第5話 仲間

「オレは戦士(ウォーリア)のデオンだ」

「盗賊(シーフ)のサカラ」

「ワシは黒魔導士(ブラックメイジ)、モドフ」

「癒術士(ヒーラー)のテウレノでぇ~す。よろ~」

「軽兵士(ソルジャー)のヘリオ。半人前ッスけど、よろしくッス」

「私は防御者(ガーディアン)のジョド。この六人が、うちのパーティーだよ」

 モドフは高齢でも、パーティーはデオンと、ジョドが率いていた。防御者、盗賊を女性がつとめるのは珍しい。テウレノはまだ幼い感じが抜けないけれど、それがムードメーカーとなるようだ。

「今、私たちはカルクソヌの北、アルベイヌ山の洞窟探索の仕事をしている」

「宝探し?」

「否、マップづくりだよ。この洞窟はつい最近、発見されたばかりだ」

 だからカルクソヌの町にいる冒険者で、実力と実績をみとめられた六人が選抜された……らしい。何でそこにオレが……? 半人前のヘリオもいるが、彼は小間使いのようによく働く。

 オレも不自然に思いつつ、歩いて一日近くかかるそこへと向かっていた。 


「頼む、ミトラ!」

 飛行するウォーリーバッドを、オレが弓矢で牽制する。その間に、デオンやサカラが倒す。洞窟らしくエレメント系や蝙蝠系など、特殊な敵が多く、魔法が利きにくい面があった。

 なるほど弓のような、後方支援を必要とした理由がわかった。

「矢、とってきたッス!」

 矢も消耗品である以上、外れた矢をヘリオがとってきてくれる。当たらずとも牽制で十分なので、これでオレの役割は成立していた。

 強力な魔獣はおらず、デオン、サカラ、ジョドなどは経験も豊富だ。黒魔導士のモドフと、癒術士のテウレノはマップ作りに専念する。

 チームとしていい連携だ。魔術を温存できるのもいい。兄貴肌のデオン、口数が多くないけれど、ジョドとはよく話すサカラ。経験値の高いモドフに、テウレノとヘリオが明るく盛り上げる。

 個々の実力もそこそこ高くて、安心感もあった。いいパーティーだ……。オレもそう思った。


「ここから先は、隊列を組もう」

 デオン、サカラ、オレ、ヘリオ、テウレノ、モドフ、ジョドの順に並んだ。前方の敵、後方の奇襲に備えた布陣だ。

 そこからは道幅もせまく、一列になってすすむ。そそり立つ壁には腕一本が入るぐらいの穴が、無数が開くばかりで、天井すら見えない。テウレノが魔法で照らす洞窟の先も、終わりが見えない。

 辺りに充ちる殺気……だが、意外な攻撃があった。穴から突然何かが飛びだしてきて、脛を噛まれた。ケガは大したことなく、その何かもすぐに隠れてしまうが、オレは眩暈を感じて膝をつく。

「ひゅ~……。危ない、危ない。デオンさんも酷いですよ。ジャースネイクに襲われるの、オレだったかもしれないじゃないッスかぁ~」

 そういって、ヘリオがオレを跨いでいく。オレも気づく。

「これは毒……? 早く解毒を……」

 癒術士のテウレノは、ちらっと視線を走らせるも「ムリ、ムリ。そいつらの毒は、私にも解毒できないもん」と、脇を通り抜けていく。

 次のモドフはオレと目線を合わせるよう屈みこみ「ここはジャースネイクの巣窟。奴らが好きなのは生肉。安心せい。心臓は最期にしてくれるわい」

 醜悪な顔でそう告げると、オレに唾を吐きかけ、腹を蹴って行った。

「これは罰……。小娘一人を犯す、簡単な仕事のはず……だったんだけどね」


 ジョドの冷たく見下ろす目を、思わず見返した。

「ロタ・ディエーヌを襲ったのは、私たちの仲間……。否、身内さ。私の兄と、モドフの息子もいた」

 そういえば、ジョドが語った兄は過去形だった。オレもロタを救ったときのことを思いだしていた。

「これも依頼。冒険者殺し、のね……。冒険の途中、ジャースネイクに喰われて命を落とす。冒険者らしい因果応報だろ?」

 依頼? 誰が……? ただ、それを問うだけの体力すらすでに奪われていた。呂律も回らず、目も霞む。ジョドが立ち去る後ろ姿も、ここで惨たらしく死ね、と告げているようだった。

 彼らが去ると、穴から無数のナマコのようなものが這いだしてくる。先端にはずらりと円形に並んだ牙があり、それで肉をえぐりとって喰うようだ。毒ではなく、コモドオオトカゲのように、奴らの口内にいる雑菌が血管に入りこむと、免疫系が暴走して体を蝕み、体を動かせなくなる。要するに、それで死ぬことはないけれど、動きが止まり、それを奴らが餌食とする……。

 オレは覚悟を決め、右に矢、左にナイフを手にした。意識をたもち、最期のそのときまで戦うために……。


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