第6話 初めての依頼①
一ヵ月前にジリマハ近くの森でその存在が確認された魔物、キングモンキー。
奴は自らを頂点とする魔物の群れを作り、その特殊能力で配下の繁殖能力を激増させ圧倒的な物量で人を街を襲う。
過去にはこの魔物によって人口の三割を失った国もあった……らしい。
「そんな危険な魔物を一ヵ月も放置だなんて、帝国も呑気だなぁ」
僕は冒険者協会で貰った依頼表を眺めながら呟く。
「先生の話によると、現皇帝はあまり優秀な人物ではないそうですよ? 恐らく貴族達を御せなくて、どの貴族が討伐隊を編成し功績を得るか揉めに揉めているんでしょう」
「くっだらなーい。そんな事で身内同士揉めるだなんて。その点アタシ達はハルトが全部決めてくれるから楽で良いわよねー」
「うん。お兄ちゃんの指示に従っておけば多くの困難が付き纏うけど、最終的には最高の結果になるもんね」
「ああ、昔は俺達の実力不足でハルトにはやきもきさせたが、今ではギリギリ耐えられるようになった。この調子ならきっと世界征服だって達成できる!」
僕達は指定された森の中を歩きながら談笑する。
依頼表にはキングモンキーの現在の様子や群れの規模を偵察して確認して来いと書いてあったが、当然僕らはただの偵察で終わらせる気は無い。
群れと戦い、可能ならキングモンキーを討伐してしまおうという魂胆なのであった。
「うーん、こんなに騒がしくお喋りしてるのに、虫一匹襲って来ないな。もしかして皆寝てる?」
目的地が定まっている時はマリルが、今回のようにどこへ行くか確かでない時は僕が皆を先導するのが僕達の昔からのルールだ。
だから森に着いてからは、僕が先頭に立って森を思うがままテキトーに歩き回っているのだが、どうにも生き物に出会わない。
おまけに周りを見回しても木や雑草ばかり。太陽も木々に隠されてしまって位置が把握できないと、最悪な条件が重なり僕は今絶賛迷子中なのであった。
ま、まぁマリルあたりが帰り道を把握してるよね、多分。
「またまたぁ。ハルト君ったら冗談が上手いんですから。森に入ってすぐさま群れの中心に突き進んでいったのはハルト君じゃないですか。あ、それとも私達を取り囲んでおいて一向に襲って来ない魔物達への皮肉ですか?」
!? う、嘘だろ……?
群れの中心に突き進んだ? 魔物が僕達を取り囲んでいる?
ヤバい、まるで身に覚えがない。
てか、取り囲まれてるなら言ってよ! 楽しく談笑なんてしてる場合じゃないだろ!!
マリルがした発言のあまりの衝撃に僕が思わず立ち止まると、後ろを付いて来ていた皆も立ち止まる。
「お、遂にやるのか? 待ってたぜ! 久し振りに良い運動になりそうだな!!」
「アタシも馬車での移動中は身体がなまってしかたなかったのよ。そうだ! せっかくこんなに敵がいるんだから殺した数で競争しない!?」
「え、ええ? ぼくがお姉ちゃんたちに勝てる訳ないじゃん。ただでさえぼくは森を破壊しないように気をつけなきゃいけないのに」
「優勝賞品は何にしますか? 私としては依頼の報酬半分というのが妥当だと思いますけど」
「「「それで!!!」」」
アインは右手に短剣を構え、シュリは両手に炎を纏わせ、シュカは両手で小さな杖を持ち、マリルはコンパクトな弓に矢をあてがう。
僕はまだ何も言っていないし、何なら本当に魔物がいるのかすら確認できていないのだが皆はもう臨戦態勢。まさにやる気満々といった感じだ。
「ハルト、何か注意事項はあるか?」
「注意事項? うーんそうだね…………あ! キングモンキーは後でバーベキューにしたいから消し炭とか粉微塵にしちゃダメだよ? それと当然、勝てないと思ったらすぐに撤退だ」
まだ敵の戦力もその規模も見極められていないが、皆がこれ程やる気になっているのだ。
恐らく魔物も警戒するほどのものではないのだろう。
「うわぁー! バーベキューなんて久し振りねー! キングモンキーなんてレア魔物だからきっと美味しいわよ!!」
「良いですね! こんなこともあろうかと、ちゃんと調味料は持ってきています!!」
「くぅーっ! 流石はハルトだぜ!! こんな名案をすぐさま思い付くとは!!」
「お、お兄ちゃん。もし良かったらなんだけど……食べる前に解剖とかして良いかな? きっと勉強になると思うんだ」
突如閃いた僕のナイスアイディアに皆大興奮だ。
うんうん、村にいた頃はよく狩った魔物でバーベキューとかしてたもんね。
「勿論良いよシュカ。君の為になるのなら全く問題ないさ。解剖のついでにいつもみたいにお肉を部位ごとに切り分けてもらえると助かる」
「ありがとうお兄ちゃん! 任せてよ!」
「シュカ君、私には血液と脳漿をくれませんか?」
「分かってるよマリルちゃん」
「よし、じゃあ話は纏まったな。魔物共もそろそろ仕掛けてくるみたいだし、瞬殺してやろうぜ!!」
「「「「おーー!!!」」」」
そして戦いの火蓋は切って落とされた。
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