第6話 Friend 〜①

体育祭当日は雲ひとつない青い空が広がる晴天になった。


今朝は調子も良くなっていたけれど、私は大人しく見学する事にする。

見学の生徒は他にも数名いて、皆屋根のついた大型のテントの下に集合していた。

席は決められていなかったものの既になんとなくグループ分けがされていて、学年毎に違うジャージの色がそれの目印みたいになっている。

三年生は今のところ私ともう一人だけ。同じクラスの女子生徒で挨拶くらいは交わす仲だ。

(全く話したことのない人よりはいいのかな…)

とりあえず、と彼女の横に座ってみる事にした。


「あ、田村さん!」

「えっ?」

急に名前を呼ばれて驚いてしまったが、彼女はお構いなしに話を続ける。

「私、昨日張り切り過ぎて怪我しちゃって。でも田村さんも見学仲間みたいで良かった」

「怪我…大丈夫?」

「ちょっとした捻挫だから全然大丈夫だよ」

青葉さんはクラスでもよく目立つ快活な女子だ。

いつもは肩まである栗色の髪を巻いてきているけれど、今日は高い位置でおだんごにしていてそれもよく似合っていた。

「おだんご、可愛いね」

「本当?嬉しい、ありがとう。田村さんも似合いそうだけど。あー、ヘアゴム余分に持って来れば良かった。ゴムがあればお揃いに出来たのに…って、ごめん、私一人でしゃべってる」

「あ、いや、謝らなくても全然」

折角青葉さんが話してくれているのにうまく返す事が出来なくて、自分にガッカリしてしまった。


「盛り上がっているところ邪魔して悪いんだけど」

養護教諭の声がして振り返る。

「あ、のりちゃん」

そう気安く返事をする青葉さんに私は少しだけ驚く。

「青葉さん、昨日は何も出来ずにごめんなさいね。急遽病院まで生徒の付き添いに行っていた時だったから、後から森永先生に聞いてびっくり。体育祭、楽しみにしていたのに残念ね」

「そうなんですよー。勉強出来ないから体育で挽回しないといけなかったのに」

「田村さんも大丈夫だった?青葉さんが行った頃にはもう寝ちゃってたかな」

昨日は私と青島先生以外には誰も居なかったはずだけど、もしかしたらドアを開けたのは青葉さんだったのだろうか……

ゾクリと背筋を冷たいものが走る。

「私は……大丈夫です。今日は一応大事を取って見学にして貰ってすみません」

「無理はしないで。倒れないように気をつけてね」

彼女はそう言い残して他の生徒のところへと向かった。


「それ、着てるの暑くない?」

他の生徒たちは半袖のTシャツ姿で、自分だけが違っている。

「あぁ…私、日光湿疹が出ちゃうから、夏でも肌を出せないの」

嘘ではない。でもそれが理由というわけでもない。

少しの罪悪感を含みながら、私はそう言葉を返した。

「そうなんだ。今日すごく暑そうだし、熱中症とか気をつけてね。具合が悪くなったりしたらすぐ教えてくれれば先生呼んでくるから」

「ありがとう。すごく心強い」

「そんな、お礼を言われるほどの事でも…」

照れたように笑って顔を赤くするのが可愛い。

「今のところ大丈夫。皆が頑張ってる中で見学している分、クラスの応援もしないとね」

彼女との会話が楽しくて、いつの間にか私は自然に笑顔になってしまう。

こんな感覚は本当に久しぶりで、彼女と友達になれたら楽しいだろうなと思う自分がいる。

「応援しながら色々話しようよ。なんか田村さんてあまり話した事ないから知らない部分が多くて貴重かも」

「貴重だなんて…他愛も無い会話、っていうのかな。私にはそれが難しくて」

「ふっ…田村さんって面白い」


そう言ってコロコロと笑う青葉さんは、太陽みたいな輝きを纏っていて直視できないくらいに眩しかったー

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