第186話 蚊帳の外?いいえ、覇王です



 いや、驚いた。


 ……俺、最近これしか言ってない気がするな……いや、言っては無いが。


 とりあえず、あれですよアレ。


 今の覇王の心境を一言で表すならば『ぽかーん』ですよ。


 だってね?つい先日の話ですよ。ソラキル王国が国境侵犯して攻め込んできたの。


 当然エインヘリアとしては、それを看過出来るわけもなく迎撃……いや、キリクにしてみれば予定調和だったんだろうけど、とにかく迎撃に出た訳ですよ。


 敵軍の数は二か国連合軍だったこともあり、総勢二十五万くらいいましたよ……まぁ二カ所同時進行とかいうふざけたやり方してきたので、俺が見たのは十五万の軍勢だったけど。


 いや、凄いね、十五万の軍……迫力が違うわ。


 まぁ、うちもやろうと思えば十五万の軍勢くらい簡単に出せますし、どれだけ数を多くしても一糸乱れぬ行軍が出来ますし、迫力も段違いだと思いますが……それでもあれは圧巻だった。


 対するこちらは五万……三分の一しかいないわけで、傍から見れば勝ち目がないように見えた事だろう。


 しかも野戦だったしね。兵力に三倍の開きがあって防御側が野戦を挑むって……正気の沙汰じゃないよね。俺が兵だったら秒で逃げるわ。


 だけどまぁ、俺もここ数か月で相当覇王やって来てるからね。あの程度の戦力差でビビる事は無かった。


 だってほら、敵の兵が三倍だったら……こっちの兵は一人三人倒せば勝ちってことだもんね?


 自分で言っておきながらなんとも頭の悪い結論だと思うが、実際それが出来てしまうのがうちの軍の凄いところだ。この世界の軍とは基礎スペックが違い過ぎるからね……。


 そんな訳で戦争自体には何の不安も無かったし、実際カミラに任せたエスト方面も瞬殺、アランドールに任せたユラン方面も瞬殺でしたよ。


 『鷹の目』を使って両方の戦場を眺めていたけど、やはりエリア系の魔法が強すぎる。


 今回戦場で使われたのは土、風、火、雷のエリア系だったけど、どの魔法も万単位の兵を薙ぎ払ってたからな……敵方にも儀式魔法とかいう強力な広範囲系の魔法があるらしいけど……発動までにかなり時間がかかるらしく、今の所お目にかかった事は無い。


 開戦から一時間も戦ってたことが無いからな、発動まで敵軍が持たないんだよね……後学の為一度くらいは見ておきたいけど、どうやら発動させるのに随分とお金がかかるらしく、気軽に見せてとは頼み辛い。


 その内、誰かに頼んで見せてもらうつもりではいるけど……どんなもんなのか確認しておかないと、大変な目に遭う可能性もあるしね。


 発動のタイミングが難しいかもしれないけど、こちらが攻め込んだ際にいきなりドカンと準備しておいた強力な儀式魔法を撃ちこんでくる可能性はある。


 その時、召喚兵ならまだしも、うちの子達がやられるようなことがあったら……うん、やはり儀式魔法については、ちょっと無理をしてでも早めに調べておく必要があるね。


 ソードアンドレギオンズと言うゲームに、死んだ味方を生き返らせる手段は存在しない。


 戦に負けて敗走したとしても死亡する事は殆どないが、一騎打ちで敗北すれば五割強くらいの確率で死ぬし、戦争に負けて捕虜にされた後処刑されたりすれば……当然そのキャラは死ぬ。


 一度死んだキャラはその周回では……邪神戦で敵の先兵として蘇る以外ではゲームから除外される。フィオによって現実の存在として生まれた俺達は、ゲームのシステムを引き継いでいるとは言え、周回は出来ないのだから……当然死は死。


 うちの子達の安全は何よりも優先しなくてはならない……そういった意味で、今回の戦いで英雄という存在に遭遇できたのは非常に嬉しかった。


 以前より英雄と言う規格外の存在が居ると言う話は聞いていたし、色々と警戒はしていたのだけど、実際にこれまで会う機会は無かった。それが、遂に今回の戦いでその存在を確認することが出来たという訳だね。


 まぁ、戦ったのは俺じゃなくてリーンフェリアだったけど……俺の心配をよそに、英雄との初遭遇は、なんというかぼっこぼこの一言に尽きる感じだった。


 リーンフェリアは敵の攻撃を事も無げに完封、攻撃に回れば敵である英雄を同情してしまうくらい、けちょんけちょんであった。


 その光景はなんというか……ゲームと現実を一緒にしちゃいかんという意見に全力で同意したいと思える物だったね。


 ……何にせよ、この世界で規格外と言われる英雄を、一方的にぼっこぼこに出来たという事実は、とても安心できる事実だった言える。


 そんな感じで一つの懸念を解消した俺は、軽い気持ちでその戦場を後にしたのだが……真の驚きはそこからだったのだ。


 俺はキリクに言われるがまま、とある街に転移したのだが……そこはソラキル王国の王都のすぐ近くにある大きめの街だった。


 なんで……?


 俺が転移ついでに時間旅行をしていないのであれば、転移する直前エインヘリアとソラキル王国は遂に戦端を開いた……そんな状態だった筈である。


 うん……フィオが謎の悪戯を仕掛けてきたりしていない限り、俺は戦争が始まってすぐソラキルの中枢にほど近い場所に転移してきたわけだ。


 なるほど、意味が分からん。


 何故、ソラキル王国内部に魔力収集装置が設置されているのかしら?


 俺は今までいくつかの国と戦って来たけど……制圧からの設置、そして次へ……その繰り返しによって進軍を続けてきたはずだけど……あれ?エインヘリアってばいつの間にそこまで攻め込んでたの?


 いや、惚けるのはよそう……これがつまり、キリクがもう終わっていると言ってのけたその結果なのだろう。


 つまり……戦争が始まる前から、キリクは敵の喉元に剣を突きつけていたということ……うん、一体何時からこんなことになっていたのだろうね……。


 この世界に来た直後、皆の前で今までとは違う、これからはもっと柔軟に様々なことに対応しなくてはいけない、考えることを止めるな、常に新しい方法を模索しろ……そんなことを偉そうに何処かの覇王が言ってましたが……こと戦争の仕方においてゲーム時代のやり方を踏襲していたのは俺の方だったな。


 順番に拠点を落として侵攻を進めていく……そのやり方しか今までしてないもんな。


 キリクは調略によって王都近くの街を陥落させ、そこに魔力収集装置を設置……後は好きなように料理が出来る、そういうことだろう。


 ゲーム時代であれば魔力収集装置のある拠点は自軍の拠点になるわけだから、敵国深くにいきなり自軍拠点を作る方法なんて無かったけど……現実となった今ではその方法はあるって事か。


 魔力収集装置を設置するには、集落内の特定の位置に設置しなければならないみたいな制約があるので、余程運が良くないと土地を購入してこっそり設置みたいなことは出来ない。


 だが、今回キリクがやったようにその集落のトップを調略してしまえば、堂々と魔力収集装置を設置することが出来る。


 まぁ、魔力収集装置の事が、敵国にまだバレていないからってのもあるだろうけどね。うちのやり方がバレれば、あんな目立つ物の設置を国相手に隠し通せるわけがない。


 いや、まぁ……うちのキリクさんに任せれば行けそうな気もするけどね。


 閑話休題。


 それでですね、俺が何故ぽかんしているかってところなんですがね?ソラキル王国との開戦から半月……今日はソラキルの王城でなんかイベントがあるらしいのですよ。


 まぁ、イベントがあるだけなら、ふーんってなもんなんですが、そのイベントの最後にね?ソラキル王国がエインヘリアに全面降伏、そのまま傘下に加わるって言うのだから、そりゃ覇王も驚くってなもんですよ。


 いや、既に戦争は決着したようなもんだし、いつかはそうなるのは予想してたけどね?


 今までエインヘリアが併呑して来た国はいくつもあるけど……開戦から半月で陥ちた国はないよ?


 しかも、この辺りでは一番大きな国であるソラキル王国が最短記録更新ですよ?


 勿論、キリクがこの国に色々仕掛けてたのはかなり前からなんだろうし、ゼロから半月で落としたわけじゃないのだろうけど……それにしたって早すぎない?


 もうキリクに全面的に任せといたら、俺が部屋でルミナをもふもふしてる間に世界征服完了してそうだよね?一年くらいで。


 ふぅ……さて、呆気にとられるのもそろそろ終わりにしないとな。


 今日はこれから大事な仕事がある……お腹が痛くなること待ったなしって感じの仕事だが、ここまで完璧に事を進めて来たキリクの顔に泥を塗らない為にも、全力で気合を入れて覇王ムーブをかまそうじゃないか!


 俺は自分の頬を両手でぴしゃりと叩き気合を入れた。


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