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確かに、なんだかやばそうな臭いはプンプンしていた。テヘペロ☆みたいなタイミングで核心的な情報を出してくる辺り、黒幕は確信犯(誤用)で間違いないだろう。展開は読めてただけにイラッとはさせられるが。

主人公も流石にヤバいと思ったらしいが、時既に遅し。ほんの一瞬で、辺りの様子は一変していた。


そこには夥しい数のヒトデ、ヒトデ、ヒトデ。一匹一匹が主人公とほぼ同じ大きさであり、中央に本来ありえざる目玉がぎょろりと動いて主人公を凝視していた。

さすがにこれは多勢に無勢なので退却するものの、追手がいるうえに町方面への道は塞がれており、自然と洞窟へ追い込まれる形になる。幸いと言っていいかは分からないが、儀式の影響が洞窟の入口は開いていた。思いっきり罠の気配しかしないが、もともと洞窟へ入る方法を探していたため渡りに船ではある。もっとも、それは下手すると死へと誘われかねない代物だが。


洞窟へ逃げ込み、少しは一息つけるかと思いきや。


無数の目玉が画面を覆い尽くした。


何ぞ!? と思ったのも束の間、壁に先程のヒトデがびっしりと張りついており、ここもまた安全ではないことを思い知らされる。

奥へ行くと分かれ道になっており、分岐点のところになぜかリュックが落ちていた。前の探索者の持ち物かな? というかいよいよクトゥルフじみてきたぞ。

使えるものがないかと漁った結果、チョークを持っていくことに。……うん、メタ的には必要になるんだろうけど、冷静に考えればなぜそれをチョイスしたんだ? もしくは、ここでそれを持っていかなかった世界線に先は無いということなのだろうか。


そこから先はヒトデを避けつつ、所々にある石碑――港町の入口に置いてあったやつと同じだ――に足りない星のマークを書いてヒトデを退けて進んだ。やっぱこれエルダーサインじゃねえか。洞窟内にあった祭りのチラシに、災いを喰らう外来の神とか書いてあり、思わず頭を抱えたくなる。いや、個人的にはこういう展開も嫌いではないのよ。

しかしまあ多少はそういう邪神の知識もあるため、そいつらに頼った結果がどうなるかなんて火を見るより明らかである。多分化物には化物をぶつけるんだよ的な考えに至ったんだろうが、流石にリスクが高すぎるだろうよ。そこはせめて天照大神とかにしとけよ。それとも、それを奉じることが出来ない訳でもあったのか。

それにしても、このまま進めば魔導書の一冊でも手に入りそうな感じである。そしたらpdfにしてやる。

洞窟内の試練も、画面がぐにゃあ……となったり上下左右反転したりと今までとはまた毛色の違ったものである。時空間に干渉してくる神なんて、まさかヨグ=ソトースか?

そうして進んでいくと、なぜかムギがいてすり寄ってきた。その様にひどく違和感を覚える。

なぜなら今の主人公は呪いにより、ムギから威嚇されるような状態なのである。もちろんムギが主人公ではない、何か別のものを見ていたというのなら話は変わるのだが、確証がない以上それありきで考えるわけにはいかない。

ムギがついてこいというように歩き出す。そして主人公もその後をついて歩き出す。


こちらの操作を受け付けず、独りで。


え? おい? おいおいおいおいおい!? これダメなやつだ。

唯一こちらの操作に反応を示していそうなのは下の体力ゲージのみ。しかし初回は操作の程度が分からなくて間に合わずpow対抗に負け、宙に浮いているムギに誘われて洞窟の底へと落下していった。

二回目はなんとか成功し呪縛を打ち破る。そこにはムギはおらず、やはりあれは偽物だったと悟った。


それを乗り越え大分奥まで進んだ時、再び無数の目玉が画面を覆い尽くす。しかし今度はヒトデは現れない。周りを見回した主人公に対し、そいつはついに姿を現した。


それは紛うことなき無数の目玉だった。それが生物的な膜のようなもののなかにぎっしりと詰め込まれており、その膜も一部はアメーバのごとく蠢いていた。ここまでに写っていた目玉はヒトデのものではなく、主人公はずっとこいつに見られていたのだ。

個人的には赤子の霊の時ほどのインパクトはないが、常人ならsanチェックに失敗して即発狂ものだろう。形態だけならショゴスに近いが、姿が少々違うしそもそも持っている権能とも呼べる力を見ればその程度の存在ではないだろう。

なんにせよ、主人公にできるのはひたすら攻撃を避けて逃げることである。幸い、なぜかここまでに置いてあった石碑がこの空間の中にもあるため、ひたすら奴から逃げつつマークを書き足して道を作る。ここまでに味わった反転や歪曲までも活用してくる辺り、やはりこいつがここのボスなのだろう。それも途中まではなんとかなったが、ある段階が進むと奴はなんと地面を消してきた。もっとも本当に消したわけではなくただ見えなくしただけのようだが、記憶と勘以外に頼ることが出来ないためひどく苦労した。もしかしたら攻略法があったのかもしれないが、力業で突破したためそれは分からない。ここまできて失敗すると最初からだから辛いんだよ……。

それを突破してマークを書き終えると、名状し難い奴は今度こそ目の前から消え去り、主人公は元の洞窟へ戻ってくることができた。

戦っている間、背景がまるで宇宙のようだったことから、やはりあれが外なる神だったのだろう。やっぱり神様なんてろくでもないな!


洞窟の奥にたどり着くと、そこには が落ちていた。これで集めた思い出は6つ。後ひとつ集めれば神龍が現れて願いを……叶えてくれたらいいのになあ。夜廻じゃ出てきてもほぼ確実にろくでもないやつだろうし。


記憶は焼却炉の前で少女が苦しんでいるところから始まった。おそらく前回の記憶のほぼ直後だろう。だが、正直この状況自体に違和感しか感じない。そもそも今までに思い出した記憶を見てみても、前後の繋がりがきれいに繋がってない上に、所々本来のものが歪められていたり抜けている疑いがあったりと何らかの作為を感じるのだ。それを何とかする方法が未だ無いのが、非常に歯がゆいのだが。

少女に声をかけるも、少女にノイズが走りよく見えなくなってしまう。それに驚いた主人公は後退り、ムギに助けられて茂みに隠れる。そこへ羽ばたくような音が聞こえ、主人公の近くに何かの赤い気配が飛来する。目を閉じているせいか主人公を見つけられないでいるようだが、それでも近くから離れない。そこでムギが草むらから飛び出してそれを威嚇する。赤い気配はそれに気圧されたかのように少しだけ下がり、次の瞬間低い雄叫びが辺りに響いた。これがどちらのものなのかは分からない。が、赤い気配はここで消え、記憶もここで終わっている。


普通に考えれば少女が呪いで怪異に変化したのだと思うところだろう。そのように見える。それについては真偽は不明だが、同じように真偽不明なことはもうひとつある。あの最後の低い雄叫びは、誰のものだったのかということだ。順当に見れば怪異のものだろうと思われるが、今作の動物は色んな意味でアテにならない。特にムギは町のいろんな所に出没して主人公を危険な目へ逢わせているように見えなくもない。これが正しい場合、ムギもまた信用できない要素の一つなのである。とはいえ、これもまた今の時点では確証の無い妄想でしかないのだが。


部屋を出て階段を下りる。呪いを解くヒントを求めて、最後の記憶を思い出すために。

が、ここで廊下の電気が点滅し、消える。

そこに立っていたのは、全体的に鳥の要素が強くなった少女であった。

なぜ、と問う主人公に対し少女は――


「わたしを■■す方法は見つかった?」


言葉の全体が分からなかったのは、少女の本能が理解を拒んだのか、それとも偶然か、あるいはそれ以外のなにかなのか。

ただひとつ。今、主人公の心臓は早鐘を打っている。


「キミにできるわけがない!」


そう吐き捨てて、それはそこから消え去った。

鏡を見れば、主人公の姿も辺りにいよいよノイズがかってまともに見れない。どうもそれが呪われた姿らしいが、最終的には翼で突撃してきたあの怪異みたいになるのだろうか。


さて、あの少女が森であった少女と同じなのか。正直分からないが、違うような気はしている。とはいえ、呪いなんて受けて精神が狂わされているのならああなっても不思議はないとは思う。どのタイミングで呪いがかかったのかは分からないが、記憶の時系列の通りだとすれば赤から青に気配が戻っていることになる。ま、呪いが進行しきっていなくてまだ時々人間に戻ってしまうのかもしれない。記憶の不可解な部分もまだ解明しきれていないし、今結論を出すのは早計だろう。


残すは竹藪の記憶のみ。生い茂る竹林の先に待つのは果たしてなんなのか。そして今度こそ呪いを解くことができるのか。答えてくれるものは、誰も居なかった。

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