13

棚田の門の先から進んでみる。途中の看板に棚田に入らないこと、水路に入らないこと、カカシに触らないこと、と書いてあった。前二つはまだ分からなくもないが、3つ目が疑問である。普通カカシなんて畑の真ん中に置いてあることがほとんどなんだから、必然的に触れることなんてないはずなんだが。そう思っていたら、すぐ先の道のど真ん中になぜかカカシが立っていた。うわぁ……見るからにヤバそうなやつやんと思うものの、ここは看板に従い塞がれていないほうへ進む。指示に逆らうべきは、少なくともここではないだろう。

が、行った先も何かが差せそうな祠があるだけで行き止まりだった。ここに至るまでに使えそうなものも拾っていないため戻ろうと振り返ると、先ほどまでなかったはずの場所にカカシが立っていた。しかもこのカカシ、結構不気味なデザインである。主人公も不思議に思った瞬間、カカシが傾いた。そして気付く。


先ほどまでうるさいほどだったはずのカエルや虫の鳴き声が、一切聞こえなくなっていることに。


急にお化けの気配が至近距離から感じられた。四方八方から、膨れた肉に不格好な手と足をくっつけた異様な姿の、前作までの田んぼなどにいた水死体をさらにおぞましくしたようなお化けがゆっくりと迫ってくる。同時にカカシの前には小さめのカカシが落ちていた。正直何がどうなっているのかさっぱり分からないものの、直感のままに小さなカカシを拾い上げた。

おお、なんかバリアみたいなのが展開されて肉風船?達がのけられていくぞ。ということは少なくともカカシと肉風船は対立しているらしい。先ほどの祠の前までカカシを持っていくと、ちょうどいい具合にカカシが立って周りの肉風船たちが消えていった。

見た目に反してお助けキャラだったのか? と思ったが、周りの田んぼに多すぎるほどのカカシが出現していた。明らかに誰かの、少なくとも人間の仕業ではない。

ということは、一時的にこちらの益になっているだけであり、本来はやっぱりヤバイやつなんじゃないかという考えが鎌首をもたげる。

さらに奥へ進んでいくと、小石が積まれた場所に出た。看板によると子守石というらしく、崩してはならないとあった。それが崩れていたため主人公が直したところ、急にカカシが降ってきて石を全部崩してしまった。それは、三途の川で積まれた石を無慈悲に崩す鬼のようであり、主人公自身も本当にこれでいいのか疑問を持っているようだった。さすがに、考えすぎかと頭を振っていたが。これはもしや、カカシを差し終わったら今度はカカシかそれにまつわる何かに追われることになるのか?

ひとまず道を進んでいくと、大量に捨てられたカカシに出くわした。正直、もうなんだか良くわからない。

カカシが唐突に現れることや肉風船を退ける力を持つことから、おそらく普通の存在ではありえないだろう。ただ、肉風船たちと対立しているということ以外はこちらから見ての善悪すら分からない。今はまだこちらに有益だが、もしかしたら全てが終わったらやばいやつが現れて襲い掛かってくるかもしれないのだ。大量に捨てられたカカシから、ないがしろにした人間たちを祟ろうとしいても何の不思議もない。格好も不気味だし。

だが、持っている力は明らかに鎮守や護法とかの類のものだ。見た目がそれっぽくないだけで、明らかに守り神ムーブなのである。それならそれで別に気になることもある。なんでそんな存在が社から外されていたのか、だ。たくさんのカカシが、何かからこの地を守り役目を終えた成れの果てだったとしたら……あんな肉風船など比ではない、強大な存在がおそらくはあの水門の先にいることになる。


そういえば、記憶の中では門の前で落とし物をしたことになっている。だが、門の前にはそれらしきものはなかった。しかも主人公は、それに疑問も抱かず門の中に入ろうとしている。普通に考えたら、もっと門の周りを探すものではないか? まあ、落とし物がいつまでもそこにある保証もどこにもないからこれについてはなんとも言えないが、本来は門の中で何かがあったのではないか? 何らかの理由でそれを忘れてしまっているだけで。


全てのカカシを差し終わり、身構えるも特に動きは無し。ひとまず戻ることとするが、その道中で急に空からミニカカシを与えてくれたカカシが降ってきて地面に突き刺さった。

何ぞ!? と思うもののそこから特に動きはない。仕方ないので横をすり抜け進むがまるで追ってくるかのように何度もこちらの目の前に降ってくる。なんとなく触れたらダメな気がして慎重に進んでいくと、最初に子守石を見た場所に出た。

そこにはただの真っ白い石だったはずの表面に顔のようなものが例外なく浮かび上がり、それはあの肉風船のものと同じであった。そういえば道中で赤子の鳴き声らしきものが聞こえていたことを思い出す。あの肉風船は、死産になった、あるいは長く生きられなかった赤子の霊だったのだろうか。

地図を見たら、門の場所は正確には水門と書かれていた。ならばここは本当に三途の川に見立てられていた可能性がある。もしくは昔、ここは川だったのかもしれない。


そこからさらに道を下る。カカシは相変わらず降ってくるが、回避はそれほど難しくはないし、そもそも突っ込みさえしなければ当たらない。そうしている内に門の前まで戻ってこれた。

この先に用があると主人公がカカシに語り掛けると、それに応えるかのようにカカシは苔むした鍵を落とした。

お地蔵さんにお祈りをして一息つくが、そこからワープの選択肢がでてこない。町へ戻る道もカカシに塞がれており、商店街の時と同じ状況になっていた。


水門の入り口の先には、おそらく排水のハンドルと水に沈んだ通路が待ち構えていた。この先に待ち受ける存在が何かはまだ分からないが、この手のゲームの水場なんてそれこそ鬼門でしかないだろう。それでも、自らの先をつかみ取るために今は進むしかない。


宵闇の水面は何も答えることはなく、ただ静かに待つのみであった。

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