第2話 世界征服

「……おっかしいなー」

「「おっかしいなーっじゃなーいッ!!」」


 僕の独り言に顔を真っ赤にしたシュリとマリルが叫ぶ。

 二人は熱でもあるんじゃないかと思わせる勢いで赤面しながら僕に恨みがましい視線をぶつけてきていた。シュカとアインはいつも通り。


「ハルト君があんなに言うから勇者に会いに行ったのに……。まさかあそこまで生暖かい目を向けられるとは思いませんでした」


 小さい頃からの僕達の夢。それは世界の歴史に名を刻む事。

 僕達はその夢を果たすためにこれまで勉強だって運動だって家のお手伝いだって頑張って来た。

 そして遂に僕らの夢を叶える手段が見付かった――と思ったのである。


 勇者の仲間になって共に魔王を倒す。


 勇者は魔王が現れる兆候を掴めば世界のどこかに必ず産まれる。

 これは古くからの言い伝えであり、そしてそれが正しい情報である事は歴史が証明してきた。


 これまでの勇者は皆魔王を倒してきたし、だからこそ今も世界は平和が保たれているのだ。

 現在は魔王の姿はまだどこにも確認されていないらしいが、勇者が産まれたという事は逆説的に魔王も現れるという事に他ならない。


 そんな近い将来訪れるであろう魔王討伐メンバーになれば間違いなく歴史に名を刻める。

 特に魔王のラストアタックを勇者から横取りすれば勇者本人よりも名が売れてしまうかもしれない。

 勇者の仲間なら、勇者本人である天使ちゃんとも仲良くなれるというおまけ付き。


 完璧な策……そのはずだった。


 しかし意気揚々と勇者の元へ行き、「仲間にしてください!」と言い放った僕達に待っていたのは天使ちゃんの歓迎の言葉ではなく、マリルの言ったような大人達からの生暖かい視線であったのだ。


 仕方のない子供を見るような、ニヤニヤとした訳知り顔。

 おまけに勇者の天使ちゃんまで困ったような表情を浮かべていた。


「ま、まさか勇者様が仲間に相応しい素質を持った人間を近付くだけで察知出来るだなんてね」


 シュカが少し苦笑いを浮かべながら言う。

 そう、なんと勇者は自身の周囲一キロくらいの範囲内に、勇者の仲間となれるような特段の才を持つ者がいたらすぐに分かると言うのだ。


 なんだそれ便利すぎるだろ!


 という事で僕達は勇者の仲間になって歴史に名を刻む事が出来なくなったばかりか、大した才も無いとその勇者によって証明されてしまったのである。


 大勢の前で恥をかくと同時に、夢への道も一気に閉ざされてしまった。

 最悪すぎる……。


 しかしそんな僕達の暗いムードをいつもお気楽なアインが変えてくれた。


「まぁ落ち着けお前ら。勇者の仲間になれなかったのは残念だが、まだ道は残されてる。そうだろ、ハルト?」


 今の今まで勇者の仲間になる事こそが最適解と考えていた僕には他の道は全く以て見えていない。だが、アインがそう言うなら他にも良い道があるのだろう。


 アインは馬鹿だが考え無しじゃない。

 きっと歴史に名を残せて、尚且つ勇者である天使ちゃんとも仲良くなれる。そんな一粒で二度おいしい冴えた方法があるのだ。


 僕はいつも通り根拠のない自信を体中に漲らせ、リーダーとしてアインの言葉に全力で乗っかる。


「……当然だよ。勇者の仲間になるってのは僕達にとって、結局目的ではなく手段の一つに過ぎない訳だからね」

「うんうん。それでこそ俺らのリーダーだ。よっし、じゃあ発表してくれその策って奴を!! そして教えてくれ、俺達が今後どうするべきかを!!」



 ………………え、僕に丸投げ?



 まさか過ぎるアインの裏切りにより皆が僕を見つめる。


 先程最悪な目に遭ったばかりという事もあり、皆わらにも縋るような様子で僕の言葉を待つ。


 ……ヤバい、これはふざけられない!


 僕は焦る内心を悟られないように無い頭を必死に回転させ策を練る。


 そしてじっくり一分程考えた末、やけくそ気味に結論を出した。



「僕達で世界征服をしよう」



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