第8話 初めての依頼③

「さて、休憩も済んだことだしジリマハに戻ろう。ああ、さっきの群れと戦った所に一旦戻ってからね? 売れそうな素材が見付かるかもしれないし」


 経験した事の無いほど大量の魔物と戦った僕達(僕を除く)は、一時間ほど休憩を取ってようやく帰路に就こうとしていた。


「クソー! キングモンキーと戦いたかったなぁ! 雑魚しか相手してないせいで消化不良だ!!」

「アタシはやりたい放題無双できて楽しかったけどね」

「私も色々試したかった薬が使えたので有意義な時間でした」

「ぼ、ぼくも途中からは討伐をやめてレア魔物の解剖をしてたからね。やりたい事は充分できたよ」


 どうやら冒険者として初めての依頼は、アイン以外のメンバーにとっては割と満足のいく内容であったらしい。

 あーあ、僕もキングモンキーを見付けたかったなぁ。今回は魔物を一匹も倒していないしまるで仕事をしていない気がする。


「それで? 結局討伐数勝負は誰が勝ったの?」  

「誰って……そりゃ俺だろ。百七十六匹もぶっ殺したんだぜ?」

「はい残念~! アタシは百八十三匹~!!」

「なんだと!? クソー、絶対俺が一番だと思ったのに!!」

「ふふふ、流石シュリちゃんですね。負けちゃいました。私は百四十八匹です」

「ええー? マリルちゃんもそんなに倒したの!? ぼ、ぼく六十匹しか倒してない……」


 いやそんなに落ち込まないでくれよシュカ。

 ここに一匹も倒さずにバナナをうちわで扇いでいただけの男もいるんだよ? ……それも皮を剥かずに。 


「優勝はシュリか。報酬の半額を手に入れたら何に使うの?」


 依頼表には今回の報酬は金貨十枚と書いてあったので、金貨五枚もの大金がシュリの手元に入るという事になる。

 金貨が五枚もあれば一週間は贅沢に暮らせるだろう。


「んー、ハルトとデートしよっかなー。ねぇハルト、おしゃれなバーで高いお酒いっぱい飲も?」

「だーめーでーすー! 今回の賞品にハルト君とのデート権は含まれてません! それにハルト君に高いお酒をいっぱい飲ませて何をするつもりですか!! ハルト君はお酒に弱いというのに!」

「なにってぇー、そりゃあアレよ。ア、レ! アタシ達ももう大人だからねー! 人生楽しまなくちゃ!!」

「な、なななななんて破廉恥な! 私はそんな不純な行為認めませんからね!!」


 いつものようにキャーキャーとじゃれ合うシュリとマリルの二人を横目に僕は一人考える。


 僕ってあの勇者ちゃんのために貞操を守るべきなのだろうか?


 確かに僕も勇者ちゃんも清い身体のままお互いに初めてを迎えるというのが理想的な展開ではあるだろう。

 しかし僕も男だ。そういった方面に興味津々である。


 いずれ勇者ちゃんと結婚するのが確定しているとは言え、それが何年後になるのかなんて誰にも分からない。

 ならば今の内から色々楽しんでおいた方がお得なのでは?


 アインなんて十二才の時に近所の未亡人のおばさんで経験済みだし、彼に色々相談した方が良いだろうか?

 シュカは見た目マジで美少女だからそういった話はしにくいし……。


 そうして悶々と考え込んでいると、アイン達が群れと戦った場所へ戻って来た。


 僕が最後に見た光景よりもさらにグロテスクに進化しているな……。

 ……あれ? なんか僕らの三倍はある馬鹿デカい体格のサルとその取り巻きらしき魔物達が魔物の死体を貪ってる。


「なるほど、私達をここから遠ざけ時間を潰させたのはこれを狙っていたからだったんですねハルト君!」

「そうか。あんな大量の群れをどうやって食べさせているか不思議だったけど、共食いをして飢えを凌いでいたんだね。それを読んでキングモンキーを呼び寄せるだなんて流石はお兄ちゃん!」  


 いや、別にそんな狙いは全く無かったんだけど……。

 昔から皆、リーダーだからって無理矢理僕の事を褒めてくるよね。


 てかあのサル、サルの癖に肉食なのかよ! どうりでバナナの匂いに釣られないハズだわ!!


「あ、こっちに気付きましたよ?」


 マリルの言うように、キングモンキーは一心不乱に配下の死体を貪っていたのにも関わらずあっさりと僕達の存在に気付いた。

 そしてこちらをガウウウウウと低く唸りながら睨み付ける。


「サルの癖に鳴き声まで猛獣みたいだな」

「まぁ所詮魔物だしね?」


 僕の思わず口に出た疑問にシュリがもっともな事を言う。

 そりゃそうか。


「やっぱアレだけじゃ終わらねぇと思ってたぜハルトッ!!」


 配下を殺されて憤っているのか。それとも単に食事を邪魔された事に腹を立てているのか。

 凄まじい殺気をぶつけてくるキングモンキーを見て、アイン達は再び自らの得物を構え臨戦態勢を取る。


「今回は瞬殺しちゃダメだよ? 僕達は自分の実力を確かめにここへ来たんだから。ゆっくりと慎重に戦っていこう。それで勝てそうになかったら全力疾走で逃げるんだ」

「うん、じゃあいつもの作戦だねお兄ちゃん」

「勝てない可能性なんて無いと思うわよ? だってアタシ達最強だし!」

「先生以外になら負ける気がしません!」

「おいおいマリル。それは言わねえ約束だろ」


 僕達の軽口が言い終わると、まるでそれが終わるのを待っていてくれたかのようにキングモンキーが僕らへ向かって突っ込んできた。


 げっ、やっぱ僕に攻撃してくるのか。


 僕はキングモンキーの噛みつきをバックステップでひらりと躱し、小さく悪態をつく。


「どうしてヤバい魔物は皆僕ばっかり攻撃してくるんだろうなぁ」


 昔から僕は何故か危険な魔物から狙われる。

 攻撃は当然僕ばかりに仕掛けてくるし、追い掛け回されるのも基本的に僕だ。

 もしかして魔物を引き寄せるフェロモン的なものでも出ているのだろうか?


「ホント羨ましい体質だよなハルト。強い魔物が勝手に寄って来るんだから」


 そんな事を言うのは君だけだよアイン……。

 僕だって生来の超人的な動体視力が無ければ、今まで何度死んでいたか分からないっていうのに。


「それじゃあいつも通り、まずはアタシね!」


 僕達のいつもの作戦。

 それは僕が囮となって魔物を引き付けている間に、アイン達が一人ずつ魔物とタイマンで勝負するというものだ。


 僕達の村の周りには川以外本当に何も無かった。無論強い魔物も。

 先生が訓練の為に凶悪な魔物をどこからか連れて来ることはあったが、それも一回につき一体のみ。

 だから限られた資源は有効に活用する必要があった。


 そして編み出された作戦がこれだ。


 僕という囮が居る事で魔物は逃げる事も他にターゲットを移す事も無い。

 殺しさえしなければ何度でもタイマンで強者と勝負が出来る。とても画期的でエコなシステムなのである。


 僕達はこうやって強い魔物との戦い方を学んできた。(ちなみに僕は何故か攻撃しなくていいと皆から言われたので避け専だった)



「はいッ! アタシの勝ち!!」


 しばらく僕の目の前で僕に向かってくる攻撃を避けたりいなしたりしていたシュリだったが、完璧にキングモンキーの動きを掴んだという段階でキングモンキーの心臓部ギリギリで正拳突きを寸止めした。


 これでシュリはクリア。


「次は俺だな!」


 村を出て初めての強い魔物との戦いという事でかなり警戒していた僕であったが、どうやら杞憂だったらしい。


 これならいつも先生が連れて来ていた魔物の方が一回り以上強かったな。


 シュリに続いてアイン、シュカがいつも以上の短時間でキングモンキーの攻略に成功し残すはマリル一人となった。


「では私がとどめを刺しますね。ハルト君、なにかご注文はありますか?」

「この後こいつでバーベキューするから僕達が食べられなくなるような薬は使わないでね?」

「もう、ハルト君ったら! 私の使う薬は安心安全だといつも言ってるじゃないですか!」



 そして五分後、キングモンキーは血涙を流し発狂しながら元気に死んでいった。





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屑貨=一円、鉄貨=十円、銅貨=百円、銀貨=千円、金貨=一万円といった感じの価値です。

別に覚えておく必要は全くありません。

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