第565話 決戦直前の覇王

 


 どうも。


 行軍中に柔らかい椅子に腰かけ、優雅に緑茶を楽しむ我覇王です。


 なんかこう……字面だけ見るとこの数秒後に奇襲受けて首とられる前のアホ大将って感じだよね。


 いやまぁ、アホかアホじゃないかって話になると若干自信があったりなかったりするけど……そこはさて置き。


 行軍中であることに違いないけど、今俺がいるのは飛行船の貴賓室。


 ここに奇襲を仕掛けられる奴なんてこの大陸には存在しない……筈。


 いや、存在しない!


 ……しないといいな!


 そんな風にフラグをガンガン乱立させながら空を飛ぶことしばし、何に妨害されるでもなく目的地であるエルディオン王都近郊までやって来た。


 うーん、いつも思うけど……この飛行船による首都強襲、極悪過ぎん?


 航空戦力なんてもんが存在しないこの世界では、対空攻撃なんて対ドラゴンか対リズバーンくらいしかない訳ですよ。


 突っ込んでくる相手を迎撃するって感じで高高度を飛ぶ輸送艦を攻撃する手段なんて無いし、そもそも王都の真上まで飛んでいく訳じゃないからね。


 街から少し離れた位置で下降して召喚兵を降ろす。


 国境からここまで一直線で飛んできたから国境や道中ちらほらとあった街や村は大騒ぎだっただろうけど、飛行船以上に速度を出せる移動手段はないからね。


 騒ぎはすれど、他所に連絡を送って警戒を促すなんてことは出来ない。


 当然王都の人達は飛行船が飛んで来ることを視認出来るまで気付けないので、飛行船からのんびり召喚兵を出す時間くらいは余裕で確保できる。


 百や二百で突っ込んで来るならともかく、それなりの軍備を整えて来るなら結構時間はかかるしね。


 五分や十分でハイ出陣とは中々いかない。


 故に俺達はのんびりと兵を展開する時間があると言う訳だ。


 今回エルディオン王都攻略の陣容は、総大将に俺。


 副将にサリア。


 俺の護衛としてリーンフェリア。


 そして姿は見えないけど、ウルルが何処かに控えている。


 計四名の非常にコンパクトな軍となっている……いや、召喚兵は一万五千程いるけどね?


 この内、俺の呼び出した兵は三千、残りはサリアが召喚した兵だ。


 キリクの予定では、俺達の布陣後王都に残っている二人の英雄が軍を率いて外に出て来る。


 籠城して民を盾にするかと思ったんだけど、そこまでアホじゃないようだ。


 まぁ、非魔法使いの人達の境遇を思えば、籠城中に背中から刺される可能性も高そうだしな。


 平時であれば戦闘力に大きな差があるから平気なのだろうけど、戦争中ともなれば隙が出来るし、数の多い非魔法使いを統制できなくなるのも無理はない。


 引きこもろうが外に出て来ようが、こちらとしてはあまり違いはない……いや、実際に兵を動かして戦うサリアからすれば大違いなのかもしれないけど、出番が来るまで本陣でふんぞり返っている俺からしたら違いはない。


 さて、今回の戦いだが、基本的にサリアに一任だ。


 俺は普段通り『鷹の目』を使って戦場を俯瞰……サリアが敵英雄の内片方をぼっこにしつつ敵軍相手になんやかんやするのを見学するだけだ。


 その後俺はちょいと野暮用があるので敵英雄に接触。


 その間にサリアは召喚兵をつれて王都を制圧……俺は用事が済み次第サリアに合流して最後にひと仕事。


 今はお昼だから……まぁ、日暮れ前には全部終わるかな?


 リーンフェリアが運んできた昼食と眼下に見えてきたエルディオンの王都を見つつ、俺はそんな風に考える。


 因みに昼食のメニューは……から揚げ定食。


 やっぱから揚げはさいきょーだな!


 普通決戦前はカツだと思うけど……まぁ、エインヘリアにとっては決戦って程じゃないしな。


 とは言っても……恐らくこれから先この規模の戦争はそうそうおこらないだろう。


 勿論帝国や北方で大きな戦いが起こる可能性はあるし、エインヘリアがそれに巻き込まれる可能性はある。


 不測の事態……というか、俺程度が予想出来る事なんてたかが知れているし、争いの火種なんてどんな場所にもあるのだろう。


 しかし、その予想出来ない不幸を真正面から理不尽なまでの力でぶち壊せるのがうちの子達であり、エインヘリアという国だ。


 うちの子達がいる限りこの大陸は安泰……ならば俺に課せられた仕事は、うちの子達を健全な状態で過ごさせることだろう。


 元がゲームのキャラとはいえ、今は既にいち個人。


 彼らの要求、要望はいくらでもある筈。


 そんな彼らの願いを、俺は叶え続けなければならないし、間違った時にはそれを叱らなければならず……そして許さなければならない。


 まだまだ普通の人の二倍近くある人生。


 皆には楽しく、健やかに過ごしてもらいたい。


 フィオの願いは……あと一歩と言うところまで来ている。


 それが終われば、次はうちの子達の幸せに全力を尽くしたいと思う。


 無論俺自身やフィオ……それからこの世界の友人達の幸せも大事だ。


 俺はから揚げにレモン汁をかけながらそんなことを考えていた。


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