第13話

 あー…… 花が可哀想に。

 あれ一つ作るにも仕立屋の手間がかかるのですよ。

 材料は絹地の端切れであったとしても、綺麗に組み合わせるのは難しいのですから。

 私が出て行くきっかけになった取り付けの時だって、いちいちあの一つ一つを汚さない様に気をつけながらなんですから。

 もし針を刺して血が出て汚したら、まず殴られたでしょうに。

 ですが本人からするとあれですからね。


「お父様もっとドレスを作って! あんなぽっと出に話題をさらわれるなんてあんまりよ!」

「うん、まあそれはそうかもしれんが、一体それは何処のどういう令嬢だったんだ? 踊っていたなら、その相手は?」

「ん? えー…… と…… 」


 アリシアは首を傾げます。

 まあギルバート様は普段夜会に出ないと言うし、私など言わずもがなでしょう。


「そうそう出てくることのない令嬢…… もしかしたら、好みの高級娼婦を着飾らせただけかもしれないじゃないか。それとデビューしたばかりの初々しいお前を一緒にしてはいけないよ!」

「そ、そうねお父様! 若さと美しさが私にはあるんですもの!」

「そうよ貴女はこれからよ。ねえ貴方、だから新しいドレスは仕立ててやりましょうよ。あと何着か」

「む、しかし……」

「いけないとおっしゃるの~?」


 くいくい、としなを作りつつロゼマリアは父に迫ります。


「そ、そうだな…… 判ったよ」


 呆れた。

 ドレス一枚どれだけかかると思ってるんですか。

 夜会用なんて特に。

 ……でも、新調するというなら、それなりにちょっと思うことはあります。

 あとは……

 ちょっと移動しましょうか。

 この天井裏は、膝での移動か、膝を曲げて歩くか、くらいの高さがあります。

 小さな頃でしたら、本当に立って歩けたくらいでした。

 そのまま天井裏から一階上の天井裏へとつながる梯子を上ると、今度はそれぞれの部屋を見下ろせる位置に出ます。

 この階には、父とロゼマリアとアリシアの私室と、夫婦の寝室があります。

 灯りは点いています。

 このそれぞれの部屋を見下ろすことができるのぞき窓は幾つかあるのですが、そこからできることは果たして。

 寝ている父の顔の上に何か書いてやりたい、という気持ちにもさせられますが、残念ながら天蓋がありますので、それは無理です。

 しかし顔を何とかするというのはなかなか面白そうです。

 ふむ。

 この位置からでしたら、ちょっと思いつくことがあります。

 よし、ととりあえず私は移動することにしました。

 目的地は、薬の部屋です。

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