第78話 待たされたな!
ヴィクトルが顔を青褪めさせながら何かを必死で考えている。
まぁ、あれだな……ドラゴンが何時襲い掛かって来るかも分からない場所に、国の中枢が存在しているんだ。
果たしてそんな国に未来を託して本当に良いのか……降伏を申し出たのは早まったのではないか……エインヘリアのせいで周辺に住む民に甚大な被害が出る……そんな感じに考えているのだろう。
さて、どう説得したら良いものか……正直カルモス達も納得しきっている訳じゃない筈だし……やはりここは、強気を見せて後は流れに任せる……とかが良いのではないだろうか?
そんな事を考えながら口を開こうとした所、謁見の間の入り口付近に突然ウルルが姿を現した。
ルモリア王国の使節団の皆さんの背後になるから気づいてはいないと思うけど……シリアスな空気に堪えられなくなった?
いやいや、ウルルはマイペースっぽい喋り方ではあるけど、非常に真面目で優秀な外務大臣だ。
何か理由が……あぁ、『鷹の耳』を使えばいいのか。
流石にこちらからは声をかけられないから……俺はウルルに視線を合わせながら『鷹の耳』を発動してウルルの声が聞こえる様にする。
『フェルズ様……聞こえますか?』
聞こえて来たウルルの声に小さく頷いて見せた後、俺は視線をヴィクトルに戻す。
『ご報告いたします……エインヘリア城に向かって飛来する……ドラゴンを発見……移動速度から三十分ほどで……ここに来ます』
来たか!
俺は待ちに待った報告に、謁見中にもかかわらず思いっきり笑みを浮かべてしまった。
当然、俺の事を見ていたヴィクトルがその事に気付き、ギョッとしたような表情に変わる。
うむ……突然、不気味過ぎるよね。
『体表は……暗褐色の鱗に覆われて……全長は……三十メートル強。一対の翼を広げて……飛んでいて……両翼を広げると……およそ四十メートル……グスコに特徴を確認したところ……グラウンドドラゴンに違いないと……』
そんな俺の胸中には気づかずに、ウルルは報告を続けてくれる。
よしよし……グラウンドドラゴンで確定っぽいな。
確認したのがグスコだけってのは足りないかもしれないけど……カルモスは領都だし、他のメンツも各地に散ってるからな、すぐに確認出来る相手がグスコしかいなかったのだろう。
丁度いいし、ヴィクトルにも確認しておくか。
「ヴィクトル。この地に居るとされるドラゴン……グラウンドドラゴンの姿について知っている事はあるか?」
「私はその姿を見た事はありませんが、いくつか話を聞いたことがあります。どす黒い赤の鱗に複数の家を重ねたよりも大きな体。巨大な翼の羽ばたきは木々をなぎ倒す程で、そんな巨体でありながらも、遠目に空を飛ぶ姿があっという間に視界より消え去るほどの速度で飛んでいたそうです」
「なるほどな……」
どす黒い赤……ウルルも暗褐色と言っていたし……大丈夫そうかな?
体の大きさとかは抽象的過ぎて分らん……長さとか重さとか時間の単位を俺の知るものに統一させられないかな?エインヘリアでは皆通じるし……国の統一規格として推し進められるか?
って今それはどうでもいい……今後やりたい事一覧には入れておきたいが。
「ヴィクトル……そして、使節団の者達よ、落ち着いて聞いて欲しい。今、私の元に連絡があった。件のグラウンドドラゴンが、この城を目指して飛んできているらしい」
「なんですと!?」
なんですと?
これ以上無いくらいに目を見開きながらヴィクトルが叫ぶ。
その後ろにいる使節団の連中も声は上げなかったものの、咄嗟に立ち上がろうと半腰状態になったのが数人。
「陛下!それは真ですか!?」
「うむ。やっと現れてくれて、喉に刺さった小骨が取れた気分だ」
俺がそう言って笑うと、ヴィクトルが顔色を青、白、赤と変えていきながら叫ぶ。
「陛下!そのような事を言っている場合ではありません!今すぐにお逃げください!可能であるなら、近隣の住人もすぐに避難を!」
そう叫びながらも、立つことはせずに深く頭を下げるヴィクトル。
ちょっと驚いたのは、近隣住民だけでなく俺にも逃げろといった事だ。って言うか、俺優先で逃げてってニュアンスだった。
ヴィクトル的に俺は死んでほしくないって事かしら?ちょっと嬉しいんじゃが?
……いや、違うか。
ここで俺が死ねば、ルモリア王国の民を守る者がいなくなるからだな……ちょっと自意識過剰だったか。
別に、おっさんに気に入られても嬉しくないんだからねっ!
「逃げる?馬鹿を言うなヴィクトル。わざわざ向こうからドラゴンが来てくれたのだ。存分に歓待してやろうではないか」
「陛下!伝承では龍が人語を解するという話もありますが……それは言葉が通じるだけで、話が通じるという訳ではありません!」
俺の軽口に、至極必死な様子で思い止まらせようとするヴィクトル。
ふむ……ドラゴンと会話出来るのかもしれないのか……手懐けたら、周辺国への良いアピールになるかな?
っと、あまり時間はないし、ヴィクトルが憤死する前に真面目にやるとするか。
「ヴィクトル。お前の忠言嬉しく思う。だが、ここは我等に任せよ。お前の不安必ず打ち払ってみせよう。この覇王フェルズの名において!」
俺は宣言と同時に立ち上がる。
「キリク!イルミット!」
「「はっ!」」
「ヴィクトル達使節団を空中庭園に案内しろ。そこから見える位置で興行を開催してやる」
「「承知いたしました!」」
「サリア!お前は使節団の護衛だ」
「はっ!」
「エイシャ!マリー!ロッズ!城下町に向かえ!住民を城門の内側に避難させよ!」
「「はっ!」」
ちびっこ組は、戦争参加を今の所させないように動いているけど、こういう時に命令を遂行させることで、仕事を命じられない気がすると思われないようにしておこう。
ロッズは別にちびっこではないが……ちびっこだけだとちょっと不安を覚えなくもないのでお目付け役だ。まぁ、エイシャ達だけで問題ないとは思うけど、人手も必要だしね。
「リーンフェリア!カミラ!ジョウセン!」
「「はっ!」」
「お前達は私についてこい。約束も無しに来た客人とは言え、ようやく顔を見せてくれたんだ。しっかり持て成さねばなるまい」
「礼儀という物を叩き込んでやります」
「ふふっ、アレのせいで、随分長い事城に閉じ込められたんですものぉ。たっぷりとお礼をしてあげないといけないわぁ」
「楽しみでござるなぁ」
「ジョウセン、ドラゴンをあまり傷つけずに倒したいんだが、いけるか?」
少し離れた位置で顎を摩っているジョウセンに俺が尋ねると、とたんに表情が渋い物に変わる。
「……拙者には不向きでござらんか?」
まぁ、近接攻撃というか……剣って基本相手を傷つけずに倒せないよね?人間相手ならまだしも、ドラゴン相手だし。
「ジョウセンなら容易いだろう?」
「殿がそうおっしゃるなら、やりましょう」
俺の無茶ぶりにジョウセンが不敵な笑みで答える。
「良し。三人は十分後に城門前に集合。城下町を抜けた先でドラゴンを迎撃する!」
「「はっ!」」
「名前を呼ばれなかったものはキリクに従え!接敵まで二十分強……あまり余裕はないぞ!」
「「はっ!」」
俺の宣言に謁見の間に居たうちの子達が一斉に動き出す。
「へ、陛下!お待ちください!一体何を……!?」
しかし、ヴィクトル達はそうはいかなかったようだ。
「ふむ、分からなかったか?今からドラゴンを倒すのだ。お前達にはそれを特等席で観戦させてやろうと思ったのだが……不安なら元ヨーンツ領都か元アッセン領辺りに転移するか?こちらがカタを着けたら迎えを出すが」
「ほ、本気で龍と戦うと……?」
「あぁ。俺は王だぞ?嘘をつくはずがないだろう?」
いや、王様でも普通に嘘はつくと思うけど……嘘なんかつかない覇王という事で押し通そう。
「……既に軍勢を整えられていたのですか?」
「いや?ドラゴンと戦うのは俺を含めた四人だ。少し過剰戦力だとは思うが、まぁ初めてのドラゴンだし慎重に行こうと思ってな」
「……」
俺の言葉に、完全に呆けた表情になるヴィクトルと使節団の皆さん。
まぁ、気持ちは分からないでもないけど、今は時間がないから後は任せてしまおう。
「ヴィクトル、悪いがドラゴンが来るまで時間がない。後の事は我が右腕であるキリク、そしてお前達を迎えに行ったイルミットに任せてある。観戦するも避難するもお前達の好きにすると良い。別にどちらを選んだからと言って、今後の話し合いの仕方を変えるつもりは無いが、恐らく面白いものが見られるはずだから観戦することを勧めておこう」
俺は最後にヴィクトルに向かって笑いかけた後、傍らに置いてあった覇王剣を手に取り玉座を後にする。
待ちに待ったドラゴン戦だ……楽しみでもあるし、怖くもある……いや、結構怖いけど……。
だが、俺は覇王フェルズ。
この程度の相手を処理出来なくて、今後覇王として生きていくことなんて出来るわけがない。
頬を叩いて気合を入れたい所だったが、その気合の入れ方は覇王っぽくない。
俺は手にしていた覇王剣を強く握りしめた後、鎧や薬の準備に向かった。
十分後に集合って言ったけど、ヴィクトル達の相手で数分使っちゃったし……俺、間に合わないかもしれんな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます