第15話 十二位①

「これが要望通りの資料だ。絶対に紛失したり横流しするんじゃねぇぞ?」


 キングモンキーの討伐を確認したから報酬を受け取りに来いと呼び出された僕達は、いつものように支部長室へと通されていた。


 今日もガンテツ支部長はいつも通り何故か機嫌が悪いし、その隣りで優しく微笑んでいるネロンさんはいつも通り美人だ。


「別に支部長が自ら渡してくれなくても良かったのに。毎度毎度支部長室に来るために六階まで階段をのぼりするこっちの苦労も考えてよ」

「やかましい! こんな重要書類の受け渡しを一般職員になんて任せられるか!」


 だったらネロンさんに任せれば良いのに。

 ネロンさんと自由にお喋りできるなら、僕も頑張って階段を上る気になるよ。


「お兄ちゃん、これはなんの資料なの?」

「結構分厚いですね。なかなか読み応えがありそうです」


 受け取った資料に興味津々なのか。皆が僕の手元の資料の束を覗き込んでくる。


「これはSランク冒険者の資料だよ。やっぱり自分達の上にどんな人がいるのかは気になるからね。今後の参考になればと思って、支部長に頼んでおいたんだ」


 冒険者ランクの最高位、Sランク。

 恐らく世界でも最強の人材が集うそのランクの情報を集めれば、今後の世界征服の計画を練りやすくなる。

 ガンテツ支部長やネロンさんの手前、大分言葉は濁したがアイン達は僕の言いたい事をすぐに理解してくれたようだ。


「へぇ、Sランク冒険者の資料ねぇ~。アタシ達よりも強そうな奴がいるか楽しみね」

「さっすがハルトだな! 俺もつえー剣士がいないか興味あるぞ!!」 

「私は美人な人がいないか気になりますね。ハルト君、顔の良い強者に弱いですから……」

「ぼくはぼくより背か低い人がいたら嬉しいな」


 アイン達は皆強者と戦うのが好きだからね。

 もしこの資料にSランク冒険者の住所とかが載っていたら、すぐさまそこに向かってしまいかねない。


「いきなりキングモンキーを討伐した期待の新人って事で本部が許可してくれたんだ。絶対に悪用はするなよ?」

「「「「「はーーい!」」」」」

「本当に分かってんのかねぇ、こいつらは……」


 なんて失礼な。

 僕らは村でも返事だけは良いと評判の五人組だったんだぞ?


「まぁまぁ支部長。この子達も強者に憧れる年頃なんですよ」

「そんな可愛い事を考えるタマじゃねぇだろ……」


 試しに資料をパラパラとめくると、順位順に冒険者が紹介されていた。

 これを見るに、どうやらSランク冒険者は皆ランキングで順位付けされるらしい。


 王族、現役騎士、ボディーガード、元死刑囚、アイドル……。


 そこには様々な人物の姿絵、身体的特徴、経歴、使用武器、所属ギルドが記されており、見ているだけで楽しめる内容となっていた。


 そして流し見た感じ、一つだけ分かったことがある。

 それは、全員死ぬほど目力めぢからが強いという事だ。


 屈強なゴリマッチョは勿論、ひょろっとした優男や可愛らしい女の子まで。

 全員が全員目と眉が近い。そして親の仇でも見るような目付きをしている。


 Sランクには感じの悪い人しかいないのか?

 一人くらいぼけぇっとしたゆるキャラタイプがいても良いと思うんだけど……。


「悪いが残りは帰ってから読んでくれ。この後、テメェらにはやってもらう事があるんだ」

「はぁ? なんでアタシらがアンタの命令を聞かなきゃなんないわけ!? お金も貰ったし早く帰りたいんだけど!!」

「落ち着け。テメェらも話を聞けばきっと――」

「やめてください! 私達に命令出来るのはハルト君だけです。どうしてもというのなら土下座してください。そして全財産を差し出してください。そうすればちょっとは考えてあげます」


 凄い、それだけさせておいて考えてあげるだけなんだ。

 よく見ると、アインとシュカの二人もガンテツ支部長の発言は許容できないのか。

 それぞれ短剣と杖をテーブルの下に構えている。


「だから落ち着けって。別にワシは命令しようだなんて考えてねぇ! おい、ハルト! リーダーなんだから傍観してないでこいつらを止めろ!!」

「ええー? なにー? ごめん、僕ちょっと耳が遠くて。とても無礼な態度でものを頼まれた気がするけど、僕の空耳だよね?」

「ぐぬぬぬぬぬ」


 僕は一瞬たりともチャンスを逃さない男。

 少しでも優位に立てる機会があるのなら、そのチャンスを最大限活用し相手に強く出る。


 そもそも、支部長だからって僕らと対等に話している現状がおかしいんだよ。

 確かに年齢は僕らよりも大分上かもしれない。でもそれだけ。

 実力は当然僕らの方が上だろうし、いずれ世界征服を成し遂げる僕らに実績でも到底及ばない。


 ……おや? もしや僕らの方こそ支部長に命令を下す立場なのでは?


「ハルト君。私からもお願いしますから。ね?」


 ふむ。ネロンさんにそこまでお願いされたら仕方がない。

 僕は基本的に美人と美少女のお願いに弱いのだ。特に年上のお姉さんからの頼み事なら猶更である。


 僕は冒険者協会の建物を僕らの秘密基地へと改造する命令を支部長に出す寸前でなんとか思いとどまり、取り敢えず皆を宥める事にした。


「まぁまぁ皆落ち着いてよ。話くらいは聞いてあげようじゃないか。僕らは広い心と大きな器を持っているんだから」

「おい、ワシの言う事は聞かん癖に何故ネロンの言う事はすぐに聞くんだ!!」


 何故って、そりゃあ年上のお姉さんだからである。

 すぐにキレるおっさんと美人なお姉さん。

 比較すればその差は明らかであろう。


「し、支部長落ち着いてください。せっかくハルト君が皆を落ち着かせようとしてくれてるんですから……」


 村を出て初めて気付いたが、僕はスーツ姿のお姉さんがドストライクなのかもしれない。

 特に今のネロンさんのように、スカートではなくパンツスタイルをバッチリと着こなしているカッコ可愛い系。


 うーむ、将来は勇者ちゃんに週に一度以上はこの格好をしてもらおう。

 そしてぴちぴちに張ったお尻と太ももをジッと眺めながら年代物のワインでも飲むのだ。


「仕方ねぇ。ハルトがそこまで言うなら聞いてやろうじゃねーか」

「ぼくも!」

「まぁアタシは最初から落ち着いてたけどね!」

「ふふふ、私はちょっと殺意が芽生えてしまいました。いけませんね。ハルト君のように慈愛の精神を育まないと」


 僕は皆が冷静さを取り戻し、話を聞いてあげる準備が出来たのを確認。

 流石は僕の幼馴染達。素直で気の良い奴しかいないなぁとか考えながら、支部長に視線で「もう話してもいいよ」と伝える。 


「くっ、このクソガキ共がぁ……ッ!」

「し、支部長抑えてください。そんなに握りしめたらコップが壊れちゃいますよ! これ高かったんですから! ほ、ほら、本題に入りましょう」


 全く、僕らも暇では無いのだ。

 話があるならサッサと話してもらいたい。 


 ネロンさんにまぁまぁと宥められ、ようやく少し落ち着いたガンテツ支部長。

 まだ怒りで赤い顔と浮かび上がった血管がひくひくしてちょっと笑っちゃいそうになる。


 そんな僕らの様子に気付いているのかいないのか。ガンテツ支部長は人でも殺しそうな鋭い眼光で言った。


「今からテメェらにはSランク冒険者、第十二位の【月光の影】アオムラサキと模擬戦をしてもらう。せいぜいボコボコにされて、その伸びきった鼻っ柱をへし折られるんだな!」

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