第24話
最後の仕掛けをする前に、私はナタリーの元に出かけました。
そろそろ仕上げにかかるから、ということを伝えに行くのです。
そんな救貧院への道でのことでした。
「きゃ」
どいたどいた、とばかりに馬車が走っていきます。
「……何って乱暴な……」
そう思っていると、その二人乗りの無蓋馬車に乗っているのがアリシアと、何処かの男だということに気付きました。
どうやら夜会で知り合った男と、約束をして馬車を乗り回している様です。
家で何があっても大丈夫とでもいうのでしょうか。
「待って! 待って下さい!」
一人の少年が馬車に駆け寄ります。
「さっき! 妹が……!」
馬車が止まります。
「何だ一体」
アリシアの連れは、少年の前に仁王立ちになると、苛立たしげに声を荒げます。
「さっき! ……貴族様の馬車に! 妹が足を引っかけられて!」
慌てて私は周囲を見渡しました。
確かに、女の子が座って片方の足を投げ出して泣いています。
妙な方向に曲がっている様にも見えます。
「……だから……!」
「何をしろって言うんだ? 金か?」
「……あやまって!」
必死で少年は叫びます。
確かにちょっと運転が荒かったことをアリシアの連れはほんの少し、悔いてる様にも見えます。
どうしようか、とでかい図体の割に迷っている様な男に、アリシアは声を投げてきます。
「何やってるの!」
アリシアは銀貨を一枚、強く少年の頭に投げつけました。
「行きましょうもっと速く! そんなのに構っていられないわ! いつまでも私を放っておくの!?」
「……ああ」
男は少しだけ躊躇すると、アリシアに見えない様にカードを一枚落としました。
きっと彼にも何かあるのかもしれません。
少年は銀貨を拾います。
でもそれから、何度も「ちきしょう! ちきしょう!」と叫びました。
それでも銀貨は銀貨なのでしょう。
「シーア! 金はあるんだ! 医者に行こう!」
「ちょっと待って」
私はそのカードを拾いました。
「何だよ姉ちゃん、俺、妹を、すぐに」
「私今から救貧院へ行くの。そこのお医者さんに診てもらいましょう」
「えっ、……いいのかい?」
「ええ」
妹の方は、私がおぶって行きました。
*
「いやこりゃ酷い。すぐに連れてきて良かったね。ちゃんと伸ばさないと、足が曲がったままになるところだったよ」
救貧院のお医者様は、手際よく妹の方を治療してくれました。
「……先生、妹の治療費…… これで足りる?」
先ほどアリシアが投げた銀貨をお医者様に見せました。
「いやいやそれはここでは受け取らないよ。取っておきなさい」
「でも、何かあの女の寄越した金、金は金だけど…… 治療費でもう、使ってしまいたい様な気がするんだ」
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