第41話抜剣
「下等:消足」「下等:開放解錠」「下等:軽足」
その場その場にあった魔術を行使ながら、奴隷となった村人と接触し、魔法使いに気づかれないように逃していく。
一人目、二人目、三人目…。
これまでの経験を活かしながら順調に工作行動をする。
昔、父上やお姉ちゃんにあれほど教えを受けたはずなのに、結局出来るようになったのはこの程度の下等魔術ばかりだ。
何をやってもダメダメな僕に父上は、怒り呆れ悲しむ。
あの人の負の感情全てぶつけて僕を嫌った。
(だめな僕にお姉ちゃんだけが対等に接してくれた…。それが心の底から嬉しかったんだよなぁ)
お姉ちゃんの事を思うだけで胸の内がポカポカと暖かくなる。
さらにはお姉ちゃんは、軍人としても凄かった。
東のミナス、西のカンナと呼ばれるほどに、二人は同期の軍人や高級士官達から一目を置かれるほどの存在であった。
家の中では優しく、家の外では格好いい。
まさに理想的な姉とも言える。
そんな姉の最期は…。
「苦しいよ、お姉ちゃん…」
「そこにいるのは誰だ!」
「あ!」
突如意識外から声が聞こえ、僕は動揺をしてしまう。
それが致命的なミスへと繋がる。
「…声がしたな!やはり誰かいるのだな!」
(や、やらかした!)
魔法使いは確信を得たようで、こちらへと向かう足音がどんどん大きくなる。
「…」
ちょうど最後の一人となった村人は、僕の後ろで不安そうに見つめている。
僕が動揺さえしなければこんな顔にさせる必要は無かった。
(僕はなんて駄目な奴なんだ…!)
真っ黒な色をした自己嫌悪が心臓を縛っていく。
(このまま行けばこの人を安全に逃がした後で、準備を整え、魔法使いたちに挑めたはずだ)
上手く事が進めば、より任務成功度を高められた。悔いても悔いても足らぬほどの馬鹿なミス。
特捜室やこの村の命運全てを背負い込んだ任務なはずなのに、何故集中しきれなかったのか。
あの時の痛みや苦しみはいつだって僕から消えることはないのだと、思い知らされてしまう。
「そこを動くなよ!余計な事をすれば命の保証は無いと思え」
敵は、牽制めいた言葉を上げながらこちらに進んできている。
ここは、入り口の近くにある個室だ。この部屋を出れば廊下にいる奴にすぐさま僕たちの所在はバレて、殺されてしまうかもしれない。
僕は、仲間がいる状況ではあの力を使えない。だから彼女だけでも逃したいのだが、それはかなり厳しいものがある。
「これはやばいかも…」
白髪の村人や今も一人で待っているあの少女の思いを背負ってここにいるのに、力も使えないまま作戦が頓挫じゃあの世でも合わせる顔はない。
「あだ…」
急に間抜けな声が廊下の外から漏れてきた。
「あだ、あだ…。がぁー、石を投げてる奴はだれだぁ!!!!」
また間抜けな声が2発聞こえたと思ったら、唐突に怒号が繰り出された。
「この声はさっきの魔法使いだよな…」
何かが、起きているのだ。
少しでも状況を認識するために、音を立てないように扉を開け、顔を覗かせた。
そこには、少し遠くに青筋を立てた魔法使いがきょろきょろと辺りを見回していた。
(石を投げた犯人を探しているのか…。ならそれをしたのは…)
考えられるのは…先程逃した村人の誰かだろう。
きっとこの危機的状況に勘づいて、文字通り一石を投じたというわけか。
それなら、モタモタしている暇は無い。
「今、あの魔法使いは怒りで周りがよく見えていない。だから僕の合図の後に全力でここから逃亡して欲しい」
「…」
心配そうな表情を浮かべながらもどうやら同意したようだ。
気持ちを聞き取る事が出来ないから、これに対して僕は信用するしかない。
(本当にこの「言葉を発せない」っていう魔法は嫌らしい策だよ)
敵に対して愚痴ろうと僕の過ちをもみ消してくれる訳ではない。
ならば、村人の誰かが作ってくれたこの好機を最大限活かそう。それが最善だ。
「3、2、1」
魔法使いが、大きく後ろを振り返ろうとした時に合わせてカウントダウンを始めた。少しでもタイミングを外さないためだ。
そして、魔法使いは大きく後ろを振り向き死角が生まれた。
「0!」
僕が合図を出した瞬間に彼女は、一寸の狂いもないタイミングで駆け出す。どうやら運動神経は良いタイプのようで助かった。
「な、なんだ!?」
彼女の足音に気づいたのかこちらに視線を向けてくる。彼女が外に出るまでまだ距離があった。
(な、なんとかしなきゃ)
少しでも僕たちの生存確率を上げるために僕は、
「全員ここから逃げろぉぉぉぉぉ!!!」
叫ぶ。思いっきり盛大に。
「は、はぁ!?」
魔法使いはなんともお馬鹿そうな顔を披露しているのがちょっと小気味よい。
「侵入者か!」「一体何があった!」
ぞろぞろと魔法使いが出てきた。
それはそうだろう。あんな叫べば誰だって気がつく。
だが、それで良いんだ。
僕が叫んだことであいつらに大きな隙を生ませた。これであの女性も無事に逃げられ、どこかで石を投げた村人もこの場から離れられただろう。
そして、
「やっとこの力を使える」
僕は、腰元の剣の柄を掴む。次に、抜剣だ。
「あ、あいつを殺れぇー」「あ、ああ!」
他よりも先に集まった二人と、先程石をぶつけられた一人が手を向け、魔法を繰り出そうとしている。
「後は頼んだよ、お姉ちゃん」
「ブレイガ!」「アイズ」「イーフェル!」
魔法により、炎、氷、蔦の塊が召喚され、驚異的なスピードで発射される。
「魔等:魔神炎帝」
だがもう遅い。
剣の鞘から溢れ出す程、大量の炎が意思を持ったように動き出し、敵の魔法を一瞬のうちに蒸発させた。
「早く終わらせよう」
そんな自分の声とは思えないような低い声が遠くから聞こえてくる。それはとても心地よく僕は安堵しながら、静かに意識を手放した。
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