第43話光輪の脅威
ジレイオンから提案がなされた。
この建物から離れ、広い野原へ行こう、と。
その方が気兼ねなくやれる、と。
ジレイオンの提案にはローマリとしては賛成の旨を提示し、二人は大した会話もなく近くにあった平野へと移動した。
到着し、戦闘の体勢へとすぐさま移行する。
その次のコマにて、ジレイオンは唱えた。
「カルジザス・ロマーリア」
ジレイオンは、笑みを維持したままに軽い調子で魔法を繰り出したのだ。
すると上空に巨大なサークル状の光の輪っかが生まれた。
「まずは一発。少年を試してみようか」
ジレイオンはシルクハットを深く被るような仕草をし顔を隠す真似をしたが、そのランランとギラついた目までを全部隠すまでには至らない。
「くっ」
ローマリは、危機感を覚えていた。何かが来る、と。
確証はないが、第6の感覚のようなものでその事実をキャッチはしていたのだ。
「さあこれを受けても君は立っていられるかな?」
「…言ってろ」
あからさまな挑発だが、こんな軽口を返すくらいしかローマリには余裕が残っていなかった。
今一番に思考を費やすべきは、あの化け物みたいな魔法をどう防ぐかである。
そして、ついに始まる。
光の輪っかー簡略的に名称すると光輪が僅かにぐらつく。それも一瞬で、突如光輪の外延から十何本もの細い線が噴出される。
拡散された細い細い光線は次第に統制が取れたように規律を正しつつ、こちらへと向かう。
ゆっくりとだが着実にこちらへと敵意を向け近づいてくる。
それを黙って見てるしかなかったローマリは、その道程のある地点において激しい震えが身をよぎった。
気づいたのだ。いや、気づいてはいたが気づいていないフリをしていたのかもしれない。
光輪から発射された光線はあまりにも規模が小さいように見えたが、それは違ったのだ。
「でかいし、数も多い…!」
思わずローマリが呟いたが、まさにそのとおりであった。
計15本の極大光線がローマリの元へと向かっている。光輪があまりにも遠い場所にあったため目視では分かりにくかったが、光線は人の身ほどの太さをしていた。
「少年、絶望は済んだかな?今度は立ち向かう番であるぞ、君の真価を吾輩に見せてもらおうか」
老紳士は、まるでこちらの攻防をサーカスみたく楽しんでいるような言動を発した。
(うるさい奴だ。こっちは今瀬戸際を生きているというのに)
ローマリとしても、口には出さないものの心のなかでは文句が尽きない。
そうこうしているうちにその光線はローマリの直前まで接近していた。
「ジレイオン」
「ん?なにかね?」
「私の能力を見たければ見ればいい。そんなことで私の炎帝が型落ちなんてしないから」
「ほぉー、言うねぇ」
ローマリの宣誓だ。彼にとっては、これ以上敵であるジレイオンに余裕ぶった発言をされるのは気に食わなかった。
ならばこそ、ローマリ自身に危険を及ぼす光線だけを始末すれば事足りぬものをあえて全てを始末してしまおうと考えたのだ。
非効率。彼としても無駄なことをしている自覚はある。
だが意地でもあり、信念なのだ。
完膚なきまでに彼の芯を砕き、陽炎にて陥落してやる。
味方を見殺してでも私の陽炎を見破ったのであれば、それを持ってジレイオンを制する。
それがせめてもの私が殺した魔法使いに対するはなむけのように思った。
「炎帝:
ローマリは、溢れ出す炎獄の炎を左手に持つ剣に集約させる。
そして、全ての光線が間合いに入ったその刹那の瞬間を狙い、剣を居合斬りの要領で解き放つ。
するとけたたましい爆音が鳴り、彼の目の前に生命の象徴である火が視線の端までも覆い尽くし存在した。
あれほど恐怖を植え付けてきた光線は炎帝の烈火によって侵食され、最後には影も形も残ってはいなかった。
あるのは、焦土と化した土地だけ。
「良いねぇ…良いじゃないか!まさか全てを破壊してしまうとは。良いものを見せてもらったよ」
「…」
自身の全霊を持って、やつの言う真価を披露したというのに、一切芯が砕けている様子が無く、無性に悔しいという感情が浮かび上がった。
「どうしたのかね?…ははぁーん、もしかして吾輩が先の同胞のように陽炎とやらの策にかかるのを期待していたのかな」
「…ああ」
何でもお見通し、というか実際にローマリの考えをいともたやすく見抜かれており、ローマリとしては面白くないといった様子だ。
「それはどう天地が狂おうとも無理という話だよ、吾輩がこれしきで絶望し、匙を投げる人間だと思って欲しくないなぁ」
「流石歳を取ってるだけあるな、感心する」
皮肉の一つでも返そうと、ついて出た言葉だ。これに対してジレイオンも先程からの様子みたく返答するものとばかり想像していた。
だが現実は違った。
「少年よ。君に一つ問うてもよいかな?」
「あ、ああ」
笑みといった要素など一つもなく、一切の感情を見せない表情で会話を続けてくる敵に戸惑ってしまい、ローマリは少し言葉がつっかえてしまう。
「君は、高齢の魔法使いがどれほど希少なのか知っているかい」
高齢の魔法使い、希少。
(考えたことも無かった。だが思い返してみると私が対峙した魔法使いは、いっても30、40程だったか。ジレイオンのような高齢の魔法使いは見たことも無い…)
「知らない。だがあんたのような歳をいってる魔法使いは殆ど、というか見たこともないのは確かだ」
「ふむ。ならば問いてみるかな。何故高齢の魔法使いはその数が希少であると思う、理由を想像してみてくれないかね?」
「理由…か」
「ヒントを少し言うよ。決して魔法による代償というわけではない。分かったかな?」
老紳士は、あの感情を見せぬ表情から少しおどけたような顔を作り、空気を緩和させてみせる。
だが、ローマリとしては何故かこの問題を軽く考えてはいけない、そう強く感じずにはいられないのであった。
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