田原総一朗VSフードバトル。大食い、激辛、なんでもござれ。超絶胃袋バトルの開幕!~PART4~

小林勤務

第1話 登場

「うう~ん、美味しいい~ん」


 口の中でとろける濃厚なミルクが甘酸っぱいイチゴに絡まり、感情まで刺激する。糖分と糖分の競演は、もう当分、今日でご遠慮いたします。なんちゃって。こんなダジャレまで飛び出しちゃうなんて、きっとコイツがそうさせてるのね。


 そう。


 今、わたしが食べてるのは――練乳を思いっきりかけたイチゴたち。脇には濃厚なバニラアイスが添えられた、わたし好みのスイーツなの。


「こんなきれいな湖畔で美味しいスイーツを食べられるなんて、平和って最高……だよね」


 しみじみと落ちそうになるほっぺたを押さえるわたし。


 あやうく宇宙のちりになりそうだった危機から無事帰還して、日本に帰ったその足で、滋賀県のびわ湖まで来てしまいました。なんで、わざわざこんなところまで来てしまったかといえば――


 びわ湖グルメフェスティバル『朝まで、生の、スイーツ』が開催されてるから。


 実は、わたし相当スイーツに目がないの。美味しいスイーツを求めて全国行脚もしちゃってます。

 うん、一人でだけど。

 なんか皆はいろいろと忙しいみたいで、後で感想だけ聞かせてだって。わたしがグルメツアーに行ってる日に、たまたま皆は伊豆の温泉に行くみたい。なんか、超偶然が重なったみたいで「残念~」ってめちゃ言われた。


 まあ、そんな時もあるよね。こうなったら、皆の分までスイーツを満喫しちゃおう。イチゴが埋もれるぐらい練乳をかけるのが好きだし、これが嫌いな人に悪い人はいないよね。


 うう~ん、こんなおいぴいイチゴを食べてると、あま~い出会いがありそう~。


「あれ~。もしかしてお姉さんもフードバトルに参加かなあ?」

「お名前なんていうのかなあ?」


 げ。


 もしかしないまでもナンパってやつですか。


 はあ。わたしの名前は、田中 果久江たなか かくえだけど、あんたらに名乗る名前なんて持ち合わせてないけど。


 あま~い人とは程遠い、ずいぶんとチャラい感じで声掛けられたし。


「ミニスカートで参加なんて、気合入ってるねえ」


 あのさ。なめてもらっちゃ困るわけよ。こう見えて、わたしは早稲田大学第一文学部の弁論サークルの女子人気投票9位だったし。この前のランキングでは10位だったけど、ライバルが小細工してるって偽の指摘をして、それじゃあわたしも堂々と小細工するわって感じで頑張ったら、ちょっと順位上がったし。


「俺たちと一緒にいっぱいミルクかけようよお」


 ああ、しつこい。早く、この場から逃げよっと。

 ささっと練乳イチゴを口に放り込んで、さっさと反対方向へと逃げようとした、その時――



 うおおおおおおお!!!



 と。

 会場全体に大歓声がこだました。


 え? なになに? 


 その震源地に顔を向けると、会場の中央で、今まさにフードバトルが繰り広げられていた。四方から「胃は大丈夫かよっ!」とか、「ありえねーっ!」とか、その声援を一身に浴びている猛者がいることに気付いた。


 こ、これ、もしかして。


 下腹部の熱いシグナルに導かれるままに、熱源へとひた走る。


 そして、私の目に飛び込んできたのは――


 もの凄い勢いで、ずるずるるるうううっと近江ちゃんぽんを平らげていく一人の男性であった。ライバルたちが真っ赤な顔で丼ぶり10杯を積み上げているのに対して、彼は余裕の表情で、3階建ての低層マンションぐらいに空の丼ぶりを積み上げていた。


 目にも止まらぬ速さで、麺が彼の胃袋に吸い込まれていく。


 こ、こんな神業ができる人なんて――


 どこか少年を思わせるボブヘアー。光り輝く銀髪。そして、チャーミングに垂れ下がった目尻。


「あ、あなたは……」


 そう――彼の名は。


「俺か? 田原総一朗だよ」



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