タイトルなし 210531

正義は必ず勝つ。


だとすれば、これは一体どういうことなんだ。

何故私はまだ捕まらずにいる?



目の前に倒れている、まだ幼い少女。15歳だというではないか。

まだ彼女はやり直せたかもしれない。


それでも、死を選んだ。

わざわざ、私の手にかかって死ぬことを選んだ。

そして私は応えなければいけなかった。

ひとたび揺らいでしまったら、一気に崩れてしまう。




彼女に救いがあっただろうか?


なけなしのお金で買った推し、それもVtuberのグッズを、学校で故意に壊された。どこにでもあるいじめだ。そしてそれは両親にも理解されなかった。

それが死ぬ理由だと、彼女は言った。


私が買うこともできた。実際そう言ったが、それではダメなんだという。

世界に一つしかないわけではないのに、彼女にとっては替えが利かないのだ。


最初それが、私には理解できなかった。


時間がたてば忘れられるかもしれない。

その推しが不祥事を起こすかもしれない。

些細なことだと後から思えたかもしれない。


おそらく親を含めたほとんどの人間は、「何を血迷ったんだ」というだろう。死

後も嘲笑い、後ろ指を指すに違いない。


あるいは、ファンの品位を落とすなと、同担拒否から言われるかもしれない。



それでも彼女にとっては、人生をかけた推し活は、架空の存在であっても、中の人がドストライクであっても、つまるところ、愛だったのだ。


そう、他人が理解できない、その人だけが盲目的に信じられるからこそ、間違いなく本物の、狂おしいほどの愛だったんだ。




結果、私が家庭用洗剤を混ぜて作った毒を仰ぎ、彼女は死んだ。


まだ幼さの残る顔を、苦痛にゆがめて。

泡をブクブクと吐きながら。

手足をあらぬ方向に曲げて。

下着が見えてしまって意にも介さない。

ドラマで見るような、口筋から一筋の血だけが流れるようなものとは似ても似つかない、美しさのかけらもない、ほおっておけば蛆の湧くただの死体だ。



決して彼女は、愛に殉じたわけでもない。

引きこもりになってでも、推しへの愛を捧げることもできたのだ。

あるいは直接会いに行くこともできたかもしれない。

娼婦に身をやつしてでもスパチャを捧げ続ければ、いつか当人と結ばれたかもしれない。

自分がVtuberになれば、視聴者に愛されたかもしれない。

勉強してアナウンサーになれば、野球選手と結婚できたかもしれない。



ただ、そんな確かにある僅かな可能性など勘定に入らないほどに、目の前の結晶が打ち砕かれたことに対する真っ黒な絶望が、再起不可能な絶望こそが、彼女を占めたのだ。


私が、彼女の推しになれるわけがない。だったらせめて、苦しまずに楽にさせてやりなければ。




ああそうだとも。こんなものは言い訳だ。

焼き肉を食べて、本物の愛を知れば、彼女は立ち直れたかもしれない。


とどのつまり、私が人を生きたまま救うすべを持たなかった。

それだけのことなのだ。


私は、死は救いだと思っている。

それが悪だというなら、正義の味方は私を捕まえなくてはならない。


私はここにいる。まだ人を、殺している。

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とある殺人犯のブログ @prot_plot_parrot

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