第14話

 薬の部屋。

 その名の通り、薬が集められている部屋です。

 お母様は倒れて病気になった時、様々な病気を疑われ、その都度様々な薬について調べたり取り寄せたりしました。

 ……ですからさすがに結構時間が経ったものも多いとは思いますが。

 それでも、毒だの薬だの香料だのの強いものは、そうそう時間が経ったとしてもあまり効果は変わらないと聞きます。

 お母様は集めたそれらが悪用されない様に、とやはり隠し部屋に一つに集めました。

 これに関しては、誰にも触らせず、私が移動させました。

 一つ一つは重いものではありませんでしたし、下手に誰かに知られたら困るものでもあります。

 その中に、無味無臭なんですが、触ると皮膚が焼けただれたりかぶれる薬品があります。

 とりあえずこれを少しだけ試してみましょう。



 仮眠を取って翌朝早く。

 父の部屋の上で、私は待ち構えていました。

 狙いは、父の寝台近くに置かれた琺瑯の洗面器です。

 朝はそれに湯を入れて顔を洗い、用意されたタオルで拭くという次第です。

 もの凄く豊かな家の場合、洗面器を用意する者、タオルを温めて用意する者、服を用意する者と分かれている様ですが、この家では従者一人がその役を担っています。

 確か父がメイドに手を出しかねない、ということでロゼマリアがフットマンの一人を配置換えしたということで。

 この彼はどちらかというとがさつな方なので、何かと動き回るフットマンをやっていた方がよかった様なのですが。

 父も使用人も、どちらにとっても嬉しくはない配置です。

 まあ、だからこそ、隙だらけな訳で。

 琺瑯の洗面器も洗ったまま、水気が残ったままです。

 彼はそれを放置して、湯を取りに向かいました。

 私はその隙をついて、そっと長い細いガラス管を下ろします。

 戻ってきたら視線の届かない位置にすぐに上げられる程度に。

 そして一滴二滴……

 洗面器の中に、まんべんなく落とし込みます。

 よし。

 そろそろ、とガラス管を引き上げます。

 そしてやがて従者が戻ってきて、ぬるま湯を洗面器に注ぎます。

 ちょっとばかり底の方で泡が立ったかもしれませんが、気のせいでしょう。

 従者は父を起こします。

 父は寝汚いのですが、それでも何とか根性で起きます。

 そして目を覚まそうと洗面器で顔を洗い――


「うわああああああ!」


 まあ素晴らしい効き目。

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