タイトルなし 210429

当たり前だが、「二宮三四郎」の死をどこのニュース番組でも報じた。それに応じて、動画サイトでは過去の出演策を配信したり、「二宮三四郎まとめ」なんて記事が出回ったりと、ちょっとしたバブルになっている。かつての熱血系俳優が刺されて死ぬ、実に悲劇的で、とっつきやすいニュースだと言える。「かつてお世話になった」「親交があった」方々は、各々涙をにじませ芸能界の大きな損失だと口をそろえている。なるほど、何処まで行っても役者ということか。それはそれでプロ根性を感じる。見習おうとは思わないが。

一方で私のメッセージも大きく取り上げられた。当たり前だ。次の殺害をほのめかしている以上、警察も犯人探しに躍起になっていることだろう。もしかしたらこの文章に気づいて、私のプロファイリングを始めているかもしれない。では、リスクを取ってでも文章を残す必要があるのか。はっきり言って、ない。こんな文章は全く公開すべきでない。わかっているとも。だが、それでも公開しているのには理由がある。そう、独白だ。犯人による独白。ホワイダニット。私も神様じゃない、いずれ捕まるか罪悪感に苛まれて自死するだろう。その時に、この殺意に興味を持った人間に向けた明確な回答が残されていないのはアンフェアだと思うのだ。そして甘ったれた考えだが、この文章をまとめて出版してくれたらなあとも思うのだ。それで、少しでも自殺志願者が救われるような基金だのに資金が回れば多少は私も救われる。公開に後悔せず、というわけだ。笑えよ、ほら。


何はともあれ、プロモーションとしては上々。あとは顧客からの連絡を待つしかない。ここが最も苦心した部分だ。警察の追及をかわしつつ、死にたい人間だけが連絡を取れるようにしなければならない。いくつか考えても見たが、うまくいかない案ばかりだった。

真っ先に思い付いた個人ブログやSNSアカウントの開設、これは悪手だった。いたずら目的で利用され、挙句捕まるなんてことがあれば、たまったものではない。自殺志願者のコミュニティに窓口を設ける、これも厳しい。いずれコミュニティの管理人も、一人また一人と死んでいく状況に気づくはずだ。物理的アプローチとして壁ポスターというのも考えたが、日本中を駆けずり回らなければならなくなる。


受注のご相談についてはさておき、私自身にも課題がある。最初こそ明確に「殺人者」がいることを示す必要があったが、次回以降はそうもいかない。極力私の関与がないように見せなければならないのだ。かといって、毎回密室トリックでも仕込むかと言えばそれも違う。そもそも、行きずりの殺人の解決率は日本の優秀な警察でも低いのだ。隣の部屋の人間を殺せば容疑者候補に私も入るだろうし、取り調べを受ければうっかり「私です」と言ってしまうだろうが、北海道にいる全く無関係の人間を私が殺しても、指紋が残っていようが唾液が残っていようが、それこそ国民全員の生体情報のリストでもない限りは私と特定はできないのだ。それに、死体の見つからない事件はいつまで経っても「失踪」扱い、つまり捜査のしようがないのだ。能動的に動いているからリスクがあるだけで、シリアルキラーよろしく無差別殺人を企むなら、現代科学でも止めるのは難しいということなんだろう。私の次のやるべきことは、死体を埋められる手ごろな山を見つけることと、そして山に通うことが不自然でないように振舞うことかもしれない。

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