第41話 シュカの恋の行方
学長室から出ると、そこでは先輩が壁に寄りかかりながら僕達を待っていた。
「……なんか学長の悲鳴が聞こえてきたけど、何したんだあんたら?」
「え? 空耳じゃない? きっと疲れてるんだよ先輩」
そう、あれは断じて悲鳴なんかじゃない。
ヨウの九才とは思えぬ実力を見た学長が上げた歓喜の声なのだ。
流石は名門校の学長。
若き才に嫉妬するどころかあそこまで喜ぶなんて……。教育者の鏡だね。
てか普通思わないよ。あんな無造作に置かれている杖が学長のお気に入りの杖なんて。
そんなに大切なモノなら鍵でも掛けて大切に保管するべきだ。
あんなの誰だって折りたくなっちゃうに決まってるし、だからこそ僕は断じて悪くない。
そんな完璧な理論武装により、無事脳内裁判で無罪を勝ち取る事に成功した僕。
すると、聖女ラブなシュカがうっきうきで先輩に話し掛けた。
「そんなことよりユノちゃん! 新婚旅行はどこに行きたい? 子供は何人作るか考えてくれた?」
「結婚は断ったじゃねーか! そもそもなんで付き合うとかをすっ飛ばしていきなり結婚なんだよ! 絶対おかしーだろ!?」
「なるほど。ユノちゃんは結婚前の時間も大切にしたいタイプなんだね。分かった。じゃあまずは婚約で我慢するよ」
「話が通じねー!? てかなんでアタイなんだよ。会っていきなり好感度マックスなのって、こっちからしたら恐怖でしかないからな!?」
先輩はじりじりと詰め寄って来るシュカから逃げるように後ずさるも、すぐに壁にぶつかり絶体絶命だ。
「それはね、ユノちゃんが僕より背が低くておっぱいが大きいからだよ!」
「動機が不純過ぎるだろ! せめてもう少し隠せ!!」
先輩はシュカの真っ直ぐな言葉を聞き、恥ずかしそうにその大きな胸を腕で隠す。
どうやらその手の話題にはあまり耐性が無いようで、頬が赤く染まっている。
「ちょっとちょっと。なにうちの弟に手を出してくれてんのよ。姉であるアタシに挨拶すら無しで! はぁー、聖女って常識ないのね」
「私にとってもシュカ君は親友であり、弟のような存在でもあります。それをそんないやらしい身体で誘惑して……この変態」
「テメーら話聞いてたか!? 完全に被害者はアタイだぞ!? それにアタイにそんなつもりはねー!!」
「はぁ? アタシの弟じゃ不満だっての!?」
「信じられませんね。シュリちゃん、きっとこれはあれですよ。自分と結婚したかったら金を払えって言う結婚詐欺です。悪女ですよこの子!」
「それだ! ちょっと聖女! アンタ、なにうちの弟を罠に嵌めてくれてんの? 賠償金払いなさいよ、賠償金! アンタもそう思うでしょ、ヨウ!」
「……は、はい。見た事もないくらいあくじょです……」
「アタイに味方はいねーのか!? てかなんで最終的にこっちが金払う事になってんだよ! それこそ詐欺だろ!」
どうやらシュリとマリルはシュカを奪おうとする先輩が気に入らないらしい。
マリルは先輩の可愛らしい大きな瞳を、シュリは先輩のたわわに実った大きな胸を親の仇のように睨み付ける。
そしてヨウは、初めて見る悪女を前にして、「これがあくじょ……」と呟きながら珍獣にでも向けるような視線を先輩に送っていた。
「おい、そんなに人の胸を凝視するんじゃねー!」
「別に良いじゃない、減るもんじゃ無いんだし。それともそんなに見られるのが嫌なら、アタシがその無駄にデカい胸もいであげようか? シュカに頼んでアタシの胸に移植してもらうから」
「発想が怖すぎだろ! あーーもうこいつらめんどくせー!! 新入り、何とかしてくれ!!」
何とかしてくれって言われても、僕にはどうにも出来ないよ……。
シュリ達はシュカが変な女に騙されないよう百パーセント善意でそう言ってるだけなのだ。
僕はそんな美しい姉弟愛や友情に横槍なんて入れられない。
「てかアタイは聖女だぞ。聖女は神に身を捧げてるから結婚とかしねーの! 一生処女なの!!」
「え、太陽教の神って女神だよね。もしかして先輩って……そっち趣味?」
確かにそれならシュカのプロポーズを断る理由として充分な理由だ。
ルックスが整っていて、おまけに才能も能力もあるシュカからここまで熱烈なアプローチを受けたら、普通女の子は落ちる。
何故先輩が結婚を即断しないのかと不思議に思っていたが、そういう理由だったのか。
まさか過ぎる衝撃の事実が発覚し、シュリとマリル、ヨウの女子三人組は身の危険を感じて僕の後ろへと隠れる。
そしてマリルは急いで取り出したメモ帳にこう書き記す。
「聖女様は女好きの処女……っと」
「おい、そのメモを書く手を止めろ! アタイはノーマルだ! 普通に男が好きだから!!」
「……というのは設定で、実は男好き……っと」
「人の発言を悪意に満ちた切り取り方するんじゃねー! ってかそのメモを一体どうするつもりだ!?」
「それは勿論、地元の新聞社や風説を流されたら困る教会のお偉いさんに売る……おっと、これ以上は言えません」
「全部言ってんじゃねーか! 悪魔か、テメェは!!」
ぷりぷりと怒る先輩の姿もそれはそれで好きなのか。シュカはとてもいい笑顔で先輩を眺めている。
うんうん、やはり恋というのは素晴らしい。
「そ、そもそもアタイはこんな男っぽい喋り方だし、女っぽくもないし……」
「大丈夫! そのおっぱいだけでも充分女っぽいよ! ぼくは大好きだ!!」
「やっぱ胸だけなんじゃねーか! ますます結婚なんてしたくねーぞ!」
「そんな……! ユノちゃんの好きな所が胸だけなハズないじゃないか! 顔もお尻も太ももも全部大好きだよ!!」
「煩悩の塊かテメーは!? ちょっとはその下心を隠しやがれ!!」
ふっ、まだまだだなシュカも。女の子の脇に魅力を感じないとは。
まぁ僕ほどの上級者ともなると、そんなエロくて当たり前の部位だけでなく、服の下に隠れた下着姿を勝手に想像して勝手にエロスを感じてしまうものだけどね。
そう例えば――――
「先輩、そのシスター服の下に黒のスケスケパンツとガーターベルトを着用すれば、もっとエロくなるよ!」
「いつ、誰がエロくなりたいなんて言ったよ! もう少しましなアドバイスしろ!」
あぁ、僕の言葉を聞いて先輩のそんな姿を想像したシュカが鼻血を出してしまった。
やれやれ、シュカにはちょっと刺激が強すぎたかな?
「(ハルト、今日のアタシの下着は黒よ。当然透けてるし、ガーターベルトもある)
「(ハルト君、私は上下白です。無論、ガーターベルト付きですよ)」
すると、僕の右耳でマリルが、左耳でシュリがそう囁いて来る。
ぐはっ、ヤバい、想像したら僕も鼻血が出そうになって来た。
二人共案外恥ずかしがり屋なので間違っても見せてくれたりはしないだろうが、それでも昔からの幼馴染のそういった姿というのは想像だけで凄まじい破壊力がある。
だが、僕は……僕は勇者ちゃん一筋なんだ……!!
勇者ちゃんのあられもない下着姿を想像する事で、
そんな僕の背後から、今度はヨウが甘く囁いて来る。
「(わ、わたしはTバックですよ、ハルトお兄様……)」
誰だよ、ヨウに変な事吹き込んだ奴……。
僕はロリコンじゃないんだぞ……。
ちなみにその頃、アインは一人学長室から出る事を拒み、秘書のおばさんを口説いていた。
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