第45話歴史の裏の真相

「なぜ高齢の魔法使いが少ないのか、それは…」


「それは?」


「平均寿命が短いからだ」


 ローマリは、真実を暴き意気揚々として告げた。それに対してジレイオンは…。


「大不正解だ」


「あれ。ん、なら魔凶化だ。歳を重ねるごとに魔凶化のリスクが高まり長生きが出来ない」


「不正解」


「なら…。えー、と」


「不正解」


「まだ何も言ってない!」


「おっとこれは失礼した」


 その後もローマリは、見当外れと言えるような考察を思い浮かべたのちに告げるがジレイオンによって一蹴されてしまう。



 これにはジレイオンと言えども呆れていると思われたが、その実は全く異なっていた。


「こんなにも回答しているというのに正解が出ないとは。さすがのジレイオン様も笑わずには言われないなぁー」


「なっ…。…そのニヤニヤ顔を炎帝で燃やし尽くしたい」


「そう言わないでくれよ。これでも吾輩は君の事がもっと好きになっていたところだよ」


 こんな軽口を述べているジレイオンであったが、その発言に嘘は一切忍ばせてはいないのであった。


 心の内から喜んでいた。


「気づいているかね少年。君のここまで全ての回答には人の悪意というのが内在されていないんだよ」


「え?」


「魔法使いの特性であったり、症状などの自然的要因ばかりを例に挙げてきただろ?」


「高齢の魔法使いが少ない理由だろ?別に変じゃないはずだが」


「ククッ、疑問にも浮かばないのか。いやはや、君はなんともお人好しな少年だよ」


「バカにしてるのか」


 ローマリは、核心じみた事を言わないジレイオンに嫌気が差したのか少し語気を強めた。


「すまないすまない、あまり怒らないでくれよ。むしろ逆なのだよ」


「逆?」


「君のその純粋な善の心に敬意を払っているんだ。この腐敗した世界にまだ君のような優しい人間がいると思うと涙さえ浮かんでくる」


「大袈裟だな…。ん!本当に泣いてるのか?」


 ジレイオンの頬に一筋の光が伝うのが見え、ローマリは動揺していた。これまで冗談ばかりの男に確かな感情を発見してしまったことゆえにだ。


「もしかしてその涙はあんたの人生がつまっているのか」


 高齢の魔法使い。先程も感じてはいたが、やはり何かジレイオンにとって深い何かがそこには潜んでいる。そうローマリは感じ取っていた。


「ザッツライト!大正解だよ、少年!吾輩はこの人生殆ど一人でいたが、ようやっと心を打ち解けられるソウルメイトに出会ってしまったのかもしれないなぁー」


「…適当なこと言うなよ。なんとなくだけどあんたはじゃない気がする」


 微かな違和感だ。ジレイオンの演技がかった派手な言動はどうにも言葉通り演技のように思えてしまう。


 全くの勘と言えるがまるっきり外れではないはずだ、とローマリは心のうちで考えていた。


「ほぉー面白い事を言うね。クク、吾輩を楽しませてくれた少年にご褒美だ。先程の正解を教えよう。」


「ああ、頼む」


 ジレイオンは、白いシルクハットを頭から手に取る。そのシルクハットを胸のところへと移動する最中に、それまでの口角を全力で上げきった表情を通過しローマリからは隠された状態になる。


 そして、シルクハットが顔から通過しきった後にまたあの顔が現れると思っていた。


 しかし、その当たり前の予想は外れ、ローマリの人生の中では見たことも無いどこまでも真面目で誰よりも悲壮な表情を浮かべていた。



 …いや一瞬だけだが死ぬ間際に見せた姉の表情がフラッシュバックされる。


 ローマリは何も喋らずにジレイオンの顔を食い入るように見つめてしまっていた。




「期間は分からない。しかし言えることとして遥か昔から我ら魔法使いは極々一部の高位な人間によって隠匿され、奴隷のように使役されてきた」


「え…」


「その過酷な環境を長年強いられてきたからこそ早死し、年老いた魔法使いが少なくなっている。それが吾輩が君に投げた質問の答えなのだよ」


「そ、そんなの聞いたこともない!」


「当たり前だ。超上位の権力を持った人間たちが情報統制を全力で行えばそういったことも可能なのだ。我ら魔法使いの存在や歴史を消すことなど造作もない」


「そんなのって…」


 ローマリは、狼狽していた。ジレイオンの発言はあまりにも世間の常識とはかけ離れたもので、まるで空想のようにさえ思えてしまう。


 それでも蒸発してしまいそうな知性をかき集めて頭をフル回転させる。


「魔法使いが本気出せば…、奴隷から逃げ出すことだって簡単じゃないのか!現に今の世界がそれを証明している」


「うんうん、誰だってそう思うよな。我ら魔法使いも当然真っ先に思いつく発想だ」


「だ、だろ?」


「しかし残念。このアテナの指輪により我らの魔法は完全に封じられてしまっていたのであった」


 ジレイオンは、白い手袋を外して人差し指に装着された石のような指輪を取り、ローマリへと見せつける。


「そんな絶望的状況でも魔法使いは諦めなかった。腕力だけでも知力だけでも鍛え抜き、反乱を起こした」


「しかし…。それは全部失敗した。相手は、強力な魔術を扱える輩だ、一般人程度の力しかない我らでは勝ち目など無いに等しい。」


「そして、反乱した者は一家もろとも公開処刑される。魔法使いのこれまでの歴史はそういったものの繰り返しでしかない」


「じゃ、じゃあ今の魔法使いたちの戦いって…」


「ああ」





「正当なる復讐の物語と言えるかもしれないな」

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