第67話 命の選択
2022.6.1
今日も仕事が終わった。
日々、無味無臭、特に変化のない仕事。
私じゃなくても良い仕事。
つまらない仕事。
職場に、生後2ヶ月の新入園児が来た。
生まれて、たった2ヶ月。
小さくて、すごく温かい。
首も安定していない。
寝るか抱っこか、どちらかだ。
生後2ヶ月、猿みたいな顔なのかと思ったら、ちゃんと人間らしい、可愛らしい顔だった。
抱っこすると、笑う。
笑うというか、微笑むという感じだ。
天使とは、このことか。
これから、よろしくね。
私はまだまだ、妊活などできそうにない。
一緒に不妊治療をしていた保育士さんは、妊娠5ヶ月目に入ったところだ。
2月にやり取りしてたLINEを見返す。
「次、3回目の人工授精だよ〜」
そうか、この時に授かったのか。
私は、去年末からガチ鬱で、不妊治療どころの騒ぎではなかった。
もはや、子どもの命より自分の命が危うい。
誰よりも自分ファーストじゃないとリアルな意味で死んでいるところだった。
空を舞うところだった。
そんなもんで、不妊治療など先の先。
まずは自分、だ。
保育園で働いていると、切なくなる。
無味無臭な仕事とはいえ、子どもの可愛い瞬間はいつも感じている。
その度に、自分の子どもなら、と思う。
でも、もう一人の自分が、自分を冷静に見ている。
「オマエ、そんなんで子ども作るの?」と。
子どもを持つこと、子育てをすることなんて、「普通の人」がすることだ。
何より、私が恐れているのは、遺伝だ。
私の母親は、感情の起伏の激しい人間だった。
仮に、母が私と同じ病気だと仮定したら、おそらく躁の波でイライラして怒りやすくなって、私に罵詈雑言を浴びせていた可能性はある。
初めて精神科を受診したとき、当時の主治医は、母にも何らかの精神疾患があるだろう、と言い切った。
そして、「あなたは若いからまだ間に合うかもしれない。でも、お母さんはきっとそのままでしょう」とも言った。
そしてその12年後に、改めて自分の病気と向き合い、治療が始まった。
12年経ったけど、間に合うかなぁ。
母が私と同じ病気だと仮定するなら、なんとなく合点がいく。
母からの遺伝と考えると自然だ。
つまるところ、私は子どもの頃は母親に虐待され、その母からの遺伝によって、大人になってこんな病気になってえらい目に遭っている。
あーやだ。
そんなこと考えたらマジで人生詰んでるじゃん。
何のために生まれてきたんだよって、本気で考える。
ドツボにはまる。
何にもない人生だった、と嘆いて死ぬのは嫌だ。
だから今、必死にもがいている。
望まれて生まれてくることはできなかったけれど、せめて死ぬ時には、生まれてきて悪くはなかったと言える人生でありたい。
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