第9話 依頼達成
「ほ、ほほほほ本当にキングモンキーを倒しちゃったんですか?」
依頼を終え、ジリマハの冒険者協会に戻って来た僕達は支部長室で依頼達成の報告を行っていた。
「当たり前でしょー? あんな雑魚、アタシ達の敵じゃないっての!」
僕達がキングモンキーとその群れを一掃した事を聞いたガンテツ支部長は苦い顔。
そして先程はいなかった秘書のネロンさんは驚きの声を上げる。
「凄いじゃないですか! 支部長、これは素晴らしい偉業ですね!!」
「はぁー。まずは討伐証明を見せてみろ。話はそれからだ」
討伐…………証明?
僕達は揃って首を傾げ、何を言ってるのか分からないというジェスチャーをする。
「あー、あれだ。魔物の身体の一部とか、貴重な素材とか。一応冒険者協会では魔物の右耳がその討伐証明になってるんだが……」
「ぼ、ぼくたちそんなもの持ってきてないよ? 聞いてないし」
そういうシステムなら先に言っておいて欲しかったな。
まさかその右耳がなければ報酬は渡さないとか言わないよね?
もしそんな事になったら僕は怒れる幼馴染達を止められる気がしない。
皆報酬が手に入った後の使い道とか色々楽しみに考えていたんだぞ。
「すまんな、事前に説明しておくべきだった。なら今から冒険者に依頼を出してその死体を回収に向かわせるから、詳しい場所を教えてくれ」
「死体ならねーぞ?」
「ん? 何故だ? まさかもう焼却してきちまったのか?」
「いや食った」
「……………………は?」
「だから皆で食ったんだよ。バーベキューしたんだ」
アインの言葉を聞き、絶句といった様子で口を半開きにしながら固まるガンテツ支部長。
そんな彼を置いて、僕達は先程のバーベキューを思い出しながら感想を言い合う。
「コリコリで美味しかったですよね。特に肩ロースなんて絶品でした!」
「ぼ、ぼくはランプかな? 程よく脂が乗っててマリルちゃんの秘伝のタレと相性抜群だったし……」
「図体がデカいだけあって食べ応えもあったわよね!」
「酒を持って行かなかった事をあれ程後悔することになるとはな! ったくハルト、あんな楽しいことするなら先に言っておいてくれよ!!」
「いや、お酒飲んだらアイン剣を振り回すじゃないか。アインの攻撃を避けるのって結構疲れるんだからね?」
ハッキリ言って皆酒癖が悪すぎるんだよ。
アインは暴れるし、シュリは脱ぐし、シュカは幼児退行するし、マリルは泣く。
あまりにも酷過ぎて村では誰も僕達にお酒を売ってくれなくなったくらいだ。
「くっ、頭がおかしいとは思っていたが、ここまで狂ってやがったとは。売れば一生遊んで暮らせるような額が貰えるってのに、それをバーベキューだと!?」
「し、支部長落ち着いてください。きっとこの子達も知らなかったんです。後で後悔すると思いますよ?」
それはどうだろう。
確かに一生遊んで暮らせるお金というのは魅力的だが、僕は皆でバーベキューをして最高に楽しい思い出を作る方がもっと魅力的に思える。
そしてそれは多分僕だけじゃなく、アイン達もそう思っているハズだ。
というかそもそも、僕達は歴史に名を刻むために生きているのであって、一生遊んで暮らせるとか言われてもそこまで嬉しくない。
「ほら、やる事はやったんだし早く報酬寄越しなさいよ。勿論、偵察の所を討伐までしてあげたんだから報酬は上がるんでしょうね?」
「む、それは無論だ。だがキングモンキーの討伐が確認できていない現状では偵察報酬の金貨十枚までしか渡せない。討伐報酬に関してはそれが確認でき次第渡そう」
まぁそれが妥当な所か。
森に行けば僕達がキングモンキーでバーベキューした跡や、テンションが上がって作ったキャンプファイヤーの跡までしっかりと見付かるだろう。
流石の僕達もキングモンキーの馬鹿デカい骨までは食べていないし……おや? そう言えばマリルはキングモンキーの血とか色々採取してたけど、どうして証拠として差し出さなかったんだ? ……あぁ、分かった。貴重な素材を持って行かれたくなかったんだな。
「それと、恐らくテメェらはAランク冒険者に認定される」
「これはとても栄誉ある事なんですよ? あなた達も英雄の仲間入りです!」
ガンテツ支部長は相変わらず苦い顔をしながら、そしてネロンさんは笑顔で僕達に拍手をしてくれる。
ヤバい、ネロンさん笑うと結構可愛いじゃないか。
これは僕調べ『美女ランキング』のAティアに堂々の仲間入りだな。
ちなみにガンテツ支部長は僕調べ『何もして無いのに何故か機嫌が悪いおっさんランキング』Sティア入りだ。おめでとう。
「キングモンキーの討伐はAランクに認定されるだけの偉業だ。だが本音を言うと、ワシはテメェらをAランクになんてしたくねぇと考えている」
「なんて酷い。もしかして僻み?」
「んな訳があるかッ!」
本人達を前にしてお前達には栄誉を与えたくないと断言するとは、このおっさんさてはコミュ障だな?
そんな失礼な言動をしちゃうようでは社会で生きていけないよ?
「確かに実力はあるのかもしれない。が……なにぶん人格が壊滅的だ」
「ますます酷い。一体僕達に何の恨みがあるって言うんだ」
「自分の胸に聞いてみるんだな」
ねぇ僕の胸、僕って人格が優れた好人物だよね?
うん勿論だよハルト君(裏声)。ハルト君よりも素晴らしい人間なんてこの世にはいないさ(裏声)。きっと君の前世は慈愛の女神様か天使に違いないよ!(裏声)
やっぱりそうか……。僕も小さい頃からそう思っていたんだ。
自分で言っておきながらまさか僕が本当に自分の胸に問い掛けているとは夢にも思っていないであろうガンテツ支部長は続けて言う。
「Aランクになると、各国の出入国は勿論、立ち入り禁止区域や迷宮への立ち入りが多くの場合で自由になる。それほど世界中で厚く信頼されている資格なのだ。そしてそのランクを与えているという事はそれすなわち冒険者協会がその人物の実力、人柄を担保しているという事に他ならない」
ほぉ、思ったよりもかなり便利じゃないか。
それがあれば、これから世界征服をするにあたってかなり動きやすくなりそうだ。
僕以外の皆もその事実に気が付いたのか、少しニヤ付き始める。
「だがワシはテメェらがその特権を碌でもねぇ事にしか使わないと確信している!」
「そんな! 僕達はまだ何もして無いのに!!」
「そこが問題なんだ。テメェらがしたことと言えば、キングモンキーを倒した事。ただそれだけだ。普通ならそういった偉業を成し遂げるまでの下積み時代で人間性も判断するんだが、テメェらはその段階をすっ飛ばしちまった」
さっきから偉業偉業って言うけど、あの雑魚を一匹倒しただけでそんな褒められてもなんか嬉しくないんだよなぁ。
あれより強い魔物とも今まで散々戦って来たし、もっと苦戦した戦いも何度となくあった。
「1足す1は?」「2ー!」「あら凄いわねーたかしちゃん!!」って大人になっても褒められてる気分だ。……いやたかしちゃんって誰だよ。
「ん? てことはもしかして俺達の名前って歴史に残るのか? 滅茶苦茶すげえ事なんだよな?」
「歴史? いや、流石にそれは無いな。キングモンキーは長期間放っておけば人類の脅威になるだけで、これまで何度も討伐されてきた。冒険者ランクの最速記録も登録初日に国家滅亡の危機を救っていきなりSランクになった英雄がいる」
「なぁんだー、ガッカリです」
「しょうがないよマリルちゃん。それに、どうせ名を残すなら誰もが成し遂げたことが無い事をして堂々と残したいじゃん」
「流石はアタシの弟! 良い事言うじゃん!!」
シュカの言う通りだ。
確かに歴史に名を刻む事が僕達の夢だが、どうせならドデカい事をして何百年経っても色褪せる事無く語り継がれる存在になりたい。
それに、こんな事で数多くいる有名冒険者の内の一人になってもあの勇者ちゃんの気は引けないと思うし。
「では話は終わりだ。退室して良いぞ。宿が決まったら後で受付嬢に教えてくれ」
ガンテツ支部長のその言葉を聞き、僕達はフカフカのソファーから腰を浮かす。
そして支部長室の扉から外へ出ようとした時に僕はある事を閃いた。
「そうだ支部長。ちょっとお願いがあるんだけど…………」
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冒険者協会はこの世界におけるセーフティーネットのような役割を果たしています。
なので前科者や職にあぶれた者、誰しもが再起を図れるよう冒険者としての評価は冒険者に登録をしてからの事柄のみで計られます。
そのため、ハルト達の先輩半殺し事件はギリギリ冒険者としての評価に含まれず、Aランク認定を妨げる要因とはなりません。
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