第27話大きな一歩
タッタッタといった、足音が、徐々に大きく木霊こだましていく。
そして、限界まで反響したと思ったら音は止んだ。次にまた、扉が開かれる。
オレはヒーローとともに静かに時を待っていた。この扉を開けた主によっては天国にも地獄にもなってしまうだろう。
だがオレは何も出来ない、してはいけない。
今は眠っているヒーローが、声を発するな、と言ってくれた。守ろう。
「クーナレド…、クーナレド!だ、大丈夫か?!」
部屋に入ってきた男は、ヒーローのことを見つけると、叫びに似た声で出しながら駆け寄った。
「この傷は中将に受けたものか…。やべえ血が半端なく流れてやがる」
男はヒーローのことを心配をしている。
ヒーローのことをクーナレドと呼んでいる。きっとその言葉が彼を指し示すのだろう。
「落ち着け、落ち着くんだ、カルマリ・ピェンサー。……まだ息はしてる。生きてるんだ。とりあえず止血しなきゃ!」
自分で自分を落ち着かせ、ヒーロー…、クーナレドの容態を確認し、手を震わせながら白い布を取り出している。
あ、布を地面に落とした。何度も空振りしながらも落ちた布を拾い、なんとかクーナレドを手当している。
「お、落ち着け、落ち着け。今、で、できることは血を止めるんだ。布で抑えて少しでもなんとかしなきゃ」
舌も上手く回っていないか、すらすらと発声できていない。
「俺がなんとかしなくちゃ。クーナレドは一人だけ立ち向かった。俺には出来なかった。こいつは、凄いやつなんだ。ここで死なせるわけにはいかないんだ!」
必死だ。彼は必死だ。クーナレドを救うために最善を尽くそうとしている。
逆にオレはなにをしている。ただこのよくわからない何本ものパイプに繋がれてそれに支えられて生きているだけだ。
確かに、クーナレドには静かにしていろと言われたが本当にそれだけで良いのだろうか。
この目の前のオレのヒーローを助けようとしている彼は、きっといい人に違いない。
ならば、オレも彼の手助けをするべきだ。
いまのオレには意志がある。
ヒーローなら自分の意志で暗黒の現実を変えるために頑張らなければならないんだ!
「あ、あの!」
「え!?」
彼はオレの突然の呼び掛けに驚き、目を丸くした。
「あなたはクーナレドの味方か?」
「あ…ああ。そうだ。あんたは?」
「オレも味方だ」
「そ、そうなのか…」
突然の出来事に驚いているようで手元が止まっていた。それはまずい。
「血…。クーナレドの血を止めて!」
「やば!」
すぐに彼は作業を始めた。よかった、少しでもクーナレドが生きていられるようにしなきゃ。
「なぁ、あんたは広間にいた人形と同じ存在なのか?」
手を止めずに、彼はオレに問いかけてきた。
人形…。
きっとあの人たちのことだ。前までは同じではあった。ただ、世話をされ体をいじられ、己で考えることをしない人たち。
「オレはリアだ。ヒーローなんだ。昔は同じだったかもしれないが今は違う。意思があるんだ」
「そうか。だと思ったぜ」
「分かるのか?」
「さっき初めて会った瞬間ピンときたぜ。リアは生きている、ってな。俺やクーナレドとおんなじように」
嬉しかった。そうか、オレは生きているのか。
クーナレドの願いを一つ叶えられそうだ。
「じゃあこれからはオレとあなた…えーと名前は?」
「カルマリ・ピェンサーだ。カルマリと呼んでくれ。俺もリアって呼ぶからさ」
「わかった。オレとカルマリは味方だ。だから二人でクーナレドを助けよう!」
「了解!」
そんな会話をし終えた丁度そのタイミングで、布をクーナレドに巻き付け、簡易的な手当を完了させたようだった。
「もうあっちには敵はいないのか?」
オレは扉の先、多くの人たちがいた部屋を目掛けて指を指した。
「もういないはずだ。作戦は成功した、と判断して早々に撤去した」
「そうか。ならクーナレドを連れて外に行こう」
「だが、輸送車はもう出ちまったんだ。ここは村からも遠いから治療が間に合わない…」
大丈夫だ。クーナレドはローマリと叫べばいいと教えてくれた。それがきっと何か状況を打開する手立てとなるのだと、信じている。
「クーナレドがローマリと叫べって。そしたら、助けが来るって言ってた」
「他にも仲間がいたのか…?やっぱりアイツ事情持ちだったか」
カルマリは、ブツブツと独り言を言う。何かしら考えを整理しているのだろう。
「ほらよ、これを羽織っておけ。外は寒いから」
突然、オレに彼の上着を被せてきた。
オレの服を見た。薄手の白いワンピース。確かに寒いかも。
「ありがとう」
「おう」
おっと、こんなところでモタモタしてはいられない。繋がれたパイプを無理やり抜く。これでオレは自由に動ける。
「それ取れたのか…」
カルマリは少し引き気味だった。
理解できる。普通に考えて、こんなのに繋がれているのは、気持ち悪いもんな。しかも簡単に取っていいのかよって思うはずだ。
まあオレとしても取っていいのか分からないけど。今動けているし大丈夫。
「なんかいけた」
「はは、適当な奴だ。よし、いくぞ!」
「分かった!」
カルマリは、慎重にクーナレドを後ろにおぶった。
さあ、出よう。外へ。
オレとしては初めての外だ。
怖い、でも進まなきゃ。これからがオレのヒーロー物語なんだから。
そして、オレはオレとしての一歩を力強く踏んだのであった。
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