第70話 R.I.P.僕のファーストキス
今回はちょっと短めです。
書いてて長くなり過ぎたので、読みやすさを優先して分割しました。
すぐに次話も投稿します。
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早朝。
窓から差し込んだ日差しを受け、目を覚ますと――隣りのララがジッと僕を見詰めていた。
なんだかこんな状況がつい最近もあったなーと思い返していたら、ララが頬を染めながら朝の挨拶。
「お、おおおはようハルト。そ、そのよく眠れた?」
「うん、おはようララ。そりゃ寝れたけど、なんで顔赤いの? 僕に見惚れてた?」
おおよそ昨日のキスを思い出して照れているのだろうと思った僕は、意地悪半分で彼女に聞く。
すると案の定ララはそれを思い返すように唇に手を当て、顔全体を真っ赤に染めて恥ずかしがる。
ふふふ、可愛いやつめ。
ファーストキスを奪われた時は流石の僕も頭が真っ白になり、コイツ殴ってやろうかと思ったが、奪われてしまったものは仕方がない。
今更喚いても僕のファーストキスは返って来ないし、所詮この世は弱肉強食。僕の油断を突き、キスという成果を手にしたララの方が一枚上手だったのだ。
それにこんな素敵な巨乳お姉さんが相手ならば、僕のファーストキスも浮かばれるというもの。
「う、うん。起きたらハルトがまだ寝てたから、昨日の、キ……キスの復習をしてみたの。そしたらすぐにハルトが起きて――――」
なにしてくれとんのじゃ、この女はぁあああッッ!!
ファーストキスのみにとどまらずセカンドキスまで奪うとか、おのれは唇泥棒か!
確かに一度キスしちゃったら二度目への抵抗は薄れるよ? 僕がリセアに勝手に感じていた申し訳なさも朝起きたらスッキリ消滅だ。
でもせめてそんなイイコトは僕の意識がある時にやれやあああ!!
「――それでね? キスしたからか、私今日すごい元気なの。これならどんな敵がやって来ようと皆を守れそう。ハルトのおかげだね!」
「うん、そうだね。僕も元気元気……」
憑き物が落ちたように百点満点の笑顔を見せるララを見ていたら文句を言う気も失せてしまった。
そもそも唇を奪われた敗者として、今更勝者に物を言う権利なんてない。
そうして朝からむずがゆいやら気恥ずかしいやら、そんな雰囲気を味わっていると私室の扉のベルが鳴る。
「ララ様ー! おはようございますわー! 朝食を一緒にと思ったのですけれど入ってよろしいですかー?」
声の主はヴィリアンだった。
彼女は城内では常に何者かに見張られていると言い、あまりララの私室には近付かないようにしていたハズだがもう平気なのだろうか。
もしかしたら敵も今更計画がバレた所で状況は止められないと判断して監視をやめてしまったのかもしれない。
「はーい、いいですよー!」
ヴィリアンを迎えるため、僕とララは二人で寝室から居間へ移動する。
すると、ヴィリアンの顔を見たララが一目散に彼女に駆け寄り抱き着いた。
「ちょっ、ララ様!? 一体どうしたんですの?」
一体何事かと慌てふためくヴィリアンは、ララが取り乱した原因が僕にあると睨み、こちらに冷たい視線を向けて来る。
それに対し、ぶんぶんぶんと首を全力で横に振り罪の潔白を主張。
「ヴィリアン。あのね、今まで他人行儀な喋り方を続けてて本当にゴメン。私怖かったの。私と仲良くしてたら皆も私みたいに酷い事いっぱい言われるかもって」
「あら、ララったらそんな事考えてましたの?」
「うん、そうなったらヴィリアン達も私を嫌いになるんじゃないかって怖かった。でももうやめる! 私、ハルトに勇気と自信を貰ったから」
涙を浮かべてなんだか幼児退行気味なララと、ララを抱きながら母のような慈愛の笑みを浮かべるヴィリアン。
なんのこっちゃ分からないけどイイハナシだなーと傍観していたら、何故か僕の名前が飛び出た。
「わたくしとララはずっと親友。それは何が起ころうと変わりませんわよ。……それでララ、ハルトに何をされましたの?」
まるで僕が何かしたのが前提みたいな質問はやめて欲しい。何かしたどころか、僕はララに穢れなき唇を奪われたんだぞ!
ララはヴィリアンの質問にポッと再度頬を赤らめると、小声で返答。
「その……私、一線を越えちゃった」
「あらま!?」
「その誤解しか生み出さないセリフを口にするのはやめてもらおうか!」
「なんと、たった一夜にして一線を……!? ハルト、親友としてララを女にしてくれたことに感謝しますわ」
「いやいや、どういたしまして」
――……はっ!? 感謝されたからついそれを受け取ってしまった!
ちくしょう、こんな所で両親に受けた高等教育の成果が現れるとは。これじゃあますます誤解が加速していくじゃないか。
「それで式はいつにしますの? 子供は何人予定?」
「もう、ヴィリアンったら。気が早ーい」
気が早いってそんな未来は訪れないよ!?
ちゃんと僕好きな子がいるって言ったよね!?
ちゃんと君振られちゃったって認識してたよね!?
この僕の心をここまで掻き乱すとは、流石聖王と聖騎士長。侮れない。
「まぁ冗談はこれくらいにしましょう。恥ずかしがり屋のララの事ですから、どうせ一線と言っても手を繋ぐレベルなんじゃありませんの?」
おお、凄いぞ。親友というだけあってララをよく理解している。
「ふふーん、甘いよヴィリアン。私ももう二十三だからね。そんなお子ちゃまじゃなぁーい! ここだけの話だけど、実はキ、キスしちゃった……!」
「キ、キキキキキス!? もはや結婚したも同然じゃありませんの!?」
いやそんなんで結婚させられてたまるか! 僕はリセアと結婚するんだから!
「こうしちゃいられませんわ。料理長にお赤飯を作って貰わないと!」
そしてここだけの話を最速で城中に漏洩しようとするんじゃない!
この話が万が一ローズの耳に入ったら、ララが十字架
なんとしても情報の拡散は阻止しなければ!
僕は急いで部屋を出ようとするヴィリアンをなんとか落ち着かせにかかる。
「そ、そんな事よりもまずは今日という一日に集中しようじゃないか。敵は【混沌の牙】。かなりの数が聖国に入っているって情報だし、その撃退記念のお祝いならいくらでも付き合ってあげるからさ」
騒がしい朝食を食べ終わり、ララが私室に備え付けられているトイレに向かった。
すると、珍しく畏まった様子のヴィリアンが僕に向かって頭を下げる。
「ハルト、ララを救ってくれた事、本当に感謝いたしますわ。わたくしはララの親友として、そして誇りあるドラゴンの一柱として、この恩は決して忘れません。わたくしの手を借りたい事があったら、気兼ねなく言ってくださいまし」
「ハハ、大した事はしてないさ。ララは一人で立ち上がったんだ。でもそう言ってくれるならその言葉は覚えておこうかな」
むっふっふ、なんかよく分からんがアインクラスの戦闘力を好き放題出来る権利を頂いてしまった。
この先、もしムカつく国があったらヴィリアンをけしかけるのも悪くない。
「それでは、今日もハルトの活躍を楽しみにしておりますわね」
ヴィリアンはとても嬉しそうに鼻歌を口ずさみながらララの私室を後にする。
一人ポツンと残された僕の頭の中では、彼女の先程の言葉が何度もリフレインしていた。
…………。
………………。
……………………。
――ドラゴンの一柱としてってなにッ!?――
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ちなみにハルトと違ってアインはヴィリアンの正体に気付いてます。
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