第2話 神食

 圧倒的な胃袋の前に、皆は早くも戦意喪失。もはや、ライバルと呼ぶのも恥ずかしいぐらいの圧勝となった。


 どうやら、田原さんのあまりの食べっぷりに会場のどよめきが止まらない。


 そりゃあ、そうよ。だって、制限時間10分で、近江ちゃんぽんを500杯も完食できないでしょ、ふつう。フードファイターのメンツ丸つぶれよ。


「す、すごい……」


「おじょーちゃん、また会ったな」


「田原さん、そんなに食べられるんですか?」


「この大会で優勝したら賞金が出るらしいからな。好きなことをやって金を払うのは趣味。好きなことをやって金を取るのがプロだからよ」


 得意気にそう語る田原さんの登場に、大食い大会の開催を良しとしない人たちもいる。ひそひそと「もったいない」とか「食べ物を粗末にしている」とか「SDGSの世の中で何やってるんだか」などなど批判も聞こえてきた。


 そんな彼らの批判を一蹴するように、


「おいおい、SDGSなんて単なるに躍らされるより、食べて食べて食べまくって、地元のを回す方がはるかに持続可能な社会じゃねーか」


 ぐぬぬという呻きを背に、やれやれとアメリカンポーズを決めて、いざセカンドバトルとなる。

 近江ちゃんぽんの次は、滋賀県名物のふなずしの早食い。今度は量ではなく、スピードを競うというものだ。


 ファーストバトルで無限の胃袋は実証済み。


 スピード勝負だと、さすがの田原さんも……。


 早さではやっぱり若い人が有利なんじゃ。目つきも鋭く、見るからに速さには自信がありそうなメンツが並ぶ。片手に水を持ち、今か今かとゴングを待つライバルたち。間違いない。彼らは水でふなずしを流し込む作戦なんだ。


 スピード勝負は……やっぱり……


 しかし、そんなわたしを揶揄うように、



「おいおい、寿司って、飲み物だよな」



 カーン。


 ゴングが鳴らされると同時、田原さんはふなずしが盛られた大皿ごと持ち上げて、咀嚼せずに次々と口に流し込む。


 ゴクゴク、ゴクゴク。


 まるで、スポーツドリンクでも飲む少年のような澄んだ瞳で、ふなずしを一気に飲み干していった。


「わりーな、酒とタバコをやらないかわりに、寿司には目がなくてな」


 圧勝。


 周りのライバルたちも呆気にとられて、ふなずしを食べる手を止めている。てゆうか、ライバルって表現も相応しくない。オンリーワンすぎて、誰もついてこれない。田原さんってバトルでもフードバトルでも最強ってこと?


 そんな彼の雄姿を遠くから眺めて、なぜだか下腹部に熱いものが込み上げて。


 やだっ! わたしったら、食欲、性欲やばくない!?


 でも、こんな呑気な欲情に浸ってられない状況が差しせまるうう――うういたたたたた。


 いつの間にやらファイナルバトルに向けた準備が進められていた。テーブルの上にでんと盛られた料理。


 それは――


 大量の超激辛フィッシュバーガー。


 あまりの辛味に会場でも目と鼻を押さえる人が続出。なんでも、ハバネロ、タバスコ、あらゆる辛味で白身魚を漬け込んだみたい。こっちまで辛味が押し寄せて、とても人間が食べられる許容範囲を超えている。


 目がっ! 目がっ! 目が―――――っ!(わたし)


 こ、こんなのって。流石の田原さんも……。


 あまりの強大な敵に打ちひしがれて、ミニスカートの端をぎゅっと握る。


 もう……ダメ……だ。


 その時――


 田原さんはびしっと太陽に向かって一直線に右手を上げた。




「デスソースの量が全然足りねーよ」




 えええええっ!


 まさかの、おかわりスパイシー!?



「政治も辛味も、緊張感が足りねーよ。ここから俺の独演会だぜ!」





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