第34話ミナスの溜息
「さて、君たちに相談があってね、こうして集まってもらった」
オレとカーマ、ローマリ、ミナス中将ことボスは、会議室で長椅子を挟んで、パイプ椅子に座っていた。どうやらノイ先生は、クーナレドの治療を行っており手を離せないらしい。
やや間があってから、ボスは語りだした。
「ガイガ・アレキサンドル中将から通告を受けた。クーナレド君の命令違反に対し罰として、特捜室で5日以内に指定する二つの最難関任務を達成しろ、との内容だ」
ボスは、一息置いて話を続ける。
「で、仮にこの任務を片方でも達成出来なければ特捜室を強制的に解散させるらしい。さらにだ、すでにこの通告は大将の許可も得ているから撤回の要請も出来ない」
ボスから語られるその内容はあまりにも理不尽なものであるのは、オレでも理解できた。
最難関任務、5日以内、特捜室の解散。
どれも聞き逃してはならないほど重要なものだ。
会議室にいる誰もが、言葉を失っているのが分かる。自分なりに理解をしようとしているのが、考えれば考えるほどその絶望的な通告が頭を混乱させる。
そんな最中、最初に反応をしたのはカーマだった。
彼女は、勢いよく立ち上がるとボスに食って掛かった。
「な…なんなんですか、それは!意味が分かりません!アレキサンドル中将という人間は、クーにあれ程の怪我を負わせておいてまだ満足しないんですか!」
横にいるカーマを見ると、頬を伝う雫が目に映った。
「カーマ君」
ピシャリと一言。ボスは名前を呼んだ。
その一言によって、より場が引き締まる。
「すみません。声を荒げてしまい…」
ボスに諌められたと感じたカーマは、袖を目元を拭うとともに、力無く椅子に座った。
「こちらこそごめんよ。少し強めの声質を使ってしまった。私もカーマ君と同様苛立ってるみたいだ」
「室長…」
カーマもボスの気持ちを汲んだようなのか、また感情を剥き出しにするような事もなく静かに呟いた。
「あの、いいですか?」
次に、発言したのはローマリだった。頼りげない様子でおずおずと手を挙げた。
「なんだい、ローマリ君」
「はい。最難関任務を二つという話なんですけど…。僕とミナス室長、ノイ先生がいるんだったら5日以内の条件でも達成出来そうだな、と思って。あはは」
とんでもなくなよなよした口調だが、語る内容はとても大層なもので、思わずローマリの方を凝視してしまう。
「ローメリって強いの?」
思わず聞かれぬように囁やき声でカーマに問いかけた。
「どう…でしょうか。ローマリ少佐とはそれほど親交が深くなくて」
「あんまり強そうには見えないんだけど」
「ど、同感…」
オレの感想にカーマも同意してくれた。だよな。
「君たち聞こえてるよ!失礼過ぎだよ、これでも少佐だからね?」
「うわ、聞かれてた」
「意外にヒソヒソ声は部屋中に通るものなの」
「ごめんなさい」
「うん、よろしい」
ローマリは、誇張気味の演技で偉そうな態度を取っていた。
こういう雰囲気だから強そうには見えないんだよな。
「こほんこほん、質問に答えてもいいかな?」
ボスはわざとらしく咳払いをし、こちらに注意を向けた。
「は、はい。お願いします」
ローマリは、慌てたように体をボスの方へと向ける。
「実は、私は二日後に行われる最高戦力定例会に参加しなければならない。これには、中将以上の参加が必須なんだ。さらに、ノイ君はクーナレド君の様態を常時診なければならない。万が一が考えられるからね」
「なるほど…。なんというか、アレキサンドル中将は、そういったことを含めて条件を提示したように思えちゃいますね」
「下衆め…」
ローマリとボスのやり取りを聞いたカーマは、ぽつりと言葉を漏らす。
カーマの口は悪いが、全くひどい話であるとは感じてしまう。
ノイ先生とボスが任務に参加できないのは大きな痛手だ。
「あ、西園寺さんはどうですか?」
「彼女は、ちょっと別の用事があってね。今頃は、西の国に向かって遠距離運転中だ」
「…本当最悪な状況ですね」
西園寺さんというのは、会ったことはないがボスから話だけは聞いていた。その人の手助けも無理なのか。
なら次に出来る事は。
「あ、あの!私が行きます!」
「…だよね。君ならそう言うと思った」
当然、白羽の矢が立つのはカーマとなるだろう。
「オレもカーマの力になります!」
ならば、オレも声を上げるのは必然的。
「うん」
ボスは、すぐに返事をすることはなく、目を閉じた。そして、腕を組み息を大きく吐く。
これは、ボスの癖のようだ。何か思考を巡らす時は、いつもこれを行う。ただ、普段と少し違いがあった。
あまりにも息を吐く時間が長い。
それほどに苦渋の決断をしていることが伺える。
「うん」
ついにボスは、息を吐き気終えた。
「分かった。では、これより特捜室に任務内容を伝える。しかとご静聴願おうか」
「はい!」
みんなの声が合わさり、威勢の良い返事が部屋中に響き渡るのであった。
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