第18話 十二位④
「………………んっ……ここは……?」
五人で順番に交代しながら看病していると、ちょうど僕の番でアオムラサキが目覚めた。
現在の時刻が二十一時であることを考えると、彼女は凡そ八時間もの長時間気絶し続けていた事になる。
もう気絶っていうかただの睡眠だな。
一体アインはどれ程強い力で彼女を殴りつけたのだろうと少し気になる所だが、今は事情説明が先だろう。
「ここは僕達の泊まっている宿だよ。君がなかなか起きないから僕達が連れて来たんだ」
「宿……だと……!? 嘘つけ! 明らかに危険な何かを祓うためのお札が大量に貼られてるじゃないか! ボクはそんな簡単に騙されないぞ!!」
そう、アオムラサキを寝かすために急遽取った部屋。
それは、初日にヨウちゃんのミスで僕達が最初に連れて来られた呪いの部屋なのであった。
ヨランさん曰く、今お客さんに貸し出せるのは僕達の泊まっている二部屋とこの部屋しか無いらしい。
旅館として客に提供できる部屋が三部屋しかないなんてここの経営能力に疑いを抱かざるを得ないが、一体ヨランさんとヨウちゃんはこんな状況でどうやって借金を返すつもりだったのだろう。
「僕もこの部屋を宿の一室だとは説明したく無いんだけど、それが真実なのだからしょうがない。というか君、言葉遣いが素に戻ってるけどもうキャラ作りは良いの?」
「キャラ作りなんかじゃない! あ、あれは仕事用のボクだ。でも今は仕事中じゃないからこれで良いの!」
なるほど。オンオフの切り替えがハッキリし過ぎてるタイプか。
それにしては仕事中もちょくちょく素が出ていたような気がするが、まぁそれは黙っておいてあげよう。
「ってああッ!!? ちょっと待って!? ボ、ボクの服は!? それに何でボク寝巻きを着てるの!?」
「…………そっちの方がエロいからね」
「ぶっ殺す!!」
「噓噓! 冗談だよ!」
一体どこに隠し持っていたのか。アオムラサキはその言葉通りに、僕の顔面向かってナイフを投擲した。
おかしいな。シュリとマリルが気絶した彼女を着替えさせた時に、大量に隠していた武器やら毒やらを没収したと言っていたハズなんだが……。
忍者って不思議だなーと考えつつナイフをひらりと躱すと、僕の背後の壁にナイフがぐさりと突き刺さる。
「全く、心の距離を縮めるための小粋なジョークじゃないか。この壁の弁償は君がするんだよ?」
しかしそんな僕の声は彼女には届いていないようだ。
アオムラサキは長いサラサラの黒髪を掻き毟りながらブツブツと呟く。
「か、かかかか顔を見られた! あ、ああああり得ない。家族以外の! それも男に!!」
アオムラサキは、我が愛しの勇者ちゃんと同じく吸い込まれてしまいそうな深い黒色の髪をしていた。
肩の下辺りまで伸ばした長髪と大きな瞳はとても美しく、小柄な体格も相まってまるでお人形さんのよう。
あんな目元しか露出していないような黒装束姿でなければ、きっと今頃はもっと世界的に有名なスター冒険者になっていたに違いない。
初めてこの姿を見た瞬間に僕はビビッと来たね。
これは僕調べ『美少女ランキング』Sティアにギリギリ及ばないAティアであると!!
しかしこれほどまでの美貌を持っているというのに、当の本人は顔を見られたくらいで凄い取り乱しようだ。
一体何がどうしたというのだろう? ……恥ずかしがり屋さんなのかな?
「お、お前! な、名は何と言う!」
「僕? 僕はハルトだけど……」
アオムラサキは、突然俯かせていた顔を上げるやいなや、僕に名前を尋ねる。
そう言えば自己紹介していなかったなと思いながら、それに答えてあげると彼女は覚悟を決めたような顔で言った。
「よしハルト。ボクと結婚しよう!」
「え、嫌だけど……」
いきなりのプロポーズに面喰いながらも即お断りすると、「信じられない」とでも言うような驚愕の表情を浮かべるアオムラサキ。
いや出会っていきなりで結婚しようとか言い出す君の方こそが僕は信じられないよ……。
そもそも僕は、七才の時に出会った勇者ちゃんと結婚する事が運命で定められているのだ。
「ボクこんなに可愛いのに?」
「凄い自信だな。確かに君が可愛いのは僕も認めるけど……」
「ボクと結婚できる男は世界一の幸せ者だなって昔からお母さん言ってたよ? ハルトは幸せになりたくないの?」
「いや君と結ばれなくても幸せになる道は残されてるからね。なに、君は自分を振った男を不幸のどん底に陥れる疫病神なの? だとしたら最悪すぎるよ」
ちょっと会話をしただけでプロポーズしてくる狂人を振ったら人生ゲームオーバーとか、もうどうしようも無い。
なんて理不尽な存在なんだ……流石Sランク。
そうしてSランクのヤバさに心の底から戦慄していると、いきなり部屋の入口が凄い勢いで開かれ、そこからシュリ、マリルが突入してきた。
「ちょっと待ったぁぁ―――ッ!! 誰の許可を得てアタシの男にプロポーズしてんのよ!」
「そうです! 私の旦那様を誘惑するのはやめてください!」
いや、別に僕はシュリの男でもマリルの旦那様でも無いけどね?
この二人は昔から僕を自分の所有物かなにかだと認識している節がある。
そしてそんなテンションの高い二人の後に続いて、アインとシュカもやって来た。
「よお十二位! 飯食うだろ? ここの飯は滅茶苦茶旨いぞ?」
「ははは。お兄ちゃんって厄介そうな人によく好かれるよね……」
先程までは男部屋でトランプをして遊んでいたのだが、どうやら僕達の会話が隣りの部屋まで聞こえていたようだ。
アインはヨランさんがアオムラサキの為に作っていたお弁当を持ってきて彼女に手渡す。
ていうかシュカ。僕は厄介そうじゃない女子からもモテるよ?
例えば……そう例えば…………メス猫とか?
「あ、あわわわわ! ボクまだ素顔なのに! 来ないで! 見ないで―――ッ!!」
再びアオムラサキが顔を手で覆い、慌てふためく。
「いや見ないでって言われても、お前の看病をしてる時にもう全員見てるぜ?」
「う……そ……!?」
「ホントホント。そもそもアンタを着替えさせたのはアタシとマリルだからね?」
アオムラサキはアインとシュリの言葉を聞き、愕然とした様子。
そして十秒ほど固まったかと思えば、急に思い詰めたように呟く。
「ただでさえ
もしや口封じに僕らを皆殺しにでもするのだろうか?
だとしたらちょっと面白いな。
「お前達五人、全員ボクのお婿さんになれ!」
「「「「「は?」」」」」
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