「Frame」
七芝夕雨
第1集 Fire is gift , and water sorrow.
プロローグ とある灯火の話
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少年にとって──否。この街にとって、クリスマスは曰く付きだった。
それでも
「どうしても、駄目なんですか?」
もう何度目とも分からない直談判。目先に座る教師はただ眉を寄せるだけで、口を開くことはなかった。「当然だ」と言葉にすることすら憚れるのか。
最初は諭されたものの、そこには傾聴の姿勢があった。懺悔の念が混ざる表情に、少年は一縷の希望を見た気がした。だが、数を重ねる毎に懺悔は同情へ、困惑は恐怖へ──そして今、困惑は遺憾へと変化した。諦観と言い切れないのは、彼女特有の慈愛が滲み出ていたからだろう。
暫しの間見つめ合い、いつものように先生が視線を外す。それから「ごめんね」と、これもまたいつものように謝罪を告げた。初めの内は食い下がっていたものの、最近は踵を返すことの方が多くなった。
どれだけ罵られても、蔑まれても良い。ここまで来たら根比べだと、少なくとも少年は思っていた。
「
けれどその日、彼女は珍しく言葉を続けた。意を決したような表情に、どこかで警鐘が鳴り始める。
「こんなこと、もう辞めましょう」
問い返す間もなく、先生は続ける。
「あなた一人の問題だったらまだ良いわ。だけど、少しは周りに目を向けてほしいの」
「生憎、迷惑を
「いいえ、居るわ」
予想外の解答だった。それでも瞬時に理解出来たのは、少年にも思い当たる節があったからだ。だからこそ、彼はここで踵を返すべきだった。
先生が机の引き出しに手を掛ける。
「私も教師である以上……いえ。この街で育った以上、その責務を果たします」
これ以上耳を貸してはいけない。しかし振り切ることは叶わず、かち合う視線は揺れることさえ許さなかった。それだけの想いを先生も宿している。
抗えぬまま、手渡された用紙に目を通す。内容によってはこのまま破り裂くことも考えたが、
「……正気ですか?」
本気ではなく、正気。
かつて問われた言葉を返すと、先生は力強く頷いた。それに
「大丈夫、きっと良い方に動くわ。少なくともあなたにとっては」
慈しみ溢れる声色が、少年の心を飲み下す。あれだけ焦がれた夢なのに、紙上の言葉一つで
クリスマス。イエス・キリスト降誕を祝福する祭日。
けれどもこの街は、月ノ
皮肉なものだと冷笑する少年を、先生はただ悲しげに見つめるだけだった。
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