第4話 冒険者パーティーへの誘い

 カルクソヌの町――。

 山に囲まれた盆地にあり、周りの高い木々も街を隠すため、ベージュの町より規模も大きい。中心には荘厳な礼拝堂が建造される。神族側の町だと、礼拝堂が付属するのが一般的だ。

 彼女たちは礼拝堂に付随する屋敷に入っていく。少女は神官長の娘で、ロタ・ディエーヌという。お付きのメイドはオクノ。二人で隣町にお使いにいった帰り、賊徒に襲われたそうだ。

 一宿一飯の要求は通ったけれど、豪華な客室と食事、設備のととのったお風呂などは利用できても、歓待する様子はない。唯一オレと接するのもオクノだけで、接触を避けるような印象もあった。

 屋敷は広くて三階建て。大浴場もあり、調度品も豪勢で、裕福であることは分かった。この世界では小さな町ぐらいだと、領主より宗教指導者の方が権力をもつケースも多い。

 ここも例に漏れず……か。

 ただ夕食のメインディッシュに、毒が雑じっていたのは閉口した。致死量ではないので、毒消し草と一緒に半分を食べて、それでやり過ごしたけれど、歓迎されていないことはよく分かった。


 朝食をとると、早々にディエーヌ家を後にする。礼拝堂は朝のお祈りの時間で、町の住民が集まっていた。中には冒険者もおり、小汚い格好だし、また村人も粗末な服を着る。

 どうやら、富の偏在が激しい町のようだ。生憎と、エルフは宗教をもたずに、自然崇拝(アニミズム)の傾向が強い。人族のクノッスス教とは馴染めず、祈りを捧げる慣習もないので、その場をすぐに後にした。

 町は高い塀に囲まれており、魔族もあまり注目していないのか、平穏だ。逆にそれが、宗教施設が富を接収する根拠ともなっているはずだ。これは神のご加護と……。ギルドに向かうと、高齢の老人が受付だった。

「エルフの冒険者かい? 珍しいのう」

 こういう反応にも慣れてきた。目つきは鋭いも、よる年波は見る影をなくし、老人の手続きは遅い。それを待っていると「エルフか……」と背後から声をかけられた。ふり返ると、筋肉質で勇壮な体躯をもち、頑丈な装備をした、ガーディアンと思しき女性が立っていた。

「私はジョド。今度、うちのパーティーに参加してくれよ」

 誘いとしては高圧的だけれど、それが女性の特質なのか? 相手の機微などお構いなしの、大らかな誘いに対して「オレはミトラ。考えておくよ……」と、素っ気なく応じておく。


 カルクソヌの町では、囲いの外にある畑にでる魔獣討伐が、冒険者の主な仕事だ。そこで、一人で請け負うことにした。

 魔獣なら、罠を仕掛けておけばよい。待ち伏せも可能で、それは〝卑怯〟スキルをもつオレなら容易だからだ。待つのは退屈なので、その間にボーガンの製作にとりかかった。

 弓を鍛えるのを待つより、道具を工夫する。鏃に毒を塗ったり、火属性の魔法を付与したり、それも〝卑怯〟により覚えた。でも武器自体を扱いやすくしないと、攻撃力も限られる。

 陽もとっぷりと暮れるころ、オレは魔獣退治を終えて町にもどる。それが日課のようになっていた。

 この町に宿はなく、空き家となった竪穴住居に、冒険者は暮らす。風呂とトイレは共用、というより町に一つだけだ。

 オレは目立つ容姿もあって、深夜に風呂をつかう。エルフの美麗すぎる体は人族にとって注目の的。目立ちたくないオレにとって、ハードルが高い。

 また、ここでは湯帷子をまとい、お湯をかけるだけなので、基本的にお風呂は男女共用であることも大きい。好奇な視線は、オレを人族から遠ざけた。

 オレが風呂をつかっていると、後から入ってくる者がいた。

「やぁ。また会ったな」

 蓮っ葉なそんな喋りかけをしてきたのは、ジョドと名乗った女性だった。


 ほとんど全裸……でも、ボディビルダーのようで、卑猥さはない。胸の盛り上がりとて筋肉のそれで、ブーメランパンツも似合っていた。

「この体、気になるかい? 私は人族と、ドワーフのクォーターだよ」

 視線を感じたのか、そういって力こぶをつくってみせる。ただ、異種族が多いこの世界で、異種間の交雑はつとに嫌われるのが常識だ。

「何でその話を、オレに?」

「エルフは他人に興味をむけない……だろ?」

 オレも肩をすくめる。転生者でなければ、その通りである。

「祖母は終生、祖父について語ることはなかったが、隔世遺伝した逞しいこの体を見れば、一目瞭然だ。混血……どこに行っても爪弾きさ」

「それで冒険者を?」

「あぁ。父も、兄も冒険者をしていたし、女性としての幸せは難しい。冒険者が天職だよ」

 髪も長いけれど、まったく梳られておらず、後ろに束ねただけで、顔には化粧すらしていない。ただ、この見目麗しいエルフの体をみても、何も反応しないのは不思議だった。

「冒険者になれば、命を落とすこともある。特に身内を失くすと、それを痛感する。でも私は、冒険者を辞められない……」

 オレは憂いに充ちた、そんな表情をするジョドをみて、彼女たちのパーティーへの参加を決めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る