第7話 初めての依頼②

「うわー! 皆本当に瞬殺していってるよ」


 アイン達が隠れ潜んでいた魔物共に颯爽と飛び掛かっていくと、魔物も戦う決意を固めたのか。虫型や獣型の多種多様な魔物が一斉に姿を現した。

 そしてそれらを大声で数を数えながら各々のやり方で倒していく。 


 アインは剣術。

 ただひたすらに剣術だけを鍛えたアインは今では立派な剣豪だ。

 昔はちゃんとした剣で戦っていたのだが、剣士としての腕が立ちすぎて近くの民家やら教会やらも切ってしまった事から今では短剣を使用している。

 討伐数を競っている事もあってか、今日は本気モードらしい。全ての魔物の首を一振りで切断し、確実に絶命させていっている。


 シュリは格闘術。

 炎の魔法の適性があったシュリは、常に両手に灼熱の炎を纏わせ、鍛え上げた己の拳で敵を殴殺する。

 当初は炎の魔法をメインにして戦おうと思っていたらしいが、少しでも身体から離れると魔法が霧散してしまう体質であったため現在のこのスタイルとなった。

 こちらも効率を重視しているのか、一匹一匹正確に頭部を殴り頭蓋骨を粉砕して回っている様子が見て取れる。


 シュカは魔術。

 姉のシュリと同じく、こちらは氷の魔法の適性があったため魔法使いとなった。

 生来の膨大な魔力量により大規模魔法をポンポン放てる。

 しかし村や自然を破壊し過ぎてしまわないよう普段は小規模な魔法しか使っていない。活躍する機会があまりにも少ないため動物や魔物を魔法で凍らせ人体実験をして身体の仕組みを学んでいる。

 シュカは自慢の氷魔法で口元を凍らせ窒息死を誘ったり、珍しい魔物は全身をカチンコチンに凍らせ急速冷凍を行っていた。恐らく後で解剖でもしてヤバい実験をするつもりなのだろう。


 マリルは弓術。 

 昔から手先が器用だったマリルはすぐに弓の名手となった。

 しかし矢が効かない動物や魔物も当然いるため、それらを倒すために薬学も勉強するようになった。現在ではオリジナルの毒を塗り込んだ矢で巨大な魔物も一捻りである。

 今も魔物の眼球を正確に狙い撃ち、次々と殲滅していっている。

 ……なんかマリルが倒した死体から湯気出てない? あ、融けた。

 一体どんな非人道的な毒を塗っていたのやら……。


 とまぁ僕が呑気に幼馴染達の活躍を眺めていると、あっという間に平和な森がスプラッタな惨劇現場に早変わりしてしまった。

 魔物の死骸、飛び散った臓器、血液。

 緑一色であった光景は生々しい血や臓物の色で染まり、それと同時に生臭い嫌な匂いまで漂っている。


「うぅ、気持ちわる」


 僕は少しだけ気分が悪くなってしまったので、戦場から離れ森の中を一人歩いていく。


「まぁ僕は頭脳担当だからね。討伐数では皆に到底敵わないさ。だからこそ、量ではなく質を優先する」


 皆が戦っていた場所にはキングモンキーらしき魔物の姿は見えなかった。

 恐らく万が一にでも倒されないようどこかに隠れているのだろう。

 配下の魔物の繁殖力を増大させる特殊能力を持つ奴にとっては所詮配下は捨て駒。簡単に姿を見せないであろうことは当初から予想が付いていた。


「何処かなぁー。どこに行けば会えるのかなー」


 キングモンキーの痕跡のようなものが何処かに落ちていれば嬉しいのだが、キングモンキーの痕跡って一体何だろ?

 とにかく馬鹿デカいサルというのは聞いているが、他に情報は何も知らない。


 …………馬鹿デカいうんこでも探せばいいのかな?


「そうだ、さっきジリマハでおやつとしてバナナを買ったんだった! これを餌にしてキングモンキーを引き寄せよう!!」


 僕はリュックから一本のバナナを取り出し、それを頭から地面に突き刺した。


「うーん、これだけじゃあなにか足りない気がする……そうだ!」


 バナナをうちわで扇げばバナナの芳醇な香りが森中に散らばって、キングモンキーもバナナに引き寄せられるのでは?


 やはり僕は天才だ。


 僕は暑い夏に備えて村から持って来たうちわをリュックから続けて取り出し、パタパタと元気よく扇ぎ始める。


「おいで~キングモンキーちゃん。美味しいバナナだよ~!」


 パタパタパタパタ


 ………………………………。


 パタパタパタパタ


 ………………………………。


 パタパタパタパタ


 ………………………………飽きた。


 おかしい。キングモンキーが現れる気配がまるで無い。

 せっかく買いたてホヤホヤの新鮮なバナナを餌にしてるってのに何故奴は現れないんだ?

 もしや菜食主義者ベジタリアンか? ……いやだとしてもバナナは食べられるよな。


 そんなこんなで三十分程無心でバナナを扇ぎ続けていると、アイン達が揃ってやって来た。

 どうやらあれだけ沢山いた魔物達をもう殲滅してしまったらしい。


「なにしてんだハルト?」


 地面に突き刺したバナナを必死になってうちわで扇ぎ続ける僕を見て、皆が怪訝な表情を浮かべる。


「……見て分からない?」

「全く以て分からないわよ……」


 どうやら僕の天才的アイディアも幼馴染達には少し難解過ぎたようだ。

 僕は百点の答案用紙を見せ付ける子供みたいに自信満々な顔で皆に言う。


「バナナの匂いでキングモンキーを誘い出してるんだ」

「…………な、なるほど? 流石お兄ちゃん……?」

「でも中々キングモンキーが姿を見せなくてね。ちょっと飽きてきてたんだ」


 流石にこれ以上バナナを扇ぎ続けるのは辛い。

 まぁキングモンキーは討伐出来なかったが、群れは殲滅したのだ。冒険者として十二分に役目は果たしたと言えるだろう。


 さて、それじゃあそろそろジリマハに戻ろうか。


 そう言おうと思い、立ち上がった僕にジッと何かを考え込んでいた様子のマリルが言った。


「皮を剥かなければ匂いはほとんどしないのでは……?」


 あ…………。

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