6.I will
①
藍子が龍司の事務所の仕事を手伝うようになって、1ヶ月程が経った。
自分の意思で龍司の仕事を手伝うと決めたとは言え、やっぱり自分の特殊な体質を使うことに抵抗を感じたり、つらい気持ちになったりすることもある。
でも、自分がやったことで龍司や依頼人が喜んでくれたり助かったりするのを見ると、藍子は占いのバイトと同じようにやりがいを感じた。「仕事を手伝って良かった」という気持ちになるのだった。
(亡くなる直前の須佐さんも、今の自分と同じような気持ちだったのかな?)
藍子は龍司の仕事の手伝いにやりがいを感じるたびに、須佐を思い出した。
多分、須佐も体質を使って未来を見ることには抵抗があったりつらかったりしたのかもしれない。
でも、誰かが喜んでくれたり助かったりするのを見て、段々とやりがいを感じて来たのかもしれない。
(今の私の姿を見たら、須佐さんは喜んでくれるかな?)
須佐にはもう会えないが、きっと特殊な体質を受け入れた自分を喜んでいるに違いない、と藍子は信じていた。
神子島はICチップを盗んで以来、藍子と龍司の前に姿を現さない。
もちろん、藍子の周りに起きていた奇妙な出来事も起こらなくなった。
須佐のICチップを神子島に取られてしまったのはくやしい気もするが、もう、須佐が心配していたような後悔は起こらないだろう。
藍子はせめてリズのサインCDと、須佐が直筆で書いた『後悔したら、使って』のメモが残っただけでも良かったと思った。
ただ一つ心残りがある。もしICチップが残っていたら、龍司の事務所の元所長の心の声が聞こえる体質を取り戻せたかもしれないのにということだ。
神子島が須佐のICチップを盗んでどこかへ行ってしまってからすぐ、めぐみの友達や若い男性を監禁したという人間が警察に出頭してきた。
出頭してきた人間は、神子島に背恰好が良く似ている男だった。
藍子も龍司もその男が犯人じゃないと警察に言おうとしたが、出頭した男が自分でやったと詳細に自供しているらしく、どうしようもできなかった。
「出頭した人、何か弱みを握られて神子島の身代わりにされているんだろうな。自供しているなら仕方ないけど、証拠を集めてあの神子島って男がやったって証明すれば良いだけだし、俺は諦めないよ」
龍司が言うのを聞きながら、藍子は神子島が去り際に「でも、諦めないよ」と言っていたのを思い出した。
あの神子島の「でも、諦めないよ」とはどういう意味なのだろうか。
また、その内に神子島は自分や龍司の前に姿を現すのだろうか。
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