照れて……あれ!? ミネルザさん?私の足にほんのり頬を紅くした彼女が寄り掛かって来ました。


 綺麗で凄く悩ましくて……素敵だ……私も顔を寄せて彼女と頬ずりしてました。あんまり幸せ過ぎて、天変地異が起きないように……。




「お二人さんは相変わらずの熱々ぶりだな♪」




 ガザックさん、改めて照れます……。




(ランドさんは大丈夫ですか?)




「おお、あの時は助かった大事な戦力が減るところだった。礼を言うよ。」




(いや、無事ならば良かった。)




「でも、お前さんは不思議だな。人間の味方っぽい感じがするが……一体どこで人間の事を学んだんだ?」




 ギクっ!!そ、そ、それは……しまった、ミネルザには質問されなかったので気が付きませんでしたけどそれを聞かれるとは……。




(フードで顔を隠した男性の戦士がある日私の前に現れてね……戦いになりそうになった。でも、私もそんなつもりは無かったので身を躱して攻撃を避けていたら、相手も分かったようで剣を納めたんだ。


 話しかけられても、言葉が分からない……。私が首を傾げていたら、突然彼が言葉と文字を少しずつ教えてくれた……何故そんなに親切だったのかは分からないが、こうして話すことが出来るようになったんだ……。)




 スイマセン……我ながら……ここまで話が作れるとは……後でミネルザにはホントの事を伝えなきゃ……。




「へえ、物好きが居たんだな。で、その戦士は今どこに?」




(いや、急に居なくなってしまって……。探してみたけど見つける事が出来なかった……。それ以来あっては居ないんだよね。)




「そうか……。」




「ガザックはどうしてここに!?」




「あ、ああ、実はな、国がお前達に懸賞クエストを出したんだ。」




「えっ!? クエスト?」




 なっ、マジですか!? 一体どんな……。




「そうだ、お二人さんを共に捕獲するというクエストをな。」




 ほ、捕獲!? 私はともかくミネルザまで? それは、ただ事ではないですね。まさか、ガザックさんも? 私達がガザックを睨んでいました……。さすがに、それに気が付いてガザックが慌てて否定します!




「い、いやいや、待て待てっ!! 俺は違うっ! 俺はそのクエストは発注していない!」




 へっ、どういう事ですか?




「そう、彼はミネルザさんが心配で単独行動に出たのよ。」




「ば、ばかっ!エレザ!お、俺はそんな……。」




 は、はい!? も、もしかしてガザックさんもミネルザの事を……!?一緒に来た傭兵さんでしたっけ、なかなか可愛い人ですね……い、いえいえミネルザほどではないですよ!




「だって、そうでもなきゃクエストもせずにこんな所まで出向く訳がないでしょ!」




「そ、そ、そうなのか……?」




 ミネルザも照れてしまってます。そうですよねえ、急にそんな事を言われればねぇ。




「ふうっ、分かった今更だがその通りだ。だが、今のお二人さんを見て気が変わった。悔しいがミネルザのあんな嬉しそうな顔を見たのは初めてだった……それがマサト、お前さんに対してだ!俺にはそんな顔をさせる自信は無い……それが良く分かった。」




「ガ、ガザック……。」




 私達はお互いに見つめ合い微笑みます。私は奇跡が起きている……こんな日が来るなんてあり得ないと思ってました。たとえ龍の姿であっても……消えて無くなりませんように……。




「楽しくやっておるかや?」




「おばあちゃん。」




「村長さん、今日は済まない礼を言うよ。」




「なに、ミネルザの知り合いなら歓迎じゃ。敵対するなら話は別じゃがの?」




「い、いやいやいや、俺たちは味方だ!この2人を応援したくてな。」




 え、仲間になってくれる!? 良いんですか? 敵を作ってしまいますよ?ミネルザも驚いてます。




「ああ、俺たちも騎士団を抜ける!」




「えっ!? ガザック! それは……?」




「ここに居る全員が納得している。俺もあの国には愛想が尽きたのさ。と言ってお前達と一緒に行くわけじゃないがな。」




(そうなんですか?)




「ああ、お前達の恋路の邪魔をする訳にはいかないしな♪」




 いや~ん、照れます~!……し、失礼……でも、潔くてある意味カッコイイかも。私には出来そうにない……こんな恋愛2度と無いかと思うと、切なくて……。




「ならば、お前さん達にもワシからクエストをお願いするかの。」




「は!? クエスト……?」




 彼が村長さんに突然クエストを依頼されるとは思って無かったので驚いてます。




「そうじゃ、ミネルザ…お前達にもじゃ。」




 へっ!?私達も……? 村長さん……大丈夫ですか? ニヤリと見つめて来る村長さんに何故か不安になる私達……でも、この依頼が私達をより絆を深くする事になろうとは……作者以外誰も知りませんでした…………つづく。

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