第3話 少女を救う
街道を外れて森を歩いているとき、悲鳴が聞こえてきた。街道を外れていたのは、人に会いたくなかったから。でも、街道に近づくと、高貴な身分が乗るような豪奢な馬車が倒され、その近くで顔を隠した五名ほどの山賊たちが、二人の女の子を囲んでいた。
どうやら、護衛や馭者は逃げだしてしまったようだ。残されたのは、逃げるに難い美しいドレスをきた少女と、それを守るようにするメイド服の女性。山賊たちは馬車に目もくれず、女性たちへにじり寄る。
モノとりではなく、姦淫が目的か……。山賊の一人がメイド服の女性を引き剥がすと、狙いであろう、高貴な少女へと襲い掛かった。
「いや……、やめて……」
絶望する中でも、相手の情に訴えることはできる。でも、ここは剣や魔法を、冒険者なら当たり前にもつ世界だ。それは野盗も同じ、それをもたない少女に抵抗する力はない。程なく少女は裸に剥かれた。
「へへへ……。神官の娘も、清い身体を保っているのかな?」
下卑た笑いを浮かべ、頭目と思しき男が、その真っ白で、まだ成熟していない体を見下ろす。
少女は腕を押さえられても、足だけでも必死にまだ無垢なその叢を隠そうとするけれど、虚しい抵抗だ。
頭目の男はその足をつかみ、押し開いた。
ポロン……。
不意に鳴り響いた音色に、山賊たちも驚いてふり返る。「誰だ! ……エルフ?」
「初めまして。私、エルフのミトラと申します。以後、お見知りおきを」
「てめぇ、邪魔するつもりか⁈」
「滅相もない。もし赦されるのなら、皆様がお楽しみになったあと、私もその二人を凌辱する権利を得たい、と思いまして。ただ、新参者の私ができるのは、こうして音曲を奏で、詩を唄い、ムードを盛り上げること。できればこれで、私にも愉悦を得る機会を……」
山賊たちも、そんな申し出をするエルフに下卑た笑みを浮かべた。
「エルフも人族に性欲をもつのか? ま、いいだろう」
救いではなく、さらに敵が増えたことで、少女は愕然とする。絶望したのか、頭目がふたたび足を押し開いたとき、抵抗する力を失っていた。
頭目も滾る自分のものをさらけだした。それで少女に、まだ一度も体験したこともない痛みを加えるために……。
ただ、頭目はこれまで一度も味わったことのない痛みが、腹の内から沸き起こっていた。
「ぎゃぁぁぁぁッ!」
凄まじい悲鳴を上げ、頭目の男は体のうちから炎に焼かれて倒れた。
「内臓が腐ると、焦げた匂いも醜悪だな」
オレの手にはナイフが握られ、それで背中から刺したのだ。
「う、裏切ったな!」
「はい、裏切りました。それは山賊どもに協力するより、貴婦人を助ける方が謝礼も得られる。だろ?」
残りの四人が、こちらに向かって襲ってきた。でもそのとき、木の影から矢が三本飛んできて、見事に命中する。例えかすっただけでも、そのうち苦悶のうちに絶命できるだけの毒矢だ。
残り一人は脱兎のごとく逃げだすも、オレが弓で射る。ただ、それこそ足を掠めただけだった。
弓はもっと練習しないと……。罠による弓があたるのは、〝卑怯〟がサポートするからだ。頭目を刺したときも同様で、後ろから刺す、という姑息な手をつかうときは力になってくれた。
のたうち回る盗賊を見下ろし、人族は脆い……と改めて感じた。焼かれていた頭目ともども、やがて彼らは動きを止めた……。
ビリビリに引き裂かれた服を必死でかき集め、体を隠そうとする。でも、腕のすき間からは小さな胸が毀れていた。こちらへの不信が強く、体を隠すより、オレの動向を警戒するためだ。
「エルフは人族に情欲を抱かないよ」
それが一般的だけれど、前世の記憶をもつオレは少々異なる。でも、そうでも言わないと、相手の警戒が解けそうもない。
金髪少女の未成熟な胸を愛でていたいところだけれど、オレは倒れた馬に近づき、手当てをした。そうこうする間に倒れた馬車から荷物をひっぱりだし、少女は着替えを済ませることができた。
「助けていただき、ありがとうございます。ここでは御礼もできないので、町までついてきていただけないでしょうか?」
メイド服の女性が、そう慇懃に尋ねてくる。
「それは護衛も兼ねて……ということか? なら、一宿一飯で請け負ってやる」
「ご主人様もみとめて下さる、と思います」
それで話がついた。馬車は壊れて動かせないので、荷物を馬に乗せると、徒歩で町まで向かった。
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