第35話幕間:カーマ

 私は仮面を被っている。


 己を隠すための仮の顔。


 二年前あの人に出会って全てを知ってしまった。そんな私がクーの前で平然を保つのは難しいと判断し、この少し距離を取った態度をするようにしたのだ。


 以前、クーと互いをさらけ出して和解したことがあった。


 だがあれもまた仮面。


 あの時、流した涙も結局は演技だ。いや、私はきっとクーと話していた内容に、泣いたのではない。この冷徹な現実に悲観して泣いていた気がする。


「貴方と対等に」


 どこが対等と言えるだろうか。


 嘘に嘘を塗り固めて作った仮面を被った私が、喋って良い台詞じゃない。


 いつかこの仮面を外す事はあるのだろうか。


 それはきっとクーが強くなった時だろう、と直感的に感じる。


 クーが自分を理解した時、己は何に構成されて生きてきたのか、本当の自分を意識した時にきっと私達は対等になれる気がする。


 ただ…。それがクーにも私にも最適の未来とは言えないけど。



「ねぇ、クー」


 呼びかけてみるが反応はしない。きっと彼は、元気になるために頑張っているのだ。

 そのために今は寝ている。


「君は、本当に世話の焼ける幼馴染みだね。昔からずぅっと弱いまま」


 どうせ聞かれることはないと、本音が漏れてしまう。


 大丈夫だ。周りには誰もいない。


「でもね、それでいいんだよ。弱くても」


 慈しむように髪を撫でる。髪質が柔らかいからかこのまま撫でていたくなる。


「弱いって悪いことじゃないから。君だって私が弱い事に悩んでるように見えているんだよね。それに対して複雑な顔をいつもしてる」


「それって、弱いことは悪いことじゃないって理解してるから。だからさ、このまま人生を歩んでいこう」


「いつかきっとこの世界は終わっちゃう。それまでこのおままごとをしていよう?」


 本当は、敬語だって辞めたい。昔のように馬鹿な事を言い合って遊んでいたい。


 私の天才発言にクーはげんなりしたり、クーの魔法最高発言に私が突っ込んだり。


 きっと何も生産性はない。ただの馬鹿な話。そんな生活をずっとしていたい。


「私は弱くて道化な軍人を、クーは強くてヒーローみたいな軍人を。あんまりにもチグバクなコンビだけど、きっと楽しいおままごとになるよ」


 昔と比べちゃうと少し物足りないけど…。それでも楽しい日常なはずだ。


 私の立ち位置が、あんまりにも情けないのはムカつくけど仕方ない。下手にクーの前で自我を出しちゃうと全てを吐き出したくなっちゃうもん。


 戦闘とかは天才的だけど、あんまりメンタルは強くないのは知っているんだ。


 油断ちゃうとすぐ泣いちゃうのは私の悪い癖。我慢我慢、と。


「だからさ、あんまり無理しないでね。クーは弱いんだもん。自分の出来る程度でヒーローを演じようよ」


 私はおもむろにクーの小指と私の小指を絡める。


「指切りげんまん。いつまでもこの楽しい楽しいおままごとを続けーる。破ったら重力で圧死」



 そして、指を切った。


「約束だよ、クー」

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