第25話

「そうなの?」


 私は聞きました。


「もう最近ずっと、あんな風に、あの貴族の女、相手は違うけど二頭馬車であちこち駆け回ってさ…… 何かしちゃ、そのたびに金さえ出せばいいんだろ、って感じで」


 少年は私の方をしっかり見据えて言います。


「銀貨一枚はでかいよ。実際パンがどれだけ買えるか。……うん、パンを買って帰った方がいいんだ。せっかくここで治してもらったんだし。でもあの女、すげえむかつく」


 少年は地団駄を踏みます。


「君、おうちの人は?」


 お医者様は少年に聞きます。


「居ません。俺と妹だけ。あっちこっちの雑用を毎日取り付けて、何とか」

「じゃあお金はどんなお金でも大事だよ。……しかし、きょうだいだけか。親は?」

「病気で」

「ああもっと早く、ここにくれば良かったのに!」


 そう言うと、お医者様は彼を抱きしめました。

 そしてそんなお医者様を見るナタリーの視線も私にはやや気になりました。



「もしかして、ナタリーはあの先生のことが好き?」

「え? ……ええ」

「じゃあどうしましょうかね、そろそろこっちの方も大詰めだけれど……」

「無論、メイドに復帰しますよ」

「でも、私ナタリーに無理強いしたくないわ。だから少し考えて。何だったら、紹介だけでもいいんだから」

「はい。正直言うと、ここの仕事にやりがいがあるのも本当なんです。先生が好きとか以外にも。それに常にここは人手も足りないから、もし私が抜けたら、と思うと」

「そういう問題もあるわね…… ナタリー、貴女はここを続ければいいわ」

「え」

「その代わり、ここでメイド教育ができた子をいずれ私が必要だと思った時に回して欲しいの」

「それでいいんですか?」

「ええ。それにねナタリー、さっきのさっきまで、最後の詰めをどうするか、迷ってたの。私の復讐だけど、本当にそこまでしていいのか、って」

「お嬢様」

「でもさっきのアリシアを見て決めたわ。私、あの子は許せない」


 私はぐっ、と拳を握りしめました。

 そして先ほど拾ったカード。

 これも一つの武器になりそうです。



 さて、二頭立て馬車でいい気持ちになってあちこちを乗り回していたアリシアは、上機嫌で家に戻った様です。

 ですが、戻ってみると、父親だけでなく、母親までもが医者に掛かっている始末。


「一体何がどうしたって言うのよ!」


 アリシアの声が外にまで響いていたそうです。

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