第9話 町内会の旅行

 うちの町内会の会長は偏屈だが面倒見の良い方で、町内で旅行することになった。と言っても当時はまだ裕福な家庭は少なく、ホテルでの旅行は出来ないため、町内会で相談した結果、河原でキャンプしてBBQをすることになった。


 当時は自家用車を持っている家が少なく、米屋をやってる会長と、うちの父親がやってる左官屋が持っているトラック(オート三輪)に荷物を載せて、人間は電車で乗り継いで揖斐川の上流にある河原まで行った。


 会長が前もって安全な場所を見つけてあり、そこに十数張りのテントを張る。(テントは各町内が小学校に寄付したテントを無料で借りたらしい)



 皆でテントを張り終え、会長が見張る中、河原で遊ぶ子供達。中学生くらいの大きい子などは大人と一緒に泳ぐ子もいた。暑い夏にあって涼しい河原は、大人も子供も大喜びだ。会長が自腹でプラッシーの2ケース。父親がビールを1ケース寄付した。ま、父が自分でビールを飲みたいだけだが。キリンの瓶ビールは家で飲む分には一日一本までと決まってて、それ以上は母が許さなかった。それなのに1ケースを寄付するのは大盤振る舞いだったろう。


 昼ごはんの時間になり、用意していたカレーを大きな寸胴で作り始める。それと同時に飯盒はんごうで大量にご飯を炊く。なんせ参加人数が半端ない十数軒分の人数なので大きな寸胴も3つだ。


 会長はボーイスカウトの地区のリーダーでもあるので、どこかから借りた飯盒はんごうは勿論、カレーの食材も会長のポケットマネーだ。というのも町内には会長がやってる米屋とは別に長屋も経営してて、その鰻の寝床のような長屋を格安で貸してた。そこに住んでる家族に同級生がいて内情を知っている。



 午後3時頃になり、疲れて寝る人はテントへ。まだ元気な子供達は河原で遊んでた時に、いきなりサイレンが鳴らされる。


 何事?と思ったが、何のことか分からない大人と子供。

ただ一人会長だけが気付いて、大声で川から出るように叫ぶ。


 「鉄砲水てっぽうみずや!みんな川から出ろ!」


 意味が分からないなりに、あの偏屈な会長が顔を真っ赤にしながら叫ぶので嫌々河原から出る私達。


 私達の張ってるテントはかなり堤防に近いので水際まで距離がかなりある。私達とは違うグループが水際にテントを張っているのがいくつかあり、会長はそれらにも叫んで避難しろと言うが、彼らは何言ってんだこのおっさん。という感じで忠告を無視する。



 会長はうちのグループの安全確保に必死で、堤防の上で点呼をする。

全員の安全を確保したのを確認して河原を見る。


 サイレンはすでに2回目があり、その頃には川の上流に水が増えている。


 「あかん!もうすぐ来るぞ!」

何が来るのか?と思い、会長が指さす上流を見ると、濁流が見える。あっという間に中須に取り残される若者グループ。


 なんとか河原まで来れたのは男性だけ。数人が流され下流にある橋のたもとに流された流木にしがみついている。数人は向こうの川岸に辿りつけた。



 結局、近くの消防団の方の助け堤防まで引っ張り誰も死なずに済んだ。

こちらのグループも彼らを手助けしたが、リーダーの判断って大事だなぁと思った出来事でした。

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