第46話膝を着く

 先生、私は今自由なのでしょうか。


 先生があの忌まわしき呪具から解放してくださった瞬間から自由と言えるのでしょうか。


 私は正義側にいるのでしょうか。


 ★


 少年は、吾輩の告げた真相を聞き、大層驚愕しているといった様であった。


「仕方ないさ。少年がこの事を知るなんて不可能に近いのだからね」


「…くっ」


 小説にてよく表現される「苦虫を噛み潰した顔」とは、まさにこれだと少年が例示してくれているみたく、そんな顔をしている。


「少年は、これまで殺してきた魔法使いでも思い浮かべているのかね?」


「…ああ」


「だろうね。君は、つい先程我が仲間を炭にしているしね。重い罪ではある」


 まあ、現実としては吾輩も彼らを見殺しにしているのだから、この少年と同じ罪を背負っているのだがな。


「分からない…。一体何をするのが正解なのか」


「戦場で悩むとは、それはちょっと悠長すぎやしないかい?」


「…」


「最後に立っていた者が正義。仮にでも良い、今はそういうことにしないかい」


「戦いを続けるのか…?」


「ああ」


「分かった」


 少年は、言葉では了承しているものの明らかに心がこちらに向いていないのが伝わってきた。 


 剣を握りしめる手も何処か頼りなさげである。


「甘いなぁー少年は。君は、さっき会ってからずっと芯を感じないんだよ」


「そ、そんなことは…ない。成し遂げなければならないことがあるんだ」


「ほぉ?」


 吾輩からするとどうも言わされている感が抜けないがな。そのを続けているうちは、この少年に一切の価値などない。吾輩としては、そう判断してしまうのだ。


「これが最後だ。吾輩の全力を君に披露して差し上げようか」


 


「聖獣・佐助サスケ


 我が永年の相棒であるサスケを召喚する。


 すると、黒き霧が突如発生し、その闇から旧友がぬっと出現した。


「…」


 彼は、何も言わずただ佇むだけである。どうやらまだ吾輩のことを許せていないのだろう。まあ仕方のないことさ。


「サスケ、装聖融合である!」


「…」


 またしても何も言わないが、サスケの姿は分散されていき、こちらにその粒子が流れ込んでいった。


 すると、力が溢れるとともに、吾輩の衣装も変化していく。


「その姿は、忍者か?」


 呆然と見ていた少年は、掠れた声で問いかけてくる。


「ザッツライト!なんと神話にて大活躍されたと記されている忍者とは吾輩のことであーる!」


「ウソだ」


 それもザッツライトだ。ただ、この濃紺色な様相は、神話の忍者で類は変わらない。こんな特異な服は、そうそうありはしない。


「知っているかね?この忍び装束と言われる装飾が真っ黒ではなく濃紺色な理由を」


「いや、知らない」


「黒すぎるとかえって夜に輪郭が浮き上がってしまい、完全に闇に溶け込めないのだよ。だからこその濃紺色というわけだね」


「…そうか」


 反応が鈍いなぁ。あまり理解出来ない事が目の前で展開されすぎて混乱でもしているのだろうかね。


「さあさあご立ち会いだ。パッと見、フザけた野郎と思われるかもしれないが実力は折り紙付き!少年には、特等席でこのショーを堪能して頂こうか!」


「何なんだよ、一体」


 少年は、悩ましそうな頭を振り払い、形だけでも戦闘態勢を整えた。


「さあ、ショータイム!」


 合図は出した。ならばこちらは全力を出すだけ。


「…は」


 吾輩は、一瞬のうちに間合いを詰め、腹にグーパンチ。これは痛い。


「まずは、軽めに一発と」


「がああ!!」


 少年は、衝撃で思いっきり後方へと吹っ飛んでいった。


「大丈夫かい?」


「はあはあ…。強い、そして速い」


 少年は、よろめきながらも立ち上がる。その目は、多少現実へと目を向けたらしいな。


「一時も気を緩めないことだな。次は、もっと速いぞ?」


「くっそぉ!!」


 少年は、雄叫びを上げながら地を強く踏み抜いた。


 そして、こちらに駆け出す。もちろん、炎を噴出しながら。その風体は、火車と言うべきかな。


 こんなのにまともに当たったら火傷どころではない。ならば、すぐさま避けるのが利口だろうな。


「しかし、それでは詰まらない!」


 ▼

 苦しい。苦しい。身が焼け焦げそうだ。



 しかし、進むしかない。己の体が炭になろうと、最早何もかもが消え尽くしてしまおうと。


 そうでなければ、目の前の敵によっていともたやすく屠られるだけだ。


「しかし、それでは詰まらない!」


 何か聞こえた気がする。だが、関係ない。奴が、この直線上から逃げようとしても無駄だ。


 この炎の攻撃範囲は凄まじく広い。


 どこへ逃げようと、この炎獄の炎から回避することは不可能だ。


「おおぉぉぉぉ、焼き焦がせぇぇぇ!!!」


 この戦いが本当に正しいものなのか。過去の魔法使いたちを殺したのは正しいのか。


 何も分からない。考えても考えても考えても何も答えが見つからない。


 でも分かることはある。ここで地面に膝を着けば殺される。


 それだけのことだ。


「誓おうぞ、吾輩は決して君から目を背けることはないとなぁ!」


 こちらの思惑を知ってか知らずか、ジレイオンは、この直線から離れることはなかった。


 ただ不敵かつ真っすぐにこちらを睨みつけていた。


 心を強く持たねば、あの眼光だけで殺されてしまいそうなほどの力を奴は持っていた。


 どれほどの覚悟を有していれば、あの覇気を放てるのだろうか。理解出来ない事ばかりだ。ただ、それでも進むしかない言は理解出来た。


「行くぞ、猛炎至極!」


「来い、四分身の術!」


 ジレイオンは、奇妙な手の形をしたと思ったら、その体は、3つ増え、計4つのジレイオンがこちらに対峙していた。


 そして、遂に衝突した。




「だあぁぁぁぁぁぁ!!!」


「おおぉぉぉぉぉぉ!!!」



 その様子は、途轍もなく信じられない光景であった。


 なんとこの突進攻撃に対して、4体のジレイオンは、素手で相対あいたいしたのだ。


「吾輩は、貴様の全てを受け尽くしてやろう!」


 ありえない。ありえない、こんなのは。


 この業火に対して、奴は、気圧されることない、むしろ優勢なのはの男であった。


 


 遂に決着が着いた。




 地に膝を着いたのは、ジレイオンではなく、この僕だ。

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