第44話人類変質説
ある時ある時点
「カーマぁ」
「どうしたんですか?」
「ノイ先生からこの世界のことを聞いて色々と分かったことは多いけどさ、一つだけ気になることがあるんだよ」
「なるほど…、まあ目的地に着くまで時間はありますので、私が答えられる程度なら何でも答えますよ」
「じゃあ聞くね、魔法使いってどっから湧いてでてきたの?」
「な、なるほど…。それは世界中が追い求めてる唯一無二の謎レベルのものをサラリと聞かれてしまいました」
「カーマでもわからないのか?」
「んー、今の私じゃあまだ真実について言えないですね。代わりに王都の学者様が有力としている説について説明しようかな」
「その学者とやらの説を教えてカーマ」
「はい分かりました。学者によるとですね、約12年前までは魔法使いというものは神話などの物語でしか存在しないとされていました」
「加えて、魔法派と言われる当時ではオカルトマニアと分類されていた学者が血眼になって魔法使いについて調べても例の事件が起きるまで、たった一つの証拠さえ見つからなかった」
「これらの事を統合して、12年前以降は本当に魔法使いはいなかったとしました」
「すなわち、ある日突然人類の中で神話に似た魔法と同等の能力を持つ変種が現れた」
「そして、凄まじい勢いでその数を増やしていき、彼らは結束した末に、例の事件へと繋がった」
「実際魔法使いの年齢に関してなのですが、12年前当時からのデータで考えても何故か60歳以上と思われる年齢群の魔法使いは観測されていないんです」
「なのでこれを不確実とはいえ信用なる確証として、40歳以下の特定の人類が変質し、現在で名称されている魔法使いになった、こういった論理の人類変質説が今は有力な学説となっているんです」
「へぇー、ある日突然現れた…かぁ。そんな考え方もあるんだな」
「リアちゃん的に納得する学説でしたか?」
「んー、あんまり納得したって感じはしないな」
「それはなぜです?」
「なんでじんるいが変質?したのか、とか。60歳以上のおじいちゃん達が魔法使いじゃないのが証拠になるのか、とかさ。もっと疑問が生まれてきた」
「分かります、私としてもリアちゃんの気持ちに賛成です」
「だろ?」
「あ、ならば一つ面白いことを教えましょう」
「え、なになに?!」
「先程リアちゃんが言った60歳以上の人間が魔法を扱えると何故証拠になるのかについてです」
「うんうん」
「それはですね、魔力というものは40歳に至るまでに僅かとはいえ変化し続ける性質を持つのです」
「あ、それって」
「気づきましたかぁ、賢いですね。逆に言えばですよ、40歳を超えると自身の魔力の質が変化することはありえない。これを人類変質説に当てはめると」
「12年前に誕生した魔法使いは最長52歳になるんだ!」
「正解です。もしも60歳以上の魔法使いが存在するとなれば、あの事件が起きる8年前からいた事になる。そうなれば少しでも魔法派の学者が証拠を得られるチャンスはあるんです。なのに、見つからなかった」
「つまり、60歳の魔法使いが見つからないって言うことは人類変質説の証拠になるってことか!」
「正解です」
「うわぁー、面白い!なんかスッと納得出来たぁ!」
「それは良かったですね」
「…ん、ならさ、もしも60歳の魔法使いを観測出来たならこの有力って言われている学説は一気に壊れちゃうってことか」
「ふふ、そうなれば王都で自慢気にこの学説を唱えている学者様は一気に顔を真っ青にさせちゃいますね」
「顔面蒼白って奴だ!」
「ええ、そんな光景もとても面白いですね。是非この目で見てみたいものです」
「オレも見たい!」
「もしもの時が来たとしたらいっしょに見ましょうか」
「うん!」
★
「ちなみに、吾輩の歳は71だ」
「…?そうなのか、結構いってるな」
「…どうやら君は人類変質説を知らないようだね。……はぁ、つまらないなぁ」
ジレイオンがイジケたような仕草を取り始めた。何か変なことを言っただろうか、…分からないな。
そんなことよりも先程ジレイオンが出してきた問題が少し気になる。
「まあ暫し考えているといい。考えついでに体も動かそう、吾輩は暇すぎて寝てしまいそうだ」
「あ、ああ」
「では行くぞ」
ジレイオンは、掛け声とともに駆けた。
すると、次の瞬間には目の前にステッキを振りかざした奴がいた。
「速いな」
常人ではありえないスピードである。あの一瞬で身体強化の類いの魔法を唱えていたのだろう。
だが、私は慌てたりしない。こんな芸当はもう慣れっこというものだ。奴のステッキに合わせるように剣を抜き、つば迫り合いの始まりだ。
ローマリも炎帝の加護によりジレイオンの魔法に負けぬほどの身体能力を得ていた。
対応出来ないほどではない。むしろ、対等と言って良いほどの剣戟を見せる。
「中々やるなぁ」
「それはどうも」
ジレイオンは埒が明かないと思ったのか、剣戟から離れる。その間際にすかさず炎を繰り出す。追撃を許さないためである。
これには、ローマリとしても炎帝の炎で身を護るしかない。
こういった技や魔法の駆け引きが数十分間続いた。結果、実力は全くの互角であるということを両者は身にしみて理解することになった。
★
その剣戟の節目にて、ローマリに知性の電流が流れた。
「…分かった。ジレイオン、あんたの問いの答えがわかったよ」
ローマリの突如の言葉に対して、ジレイオンは満足そうに顎髭を擦る。
「ほぉ…。小休止には丁度良いな。是非、少年の考えを吾輩にご教授してくれたまえよ」
「ああ」
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