第19話 作戦会議

「ほんとうに、ほんっとーに結婚しないのか? 後で後悔しても知らないぞ?」


 早朝。

 体調も回復したという事で、帝都へ帰還するアオを僕達を見送っていた。


「しつけーよ。俺は熟女以外興味ねーって言ってんだろ?」

「アタシも女はちょっと……」

「私にはハルト君が居ますし」

「ぼくは、自分よりも身長の低い子が良いな……」


 話を聞くに、どうやらアオの一族の女は昔から家族以外には顔を見せてはならないという掟があるらしい。


 前時代的な話だとは思うが、アオは大真面目にその掟をこれまで頑なに守って来たそうだ。

 しかし、昨日とうとう僕ら五人に素顔を見られた。


 大切な掟を破ってしまったったら死罪。

 だがそこでアオは逆転の発想を思い付く。



 そうだ、家族以外に見せてはならないなら、顔を見た五人全員と結婚しちゃえば良いじゃない。  



 そんなこんなで、一晩中僕らはプロポーズをされ、それを断固として断るという流れ作業を続けた。

 少なくとも全員で百回は断りの文句を言ったはずだが、やはりSランクは只者じゃない。

 心が折れるどころか、より結婚への情熱を燃やしてこうして別れるギリギリまで驚異の粘りを見せ付けている。


「ほら、ハルト! お前はボクの事可愛いって言ったじゃん! 実はボク……意外に胸もあるんだよ?」

「まずはお友達からお願いします!」

「「ちょっとハルト(君)!?」」


 シュリとマリルが非難の声を上げるが、これは仕方がない。

 だって美少女な上に巨乳なんだよ?

 ここで縁を切ったら僕は一生後悔する。


「そうだね、焦ることは無い。ゆっくりと愛情を育んでいこうか。しかしこの事を知られたら、絶対お父さんに後で殺されるな」


 いやお父さんも、まさか娘が男女五人組と同時に結婚しようとしてるなんて予想してないと思う。


 確かに帝国では重婚が認められているが、あれは貴族が沢山の美女をはべらせるためにあるだけの法律。

 一般人でそれをやる人間なんて滅多にいない。


 男だけでなく女にまで……それも複数人に同時に手を出すとか、Sランクのストライクゾーン広すぎである。


「それじゃ皆! 帝都に来たらまた会おう!! その時はきっと婚姻届けにサインをさせて見せるから!!」 


 昨日同様、全身が完全に隠れた黒装束姿のアオは、後ろ手に手を振りながら颯爽と僕達の元から去っていった。


 相変わらず足が早いなぁ。

 きっと追いかけっこをしたら、僕らでも敵わないに違いない。


「いやー、なかなかおもしれー奴だったな」

「しかも強いしね!」

「あの子だったら世界征服を成し遂げた後、色々優遇してあげたいです」

「ぼくもあの俊足の仕組みを知りたかったけど、解剖はやめておくよ」


 アイン達も結婚は断固として断るが、友人としてアオの事はかなり気に入った様子。


 僕ら五人は昔から仲が良すぎて、他の友人を作る機会がほとんどなかった。

 だからこうして、僕達を恐れたりすること無く対等に接してくれる新たな友人というのは非常に貴重だ。


 近い将来僕達も帝都に向かうし、またその時に会うのが今から楽しみである。

 僕はこの出会いに感謝しながら、アオが走り去っていた方向を眺め続けた。



~~~~~~



 アオを見送った後、僕達は男部屋で今後の計画について作戦会議を行っていた。


「まず大前提として、僕ら五人だけではどう頑張っても世界征服は不可能だ。それを手伝ってくれる人材を見付ける必要がある」


 僕は手を組みながら、真剣な顔で皆に言う。


 世界は僕らの考えている以上に広いのだ。

 たとえ一人一国ずつ国家を征服していったとしても、たった五か国だけでは世界征服とは言えないし、一度征服したらその状態を維持していかなければいけない。

 だからそれを助力してくれる協力者の存在が必要だ。


「だけどよぉ、裏切り者が出るかもしれないぜ?」

「ぼ、ぼくもここにいるメンバー以外は信用できないと思う……」 


 確かにアインとシュカの言う事も分かる。

 普通に生活するくらいなら、そこまで裏切りだとか反乱に気を遣う必要はないが、僕らが行うのは歴史上初めての偉業だ。


 歴史に名を残す僕達は、その功績を掠め取ろうとする背後からの奇襲や現体制側からのスパイにも当然警戒しなければいけない。


「僕もそう思う。先生だって大事を為す時に、最も恐ろしいのが裏切りだと言っていたしね。だから僕も本当の意味での仲間はこの五人だけだと考えている」


 村で僕達に勉強から戦い方まであらゆる事を指導してくれた先生曰く、僕達が夢を絶たれる可能性として最も高いのが女と裏切りだそうだ。特に前者で僕とアインが危ないらしい。


 僕は小さい頃から勇者ちゃんにぞっこんだから女でやらかす心配は無用だと思うのだが、先生は一体僕の何を見ているのだろう?


「そりゃアタシもこの五人以上に信頼出来る人はいないと思うけど、じゃあどうする? 奴隷でも見付ける? アタシがちょっとひとっ走りして探してこよっか?」

「シュリちゃん……。奴隷制度は百年以上前に廃止されてるから奴隷なんてどこをどう探しても見つかりませんよ?」


 仲間もダメ。奴隷もダメ。そうなると選択肢はかなり限られてくる。


「そこで僕が提案したいのは乗っ取り作戦だ」

「「「「乗っ取り?」」」」


 僕以外の皆が揃ってきょとんとした顔をするので、僕は分かりやすいように噛み砕きながら説明を行う。


「世界には反社会的勢力が存在する。紛争地帯や貧困国家には勿論、大国であるここジルユニア帝国にだって奴らは深く根を張っている」

「そうですね。有名な所で言うと、【混沌の牙】とか【終末教】なんてのがありますね」


 大して調べたりもせずに、多分こうだろうとテキトーに言ったが、やはり僕の考えは間違っていなかった。 

 僕はマリルによるファクトチェックがいつも通り有効に機能した事に満足を覚えながら、続けて言う。


「そういった連中は、大概国の法律で守られていない。国がそんなはた迷惑な存在をわざわざ助ける義理なんてないからね。だからこそ――――」


 そう言うと、僕はそれっぽい雰囲気作りのために完全に閉め切っていたカーテンをバサァッと開ける。

 そして入り込んでくる光を背中に浴びながら力強く述べた。


「――僕らで乗っ取る!! あんなゴミみたいな連中なら、僕達が暴力と恐怖で支配しても誰も困らないからね。もし裏切り者なんて出たら裏切り者本人とそいつの部下、そしてその家族を皆殺しにしよう。そうすれば二度と僕らに歯向かう者はいなくなる。おまけに世界がより平和にもなる」

「おお! 完璧じゃねーか!!」

「確かに計画の初期段階で世界の敵認定される最悪のシナリオは回避できますね。むしろ感謝されちゃうかも」

「うん! 虫けらをどう扱おうが、それは飼い主であるぼくらの勝手だもんね!」

「すごーい! やっぱハルトって超てんさーい!!」


 はっはっは! それほどでもあるよ。


 いつものように、皆は僕の作戦に賛同してくれた。

 ならば後は行動あるのみ。



「という事で、まずはここジリマハにおける反社会的勢力を僕らの下僕にする所から始めようか」

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