僕は一目惚れした女勇者の気を引くために世界征服する

蒼守

辺境都市ジリマハ編

第1話 一目惚れ

「か、可愛すぎる……」


 僕は自室の窓から広場の群衆の中央を眺め、思わず呟く。


 片膝を付きながらこうべを垂れる我らが村長と、それを受けてニコニコと微笑む僕らと同い年くらいの小さな女の子。

 あの気の弱い村長が頭をペコペコと下げるのはいつも通りだが、その対象が七、八才くらいの女の子ともなれば話は変わる。


 あまりにも異質で、そして現実味の無い異様な光景だ。

 そしてそれを周囲で見守る村の大人達や、女の子を護衛するため帝都からやって来た兵隊さん達もこの状況を当たり前のものと受け入れているのがより異質さを引き立たせている。


 事情を知らぬ者が見たら、この村は集団的に危険な薬物でも摂取しているか、それとも年端のいかないロリを教祖として崇めるかなりヤバい宗教に嵌まっているのか。そのどちらかが疑われること間違いなしであろう。 


「えぇーそおー? あの笑顔なんて超絶胡散臭いわよ? 顔は確かに整ってるけど絶対性格悪いって! 騙されちゃダメ、ハルト」


 しかしそんな天使な彼女にとても失礼な評価を下す者が一名。


「いやいや、僕には分かる。あの子はこの世に舞い降りた天使! 近い将来、きっと国を揺るがす程の美女になるに違いない。ちなみに僕調べ『美少女ランキング』のSティアにたった今堂々とランクインした!!」


 こんな辺境の村では見た事も無いような真っ白で細かな装飾がなされた高そうなドレスと、まるで穢れを知らぬ花のような笑顔。

 僕は今、生まれて初めて異性から目が離せないという状況に陥っている。もしかしたらこれが一目惚れという奴なのかも。


 あぁ、彼女と付き合えたらなんて幸せなんだろう。もし何かの間違いで結婚なんて出来た日には僕は気絶してしまうかもしれない。

 そんな妄想を彼女を見ながらしていると、


「はい? 私達があれほど苦労してSティアにまで登り詰めたのに、あの女はそんな簡単にランクインしちゃうんですか? おかしくないですか?」


 僕のベッドに横たわってゴロゴロしていたマリルが体を起こしながら僕に不満を述べる。

 そして先程僕の天使に失礼な事を言ったシュリもそれに続く。


「そうそう! アタシ達なんてSティアになるために、川の魚獲りとか大食いチャレンジとか色々頑張ったのに! フビョードーよフビョードー!! アンタもそう思うでしょシュカ!」

「えっ、ええ……? ぼ、ぼくは別に……あの子は凄く可愛いと思うし……別にSティアでもおかしくは――」

「しゅうーかあー?」

「や、やっぱり皆平等が一番だよね、うん! お兄ちゃん、考え直して?」

「流石はアタシの弟! いつでもお姉ちゃんと気持ちは一つね!」


 気持ちは一つって言うか、弟の意思を無理矢理曲げさせて吸収合併したよね君。

 双子は心の底が繋がっていると聞くが、どうやらこの姉弟にその言葉は全く当てはまらないらしい。


 僕は仕方なしに三人の不満を受け止め、考え直す。


「……ランキング是正の申請を受理しました。ピピ…………却下します」

「「なんでよぉー!!(なんでですか!!)」」


 マリルとシュリの二人が一斉に叫ぶがどうしようもない。

 Sティアの美少女をAティアと偽るのは美少女大好きマンの僕の流儀に反するからね。


「いやいや、何度考えてもあの子は可愛いし天使だよ。新雪のように輝く白い肌も、吸い込まれそうな黒い髪も! どれもまるで芸術品のような美しさの極致だ。君だってそう思うだろアイン?」


 と、ここで僕と同じく先程からじいーっと天使ちゃんに視線を奪われ続けているアインに問う。

 きっと同じ男のアインなら僕の意見に賛同してくれるはずだ。


「うーん、あの子はちょっと若すぎるな」

「若すぎる? 僕らと同い年くらいだろ?」

「多分な。だがそれがいけねえ。あと三十年は年を重ねて出直して来てもらわねーと」

「熟女趣味が過ぎるよ……」


 一体どういう教育を受ければ普通の七才児が三十後半以降の女性にしか興味を抱かないという結果になるのか。

 アインは僕の次くらいにイケメンなんだから女性だって選びたい放題だろうに……。


 あまりにもいつも通り過ぎるアインの回答に僕達は揃って渋い顔を浮かべる。


「さらに結婚していれば尚好しだな。ほら、あそこで兵士達に偉そうに指示を出しているおばさんいるだろ? あの人なんてもう最高だ」


 アインの指し示す方を見ると、確かにそこにはアインの好きそうなちょっとふっくらとした如何にもなおばさんが居た。ちゃんと結婚指輪も着けている。

 なるほど、どうやら先程からアインが熱い視線を送っていたのは僕の天使ちゃんではなく、あのおばさんだったらしい。


 まさかおばさん側も七歳の男の子から熱の籠った視線を向けられているとは夢にも思っていないだろう。


「そ、それにしても百五十年振りの勇者があんな小さな女の子だったなんてね!」


 幼馴染のあまりにもあんまりな異性の趣味を聞き微妙な空気になっていた所でシュカがそれを振り払うように言う。


 そう、何を隠そうあの天使ちゃんはただの天使ちゃんではなく、天使ちゃんな上に世界に選ばれた勇者様でもあるのだ。

 そんな超特別な身分だからこそああして村長にぺこぺこされているし、護衛の兵士達だって大勢こんな辺境の村にまでやって来ているという訳である。


「馬鹿ねぇシュカは。勇者なんて生まれた時に身体に浮かぶ聖印で分かるんだから、普通に子供時代だってあるに決まってるじゃない。勇者も所詮アタシらと同じ人間よ。」

「そっかぁ。でもじゃあどうしてこんな何もない村に来たんだろう? ……も、もしかしてこの村に魔王が!?」

「ふふふ、違いますよシュカ君。勇者は魔王討伐に向けて信頼出来る仲間を探すもの。歴代の勇者はそのために世界中を旅するのですが、当代の勇者はまだ幼いので取り敢えず国内を片っ端から回っているのでしょう。……国の金で旅行し放題とはおのれ勇者生意気な」


 流石はマリル、物知りだなぁ。

 村には本だってあまり無いのに一体どこでそんな知識を仕入れているんだろう? 


 にしても信頼出来る仲間を探して世界中をねぇ…………。



 閃いたッ!!



「皆、僕に名案がある」



 僕はあまりにも冴え渡っている自身の天才的頭脳を誇るように、不敵な笑みで幼馴染達に視線を向ける。


「……なんか嫌な予感がするわね」

「自信満々なハルト君の案に乗ると大抵碌でも無い事になりますからね」


 シュリとマリルの二人からは酷い評価。

 一体僕が何したって言うんだ! ……うんそうだね、僕の案のせいでいつも散々な目に遭ってるよね。


 僕が冒険に行こうと言えば大嵐が来て帰れなくなるし、キノコ狩りに行こうと言えば見た事も無いキノコ型モンスターに襲われる。あぁ、皆でピクニックに行こうと言った時は地震による地割れで謎の地下古代遺跡に迷い込んだっけ。


 これまでの惨劇が走馬灯のように脳裏をよぎるが今回は違う。きっと僕の案を聞けば皆も乗り気になってくれるハズだ。


「ぼくはお兄ちゃんの案なら信用できると思うなぁ」

「俺もだ! なんたってハルトは俺達のリーダーだからな!!」


 おお、非情な女連中に比べて男連中は何て嬉しい事を言ってくれるんだ!!

 やはり持つべきは親しき同姓の友人なのか?


「アンタらこれまでの経験を一旦振り返った方が良いわよ……」

「もう謎の古代遺跡で謎の巨大ゴキブリに追い掛け回されるのはご免です……」

「そ、そう言えばそんな事もあったね。お姉ちゃん泣いてたし」

「まぁまぁ、あれも今では良い思い出じゃねーか」

「「全然良くない!!」」


 流石に僕もあのテカテカと黒光りする全長五メートルは超えるアレと鬼ごっこさせられるのはもう勘弁願いたい。

 今でもヤツの姿は夢に出てくるんだぞ。


「皆落ち着いてよ。今回は本当に危険性なんて全く無いから。死に掛ける可能性はゼロだ。それどころか僕らの夢を叶えるチャンスなんだよ?」

「……本当でしょうね?」

「本当本当。任せて!」

「……はぁ、私も話を聞いてみるくらいなら良いですよ?」


 よし決まりだ。

 口では色々文句を言うシュリとマリルの二人だけど、いつも最終的には折れて僕の案に従ってくれる。

 そうして皆が僕の案を聞く準備が整ったのを確認した僕は、大きな声で言った。



「僕達皆で勇者の仲間になろう!!」




========

最初は話をサクサク進めたいので人物の描写を削りまくっています。

話が軌道に乗ってきたら細かく書いていく予定ですので、取り敢えずはこんなイメージだと思って頂けると助かります。


ハルト:主人公。茶髪で肩にかかるくらいの長髪で長身。まぁまぁイケメン。謎に自信家だけど普通に無能。悪運が強い。

勇者 :黒髪ロングの正統派美少女。泣きぼくろ。色白。

シュリ:小柄でスレンダーな褐色少女。セミロングな白髪で活動的な性格。ハルトが好き。

シュカ:シュリの双子の弟。シュリと外見的特徴は同じだが目の色が違う。将来的な事を見据えてシュリにハルトを兄呼ばわりさせられている。

マリル:腰まで伸びた茶髪とスタイルの良さが特徴。ハルトが好き。

アイン:短く整えられた金髪でメッチャイケメン。熟女(人妻)が好き。


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