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ハンドルを操作し、水を抜く。流石に最初であるせいか、とくにこれといったこともなく普通に水が抜けただけだった。

水の底にも何も無し。そもそもそれほど大きなプールでもなかったようで、むしろプールの消毒槽に近い大きさしかない。

ひとまず進んでいくが、どこからか赤子の声のようなものが聞こえてくる。ただお化けの気配はないのでそのまま進んでいくと、あの子守り石が退路を塞いでいた。あくまで逃がさないってわけか。

水路の先には再び水位を操作する機械があった。しかしこちらはハンドルがついておらず、どこからか調達してこなければならないらしい。

森の奥へと道が続いているためそちらへ向かう。まあこちらにしか行けないというのが正しいのだが。ある程度進んだところで、前作のダムの底で襲ってきた小さい虫のようなお化けが、ここにも現れた。しかし前作よりスピードは落ちているようで、光に弱いのも変わらない。落ちぶれたものだ……と謎のマウントをとっていると、子供のすすり泣く声。みると草の影に子供の頭らしきものが少しだけ見えているではないか。こんなところにいる時点で十中八九ヤバいと分かっているので、念のため避けて進む。横を通りすぎても特にアクションもないため、単なる演出かと思った矢先、赤いラインが唐突に現れた。

これには学校で見覚えがある。一見だるまのような子供にも酷似しているが、このように予兆を出したあと翼を広げて突進してくるという、まあなんとも親切なヤツである。初代のテケテケとか、なんの予兆も無しに出現して襲いかかってきたからな。無茶苦茶かわしにくいし、アイツに何度殺されたことか。前作の火車も、地面になぜかタイヤの跡があるのでまあ分かりやすい部類か。とはいえ、これを逃げ場の無い行き止まりなんかでやられたら、見えていることが逆に恐怖であろう?となるのだが。

ともかく、正体が分かれば恐るるに足らず。奥にそのまま進んでいくと、メモ書きみたいなのを拾った。いつまで村のために子供にむごい仕打ちをしなければならないのだと、そう書かれていた。

ふむ、これはこの土地すらもちょっときな臭くなってきたぞ? しかもこんな目もがまだ残っているところから、比較的最近までこのような因習が実行されていたようである。まあこういうのの定番は生け贄が相場と決まってる。しかもこれじゃあ、ヤバいのがいたから生け贄を差し出したのか、それとも逆か分からないな。そこら辺は、この先にいけば分かるのだろうか。


道の終わりに小屋を発見した。それより先は元の広場に戻るだけらしい。一旦お地蔵さんでセーブしてから腹を決めて小屋の中へ突入するものの、中には予想通りハンドルがあったくらいで特に他には何もなかったし何も出なかった。安堵しつつも奇妙なまでの静けさに嫌な予感がじんわりとわいてくる。

ハンドルをセットして回し始めたその時、背後に大きな腕が突如として現れた。もっとも、こんな展開は最初から読みきっていたため慌てることなく回避……に移ったはいいものの予想以上に範囲が広くて叩き潰されてしまった。

二回目の挑戦でなんとかよける。見たところ成人の腕よりも肉付きがぶよぶよとしており、それでいて肝心の手が小さめなことからかなりちいさい子供……おそらく赤子のものだと思われる。大きさは巨人のそれだが。

この先に待ち受けるものの輪郭がようやく見えてきた。同時に、やるせなさも。

こんないわく付きの土地で生きるためにはそうするしかなかったのだろうが、それでも幼い命を犠牲にするというのは虫酸が走る。ただ、これを人の側から始めたのであればそれは決して許されざるものだろう。昔は赤子の死亡率の高さから、七歳を越えるまでは神様の子であり、人ではないとされてきた。だから七五三なんて風習がある。子供がそういうことに出会いやすいのも、霊的にはまだあちら側に近しいからなのかもしれない。


水の抜けた先には、長い間開かれてなかったと思われる扉があった。入り口を封じてなかったことにでもしようとしたのだろうか。あるいはいよいよ手に負えなくなってこうせざるをえなかったのか。なんにせよ、この件に一定のけりをつけなければ、主人公に先はない。

中に入ると洞窟?坑道?とにかく地肌が剥き出しになった道が主人公を出迎えた。どうでもいいことかもしれないが、中はなぜか蝋燭で照らされており、非常に不可解である。空気があるのはまだしも、今まで閉じられていたであろう場所になぜ灯りが灯っているのだろうか。

まあ暗いよりは良いのでそれ以上は考えずに進む。少し開けたところに出ると、またあのミニカカシが真ん中にあった。が、また出現した手にカカシは無残に叩き壊され、あの肉風船共がこれ幸いと跋扈し始める。なるほど、棚田に大量のカカシが捨てられていたのはこいつが原因だったか。多分、本能的に自分に邪魔なものを排除しているのだろう。全然封印できてないやんけ。ただ、この動きが昔からあったとはちょっと考えにくいため、より活性化し始めたのは最近なのかもしれない。あるいは時間制限付きか。

ともかく、越えるべきは今である。すぐ近くにあった別のカカシを拾い上げ、社にセットする。これまで何度も行ってきた動きであり肉風船も巨大な手も消え去っていた。そこで初めて気づいたが、先に続く道をあの手が塞いでおりそのまま行けば普通に接触して死ぬか、叩き潰されて御陀仏だったかもしれない。正直、カカシバリヤー程度じゃあの大質量を凌げるとは思えないし。


そこから先は特に難しいこともなく、各所に落ちている鍵を拾って閉ざされた扉を開けるだけだった。ただ、耳に赤子の声がこびりついて精神的にはひどく参ったが。

そしてある場所に差し掛かったとき、赤子の声が近づき、量を増やし、そして段々低くなっていった。

目の前にはここまでにいくつも見た普通の扉。しかしこの状況から察するに、この先で何かがある。

扉を開いて先に進むと、それまでより遥かに開けた場所に出た。木の橋の向こうにカカシとその社が鎮座している。下は暗く、落ちたらまず助からないだろう。だが、やるべきことは変わらない。

そう思ってゆっくりと歩を進める。だが、現実は厳しいようだった。


唐突に聞こえる幾多もの赤子の声。

それと同時に暗かった下の方に潜むものがついにその正体を現した。

それは赤子の群れだった。

おおよそ人の形すらまともに成しえてない赤子の化け物が、下の空間一面に犇めいていた。声だけはかわいらしいものだが、その容姿と相まってひどく不気味でおぞましい。だがこれは、この地の人間が今まで積み重ねてきた業そのものに他ならない。別に特別主人公がそのツケを払わなくてはならないわけではないが、だからといってこの地に住んでいる以上完全に無関係とはいえないし、そもそも相手がそれを考慮してくれるはずもない。それが赤ん坊ともなればなおさらである。


やるせない思いで息が詰まるが、それでも憐憫は抱かない。経緯がどうであれ、彼らは全て死者――もう終わってしまった存在であり、現世にいてはならないのである。

まあこの状況だと本当に今いる世界が現世かは怪しいところだが、死者に対する過剰な憐憫や未練が何を引き起こすのかは、夜廻シリーズをクリアした人ならば言わずとも分かるだろう。

今を生きる人間が死者に対して出来るのは、死者を弔って行くべき場所へ送り出してやることだけだ。


虚空から赤子の手が伸び、カカシを叩き壊す。それでも、主人公は先を掴むためにこの怪異に立ち向かうのであった。

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