第33話ホムンクルスのリア
「記憶は?」
「ホムンクルスになる前の記憶は全く思い出せない」
「体の調子は?」
「元気」
「魔術回路に異変は?」
「さっき試したけどちゃんと動いた」
「よし、定期検査終わり」
「はい」
エンテイ遺跡から外の世界に一歩を踏む出した日から一週間が経過した。
今日も今日とて、ノイ先生に検査を受けていた。
「この検査いつまでやるんだ?」
「とりあえず後一週間ほどはやるぞ。ホムンクルスなんて前例もない存在なんだ。何かちょっとした事が暴走の引き金になる可能性がある。だから用心が必要となるのだ」
「あと一週間。…わっかりましたー」
「嫌な顔するな。ノイだってちょっとめんどいんだよ、お互い様だ」
「はーい」
「やれやれ。じゃ、これからクーナレドの様子も見てくる。くれぐれも無茶はするなよ」
「うん、いってらっしゃい」
ああ、とノイ先生は短く返事すると、クーナレドがいる集中治療室にノロノロと向かった。
「クーナレド、大丈夫かな…」
「信じましょう。少尉はきっと目を覚ましてくれますよ」
「え。…カーマ、いたんだ」
「たまたまリアちゃんを見つけたので来ちゃいました」
「そっか」
どうしても顔に影がかかる。
クーナレドは、あれからずっと治療を受けているが眠ったままだった。
「そんなに悲しそうな顔をしないで。少尉はまだ死んでしまった訳じゃないんですから」
「分かってる。でも…」
もしもの事を考えてしまう。最悪のシナリオを想像してしまう。
クーナレドが死んでしまったら、「ありがとう」って言葉をずっと伝えられない。
オレは生きてるって教えられない。
そんなの嫌だ。
「大体アレキサンドル中将って人、あんまりにも非道すぎますよね。他の軍人から聞いた話だと、上等クラスの魔術を使ったとか。ありえないです」
「上等ってそんなに凄いのか?」
どうにも常識として理解している部分と、失われた記憶との誤差が大きく、所々分からない事が多い。
確か、これもホムンクルスの構造が原因だとノイ先生から説明されてたっけ。
『研究所の調査から新たな発見がなされ、これまで予想されていたホムンクルスの製造方法との乖離が判明したんだ』
こんな前口上の後に続いて
『奴らは、薬漬けにより植物状態と化した少女の体に魔術的改造を行った。そして、その少女の魂にまた別の少女の魂を癒着させる。これが最もホムンクルスを製造させる方法として完成されたものらしい』
なんて長々と語っていた。あまりよく分からなかった。
『なぜこんな回りくどい方法をしたのかは、明らかになっていないが、大方この方法でしかホムンクルスという存在を成り立たせる方法が無かったのだろう』
『故に君は、2つの魂が融合した状態にあるので、二人の記憶を有している事になる』
『それらの魂や記憶が複雑難解に混ざりあった結果、人格が破綻しないように、2つの記憶は封印されることになった。ただ記録関連、知識などは、どうやら危険と判断されず残ってるようだ』
さらに、クドクドと説明された。
結局言いたいことを纏めると、「リアとはまた違う人間の記憶が2つあって、それがあると都合が悪い。だから、常識とかはあっても人格に関わる部分は思い出さないようになってる」ってことらしい。
自分で簡単にまとめようとしたが長くなった。まあいいや。
とにかく、この記憶と記録(知識)は、上手く切り分けられずに記憶の封印に巻き込まれ、いくつかの知識が欠如しているらしい。
「あんまり魔術に関しての知識が無くて、わかんないんだよね」
そういう訳だ。上等とか、階級とかホント思い出せない。
「なるほど。えっと、説明するとね。上等魔術は、当たりどころが悪いと、一撃で人間を殺害出来てしまう程危険なものなんです」
「ええぇ!?そんな危ない術でクーナレドを攻撃するとか最低だ!」
「そーゆーことなんです!本当にもう、中将といえど報復したい限りです!」
カーマは、怒りが収まらないのか顔を真っ赤にしてブツブツと喋っていた。
「…クーに。あんまりだ。ひどすぎる、ありえない……もう殺すしか」
(うわっ、下を向いてなんか独り言を言ってる。…なんか物騒な言葉まで聞こえた)
「すみません、ちょっと用事を思い出しました。少し危険因子の排除を…」
「待って待って待って!オブジェクトとりだして何処行くつもりなんだよ!」
「離してください!私にはやることが!」
「力つよっ!カーマさん!?」
必死でカーマの腰を掴んで抑えているのに、徐々に引きづられていく。
気持ちは分かるけども、この人、思ったより過激派過ぎだ。
「何してんの、君たち…」
「「え」」
声をかけられ、二人して間抜けな声を出してしまう。
二人で振り返ると、そこには我らがボスであるミナス中将がいた。
「ちょっと皆に話があるんだ、今から5分後に会議室に集合してくれ」
「「はい…」」
そう言い残して、ミナス中将は去っていった。
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